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連動感と1軸ストローク 松山英樹「マスターズ」Vに貢献したパット考察

2021/04/14 11:45
オーガスタの高速グリーンを攻略した松山英樹(Jared C. Tilton/Getty Images)

単独首位で迎えた「マスターズ」最終日、松山英樹ウィル・ザラトリスザンダー・シャウフェレら後続の追撃を1打差で見事にかわしてみせた。勝因のひとつに挙げられるのは、大会4日間の平均パット数で10位タイを記録(1.58)したパッティングの安定感だろう。パターレッスン専用スタジオ「パットラボ」を主宰する大本研太郎氏が、「ショットとの連動がうまく取れていた」と語る松山のパットについて考察する。 (以下、大本氏の解説)

■2020年から取り組んだ1軸の動きと曲線イメージ

ショットとパッティングは似て非なるもので、どちらかが調子が良すぎると、どちらかが悪くなりやすいもの。18ホールを均等の調子で回りきるには、連動感やバランスといった相互関係をうまくコントロールする必要があります。松山選手の今大会の勝因は、ショットのリズムの良さが、パッティングを良い方向に引き込んだ点ではないかと思っています。

以前はがっちりと低重心の構えだった ※画像は2017年「全英オープン」

これまで松山選手のパッティングは、ワイドスタンスで足腰をがっちり固めた安定型ストロークでした。体の軸がブレにくい安定感を生むメリットがある一方で、下半身の意識が強くなると、どうしても上半身の意識は薄れ、固まったり緩みやすくなるデメリットが考えられます。特に『入れたい』という気持ちが強くなるショートパットでは、両腕を含む上半身が緩みやすくなります。

新任の目澤秀憲コーチの助言でしょうか。今大会での松山選手は、パッティング時の上半身と下半身の出力バランスが、常に均等に保たれていたようにうかがえます。昨年から取り組んでいた体の軸を左足寄りに置く構え方が、1軸の動きを取ることで、スタンス幅を広く取ったまま、曲線のイメージでストロークすることができるようになっていました。

最終日の序盤で難しい距離のパットをねじ込む松山(Jared C. Tilton/Getty Images)

パッティングもショットもヘッドの動きを統一することで、安定感は増します。パッティングで直線的な動きをしているのに、ショットで曲線的な動きをしていると、どちらかの調子は容易に崩れてしまうものです。今大会の松山選手は、パッティングもショットも同じ曲線的な動きが取れていました。どちらも同じヘッドの入り方、同じリズムで打てていたことで、再現性がアップし、結果につながったのだと推測できます。

左足に軸を置いた構えだけがクローズアップされがちですが、単に1軸ストロークが功を奏したわけではなく、ショットとの相互関係を考慮し、うまく歯車を合わせられたことが、4日間を通して好調なパットを維持できた一番の要素です。

■クセを直すのではなくクセを利用する

好調なパットを支えたのはショットとの連動感(Mike Ehrmann/Getty Images)

最後に大本氏は、「人間の体と脳はいくつも同じ動きはできません。どれだけ愚直に自分のクセと向き合えるか。クセを直すのではなくクセを利用する。ストロークのイメージはそのまま維持しつつ、松山選手はうまくクセを利用したのだと思います」と締めくくった。

ショットとパッティングの連動、上半身と下半身のバランス、ヘッド軌道のイメージ――。大本氏の考察を聞く限り、スイングもパットのストロークも、14本すべてのつながりが重要であることを、松山が大舞台で実証してみせたと言えるだろう。

■ 大本研太郎(おおもと・けんたろう) プロフィール

1974年生まれ、PGAティーチングプロA級。株式会社スポーツラボ代表として、2012年パターレッスン専用スタジオ「パットラボ」、13年「GPC恵比寿」を開設。スコアメイクに重要なショートゲーム改善の研究を進め、特に重要性の高いパッティング指導に力を入れる。最近では東浩子臼井麗香らのコーチも務める。