topics

渋野日向子のスイング改造 気になる飛距離ダウンを徹底分析

2021/03/31 11:45
スイング改造は吉か凶か? メジャー直前!緊急企画

オフから大幅なスイング改造に取り組む渋野日向子だが、前週「アクサレディス」での平均飛距離は236.8ydと、2019年の平均(248.21yd)を大幅に下回った。飛距離ダウンの要因と新スイングの狙いはどこにあるのか!? 「全英女子オープン」制覇直後のスイングと比較しながら、スイングコンサルタント・吉田洋一郎氏が解説する。

1.アドレス:前傾角度が浅めに

19年に比べてわずかに立ち気味のアドレス

微小な差ですが、現スイングは前傾が浅くなっています。19年は縦に近いプレーンだったものを横に動かし、垂直軸に対してその場でクルリと回る意図がうかがえます。

2.ハーフウェイバック:インサイドに引く

フェース面はどちらもやや下向きで一緒

19年に比べてインサイドにヘッドが上がっています。フェースの向きは同じままなので、意図的なインサイドワークということが分かります。

3.トップ:レイドオフの形に

現在のほうが右わきが締まって見える

19年と大きく違う点は、掌屈(しょうくつ)と呼ばれる手首を地面と平行に折る動きを取り、クラブがスイングプレーンより下側に傾くレイドオフの状態となっています。

4.ハーフウェイダウン:ヘッドが速く下りる!?

現在のほうがインサイドアウトの傾向がやや強め

19年よりシャフトが少し寝ながら下りています。手は同じ位置なのに、ヘッドが下りてくるタイミングが速いことが見て取れます。

5.フォロー:全く同じことが課題

前傾角度をキープしたままのフォローは同じ

フォローでは変化が見られません。トップまでの動きを大きく変えた割に、切り返し以降の動きに変化がない点が気になります。

DJ→ザック型へ 目指しているのは1プレーン

米男子ツアーの選手で例えるなら、19年はダスティン・ジョンソン、21年の現在はザック・ジョンソンのスイングに似ています。

以前はフェースをシャット(閉じた状態)に、クラブをアップライトに大きく振り上げ、切り返し以降でシャフトを少し寝かせながら下ろすことで、クラブに仕事をさせる動きを取っていました。現在は、垂直軸に対して横回転を行い、腕の動きと体の回転が同期したコンパクトなスイングに。同じ軌道でクラブを下ろす1プレーンのザック型となっています。体の軸を変えずに振り切ることで、安定感が増します。飛距離よりも方向性を重視したスイングといえます。

トップで掌屈している手首はDJと一緒(Ben Jared/PGA TOUR via Getty Images)

飛距離が落ちた要因は、ずばりバックスイングを変えたこと。フラットにクラブを上げ、低く小さなトップになれば、エネルギー量は小さくなります。フェースをシャットに動かす同じスイングでも、DJ型は飛距離が出ますが、ザック型は飛距離が出ない傾向にあります。

また現在は、1プレーンスイングにしたことで、リズムの取り方が変わり、安定感を欠いていることも考えられます。19年はゆったりクラブを動かし、クルッと力感を持って振り下ろしていたのに対し、現在のスイングではパパッとテンポを速くし、軸を動かさずに体重移動を極力抑えて打つ必要があります。試合中の特に緊張したシーンでは、全体のリズムを合わせるまでに至っていない状態と推測できます。

半年から一年がかりの大改造 目指すべきは〇〇型!

一流のプロでも、現時点のスイングに満足して「もう変える所はない」と思っている選手はいません。常に微修正しながら、試行錯誤を繰り返している選手が大半です。ただ、今回の渋野選手の場合は、“大改造”といえるほどの大胆なマイナーチェンジ。一般的に考えても、完成までには早くて半年から一年。短期間での習得は、なかなか難しい内容といえるでしょう。

改造中のまま海外メジャー初戦「ANAインスピレーション」を迎える

ただし、現状取り組んでいるレイドオフのトップは、ヘッドをシャローに下ろしやすく、パッシブトルク(ダウンスイング時にフェースを閉じる動きを、筋肉の反作用を利用して受動的=パッシブに行うこと)を使えるメリットがあります。このままの形をできるだけ変えずに飛距離を取り戻すためには、ジョン・ラーム選手のようにスイングテンポを速め、下半身の動きをより大胆に動かしてエネルギーを生む形を目指すと良いと思います。ラーム型を手本に、彼女のさらなる進化を期待します。

■ 吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう) プロフィール

1978年生まれ、北海道出身。海外のスイング理論に精通するゴルフスイングコンサルタント。D.レッドベターを2度にわたり日本へ招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。世界各地で最新理論の収集と研究活動を積極的に行っている。オフィシャルブログ