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3Dモデルでスイングの移り変わりを徹底分析! 石川遼が復活した理由

2019/10/22 17:27
石川遼のスイングを「アバター」化

4年ぶりの1シーズン複数回優勝を遂げて国内の賞金王争いに加わり、日本で初開催される今週の米ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」出場を果たすなど、復活を強く印象付けている石川遼。スイングの動きを分かりやすく表現するためGDOが開発したAI(人工知能)コンテンツ「スイングアバター」を使って、その進化に迫ってみた。背景や本人のルックスなど“動き”とは無関係な要素を除去した3Dモデルのスイング比較から、いったい何が見えてくるのだろうか?

比較するのは、国内で賞金王となった翌年の2010年、米ツアー本格参戦を開始した2013年、そして2019年現在の3モデルで、いずれも石川のスイングを再現した。解説するのは、国内男女ツアーで帯同トレーナーの経験を持つ菅原賢氏。フィジカルトレーナーの目には、体の使い方の変遷がどのように映るのか。(以下、菅原氏の解説)

「体重移動」から「軸回転」スイングへ変化

3つのスイングを比べてみると、2010年は全身を使って「とにかく大きく、速く振りたい」という体重移動主体のスイング、2013年は下半身の動きを極力抑えた「曲げない」スイング、2019年は軸をキープしながら深い捻転を使って「曲げずに飛ばす」スイングという印象を受けます。

後年ほど肩の回転が大きくなる

石川遼のスイングは、トップでの肩の回転角度が非常に大きい

石川選手のスイングの特徴は、トップ時に肩のラインが大きく回転できていることです。これは肩まわりの柔軟性に関係していて、肩甲骨や胸椎の可動域が非常に広い石川選手ならではの大きな回転角度ということができます。頭上からのアングルで見ると、2010年時点でも飛球線に対して90度以上回っていますが、後年になるほど回転角度が大きくなっていることが分かります。石川選手のスイングスピードを生む源泉と言えます。

足の使い方にも大きな違いが

「スイングアバター」ならではといえる地面からの視点に切りかえて比較すると、足の使い方に大きな変化があるのがよく分かります。2010年は両ひざの動きが大きく、足を使って大きく振っています。2013年は下半身の動きが最も少なく、2019年は軸がブレない範囲で自然に足を使ってスイングしています。では3つのスイングをそれぞれ見ていきましょう。

大きな体重移動を使ってとにかく速く(2010年)

2010年のスイングです。広いスタンス幅で構えて、テークバックでは右ひざが伸びて、右足の小指側に体重が乗るほど大きく体重移動しています。切り返しではトップで浮かせた左足かかとを踏み込むと同時に上半身を左にスライドさせ、体重移動を使って一気に振り抜いています。切り返しのタイミングも早く、クラブが上がり切る前に行うことで、テークバックの反動を最大限に使っています。とにかく速く振るために、体のすべての部分を使っているイメージです。

この時期のスイングで気になるのは、インパクト前に腰が突き出て前傾していた上半身が起きてしまうことと、弓なりのフィニッシュになっていることです。どちらも腰に負荷をかける動きといえ、いかにもケガのリスクと紙一重なスイングという印象です。

スイングアバターを飛球線後方アングルに切り替えて見てみると、アドレスとインパクトでどれくらい前傾角度が変化しているか、よく分かりますね。

極端な軸回転スイングを実践(2013年)

2013年は、体重移動を極力抑え、体の回転で打つことを意識しながらスイング改造を行っていたのではないでしょうか。スタンス幅もかなり狭くし、極端な「軸をブレさせないスイング」をしているようです。テークバックでは足の動きが非常に少なく、腰も最小限しか回転していません。体重移動が少なくなり、切り返しからダウンスイングにかけて上体が左へスライドする量もわずかです。

この時点ではまだダウンスイングで腰が突き出る動きが残っていて、インパクトで前傾角が少し浅くなっています。この動きをもっと抑えられれば、腰を回転しやすくなり、より安定したスイングになるのだろうと思います。

より自然な「曲げずに飛ばす」軸回転スイング(2019年)

2019年の石川選手は、よりナチュラルなスイングをしている印象です。スタンスを広げて、どっしりと重心を落とした構えに変わりました。スイング中はほどよく足を使いながらも、軸がブレずに安定していて、トップ時の肩のラインも、最も回転角度が大きくなっています。このように振るためには下半身や体幹の強化が不可欠で、トレーニングにかなりの時間を費やしてきたと推測できます。「軸キープ」と「捻転」を意識しながら、安定してスイングできる体づくりを行った結果、このスイングが出来上がったのでしょう。

体幹が強化されたことで、ダウンスイングでの腰が突き出る動きがなくなり、前傾角が保たれ、腰の回転もとてもスムーズになっています。

フィニッシュでの背中の反りが少なくなり、腰にかかる負荷も軽減しています

フィニッシュもクラブの勢いが抑えられるようになり、ちょうどいい位置に収まっていますね。

持ち前のスイングスピードに安定性が加わり、さらに腰への負荷も軽減している2019年現在のスイングは、過酷なツアーで長期にわたって活躍できる完成度へ近づいてきたと言えるのではないでしょうか。

■ 菅原 賢(すがわら・けん) プロフィール

1975年生、岩手県出身。パーソナルゴルフトレーナー。東京法科学院スポーツビジネス学科を卒業後、運動療法士などの資格を取得。国内男子ツアーの帯同トレーナーなどを経て、日本初となるゴルフ専門フィットネスクラブ「トータルゴルフフィットネス」を立ち上げた。現在も多くのプロゴルファーを指導している。