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街で唯一の開放感~なぜマンハッタンの練習レンジはいつも混んでいるのか?

2017/10/11 05:00:00

エンパイアステートビル(写真左奥)とチェ
エンパイアステートビル(写真左奥)とチェルシー埠頭練習レンジの打席 (Welch Nathaniel/米ゴルフダイジェスト誌) 【拡大写真】

稲妻が閃光を発し、雷鳴はとどろき、バケツをひっくり返したような豪雨が降りしきる、いわゆる“この世の終わり”的な夏の嵐がマンハッタンを襲った。たとえ傘があったとしても、外へ出れば一瞬でずぶ濡れだ。タクシーを拾う?ハハハ、見込みはないね。

しかしそんなときですら、チェルシー埠頭練習レンジは、定員70人の女子会ナイトイベントも含めて満席だった。みんなが屋根付きの打席からレンジへ向かってボールを打っている。なかには巡回するティーチングプロから教えを受ける者もいれば、階上のパーティー用打席でシミュレーターを使い、飲みながらドラコンを競い合っている一団もいる。

これはあくまでも、チェルシー埠頭練習レンジのいつもの月曜の夜の光景に過ぎず、ここは荒天であっても客足が鈍ることはないのである。

そう、吹雪のさなかにでもやって来たのなら、全52打席のひとつに入るのに、さして時間はかからないだろう。しかし、そんな状況でもなければ、ここチェルシー埠頭のゴルフクラブは、いつも混雑している。マンハッタンの11番街沿いにあるこの場所には、毎年およそ35万人が来場していると言われ、毎年1700万球のボールが打たれ、16,500時間以上のゴルフレッスンが行われているのである。

これらの数字は、全米ゴルフレンジ協会が毎年報告している、“独立型(ゴルフコースなどの併設でない)”レンジのベスト50にランクインした施設と比較すると、そのすごさが分かる。これら有数のレンジの平均的な数値は、チェルシー埠頭の数値の半分にも満たないのである。繰り返しになるが、比較対象は合衆国最高レベルの練習レンジである。「チェルシー埠頭は他のみんなを吹き飛ばしてしまうんだ」とは、前出のレンジ協会で事務局長を務めるパトリック・チェリーの言葉だ。「あそこは他とはかけ離れている」。

何が魅力なのか? 確かにいい練習レンジだ。それなりに清潔だし、ボールも十分いい状態にある。ショットを打つ度に自動的にボールがティアップされるので、そのために屈む必要もない。繁盛しているゴルフアカデミーがあり、そこにはいろいろな国籍の12人のインストラクターがいるほか、バンカーショット、チッピング、そしてパッティングの練習設備も整っている。

これらに加えて、ボールを打つ際には、ハドソン川とその向こう岸のニュージャージーが一望できる。「ここではとても信じ難い夕日が見られるの」と言うのは、2013年からヘッドプロとなっているマージョリー・ジョーンズだ。「自分のスマホでどれだけ写真を撮ったのか、数え切れないほどよ」。

しかし、需要と供給もモノを言っている。マンハッタンには160万人以上が生活しており、平日の通勤者や訪問者も含めると、その人口はおよそ400万人に膨れ上がる。そんな街で、ボールの飛球線を眺めたいとしたら、鳥かごレンジやシミュレーターにではなく、どこへ行けばいいのだろう? 答えはひとつ。チェルシー埠頭で逢いましょう、ということになる。   

ちなみにここでは、ピークの時間帯だと、30ドルで94球が打てる。そう、マンハッタン価格である。

誰と出くわすのか分からない

女子会ナイトに颯爽と登場したタクシードラ
女子会ナイトに颯爽と登場したタクシードライバー (Welch Nathaniel/米ゴルフダイジェスト誌) 【拡大写真】

総支配人のデビッド・ベルトレによると、客層の中核は、25歳から44歳のマンハッタン居住者とのこと。そのうち、4分の3は男性。しかし、従業員にとっても顧客にとっても、チェルシー埠頭での楽しみのひとつは、誰と出くわすのか分からないところだと言う。「典型的なゴルフウェアを着た人もいれば、パンクロックの格好をした人まで、色んな人が来るんです」と教えてくれたのは、ゴルフアカデミーの支配人のトム・ボップだ。「でも彼らはみんな、ゴルファーなんですよ」。

ジョーンズはこれまで、スポーツチームのオーナー、コンサートの主席バイオリニスト、有名オペラ歌手、卓球の一流選手、そして、引き取りたての子犬を連れ、レッスン中にその子犬を抱いていて欲しいと頼んだ女性などにゴルフを教えてきた。一度、容姿端麗の若者に教えたこともあったが、それは“世界ナンバー1の男性モデル”だった。「彼は私のことを奥様って呼んだのよ」。

従業員の一人に「ここで見たことのある有名人は?」と訊いたところ、「ジャスティン・ティンバーレイク、ロジャー・クレメンス、タイガー・ウッズロリー・マキロイ」という答えが返ってきた。

その同僚は、こう付け加えた。「ウィル・スミス、ダニー・デビート、ウィル・ファレル、マーク・ウォールバーグ、ラリー・デビッド、ニック・ファルドグレーム・マクドウェル、ジェームズ・スペイダー、マイケル・J・フォックス。これでまだ半分にも満たないよ。ドン・チードルも来たし、あとはマリオ・バターリに…」。彼の声は次第にフェードアウトしていった。

このレンジは、“チェルシーピアーズ・スポーツ&エンターテイメントコンプレックス”という複合開発地区の一部として、1995年に開場した。広さは28エーカー。あるいはウォーターフロント6区画分と言った方が分かりやすいかもしれない。

ちなみに、ちょっとしたこぼれ話だが、1912年に沈没したタイタニック号は、ここの埠頭にある桟橋のひとつを目指していたのである。

出し抜けにやってきた大冒険

チェルシー埠頭を建設したチームには、不動産開発に関する経験がほとんどなかった。当時の目的について、共同オーナーのトム・バーンスタインは、マンハッタン唯一の公共インドアスケートリンクで、施設のリース期限が切れた「スカイリンク」の新たな営業場所を探すことだったと説明した。

彼らはリンクの用地として、4600平方メートルほどのリースを考えていたが、州は誰であれ、統轄する者が敷地のすべてを入手するよう要求してきた。それは、9万3000平方メートルという広さだった。「欲しかった土地の20倍もの広さでした」とバーンスタイン。「我々にとってそれは、出し抜けにやってきた大冒険でした」。

バーンスタインと彼のパートナーのローランド・ベッツは、想像力を働かせることに慣れた映画プロデューサーだった。彼らの会社は「プリティ・ウーマン」や「リトル・マーメイド」など、多くのメガヒット映画をプロデュースしている。

「見回してみると、ニューヨークには、一流かつ最新鋭で最先端の運動施設がないという、大きな穴があることに気付きました」とバーンスタイン。「この広大な土地こそ、その穴を埋め、ニューヨーカーがこれまで切望しながらも、持っていなかったものを提供する機会だと思いました」。

しかし、みんながそれを賢いアイデアだと思ったわけではなかった。「当時のニューヨークの見識はこうだったのです。資金は集まらないだろうし、許可は下りないだろうし、建造されることもないだろうが、仮に建ったとしても、あのロケーションでは誰も来ないから話にならない」と、バーンスタインは当時を振り返った。

「当時、この場所はひどい有り様でした。有刺鉄線で囲まれ、安全ではありませんでした。市内の立ち入り禁止的な区域にファミリー向けのスポーツ、および娯楽施設を建てるという構想など、馬鹿げていると考えられていました」。

しかし、結局のところ、バーンスタインとベッツ、そして彼らの3番目のパートナーで、かつて不動産ブローカーだったデビッド・テュークスベリーの方が正しかったことが判明した。マンハッタンの人々はこういった施設に飢えていたのだ。次第に口コミで広がり、ゴルファーに加え、ジム通いの人々、ロッククライマー、アイススケーター、そしてテレビや映画のプロデューサーたちが11番街を目指すようになった。最近では、チェルシー埠頭の低からぬ貢献度もあって、ウォーターフロント全体が一大ブームとなっている。

地域の象徴みたいなもの

音楽を聴きながらリズミカルに練習しつつ、
音楽を聴きながらリズミカルに練習しつつ、ハドソン川を望む (Welch Nathaniel/米ゴルフダイジェスト誌) 【拡大写真】

高さ50mのネットがそびえるゴルフレンジは、コンプレックスの中で最も目を引く建造物で、走る車や船、さらには飛行機からも見つけることができる。「この地域の象徴みたいなものです」と、バーンスタインは位置付けた。しかしながら、ゴルフ関係のオペレーションは、この開発施設全体の歳入の5~10%ほどしか占めていない。

そんな事実も、経営コンサルタントのバーラット・ソウホニーのような人にとっては、たいしたことではない。彼は平日毎朝、自宅のあるマンハッタンのアッパーウエストサイドから地下鉄とバスを乗り継ぎ、35分かけてチェルシー埠頭へやって来て、仕事前に打ち込んでいる(彼は、さらにそこから地下鉄とバス乗り継ぎ、30分かけて仕事場のあるダウンタウンまで通勤している)。「これで目が覚めるのさ。新鮮な空気の中でボールを打つのは最高だね」とソウホニー。「正直、これは瞑想のようなものなんだ」。

金融アナリストのベッキー・バッファローもその一人だ。彼女はどんな天気であっても、週5日、朝になるとアッパーマンハッタンから地下鉄A路線に乗ってチェルシー埠頭へとやって来る。雪が降ると、彼女は手焼きのクッキーを携え、スタッフが出勤していることに対する感謝の意として、それを配る。

ところで彼女の友人や家族たちは、ニューヨーカーとして彼女のゴルフ中毒は、ちょっと普通じゃないと感じてはいないのだろうか?「もちろんみんな、まともじゃないと思っているわ」と彼女は語った。「他のことでも、マンハッタンならではの制限を受けたときは同じだと思うの。なんとかしてやろうと、頑張っちゃうのよ」。

文:ピーター・フィンチ
(米国ゴルフダイジェスト誌 2017年9月号掲載)

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