「ゴルフ練習場やめました」――50周年で下した“攻め”の決断
ひとりで黙々とボールを打つ練習施設から、仲間や家族と楽しむ空間へ。茨城県のゴルフ練習場が創業50年を機に、ゴルフ&エンターテインメント空間へと生まれ変わる決断を下し、地域や業界の注目を集めている。各地のゴルフ練習場は昨年から、週末には順番待ちができるほどの活況ぶり。「世界的に空前のゴルフブームが巻き起こっている」ともされている中でナゼなのか? 4月24日(土)にオープンする「ROYAL GREEN Mito」(茨城県水戸市)を訪ねた。
従来の練習場とは一線を画す空間作り
『ゴルフ練習場をやめました』。公式ホームページにそんなキャッチフレーズを掲げた施設は、確かにこれまでの練習場とは明確に一線を画す空間だった。
通常なら2打席を確保できるスペースに、ゆったりとひとつの打席を配置し、その後方には、毛足の長い人工芝の上にくつろげるソファーを据えたレイアウト。パートナーや友人と代わるがわるに打つことができる各打席ブースは、米国を中心に海外で広く若者に支持され始めたエンタメゴルフ施設『トップゴルフ』を彷彿(ほうふつ)とさせる。
各打席には、全ショットの軌道や飛距離を設置モニターで確認しながら練習ができる最新の打球追跡システム「トップトレーサー・レンジ」を導入している。家族や仲間と、距離やスコアを争えるバラエティ豊かな対戦モードが用意されているため、初心者でもゲーム感覚(実際のゲームも!)で自分の手応えと結果のギャップを楽しみながら、ゴルフに親しんでいくことができる。
ほかにも、赤と白のスタイリッシュなシートが印象的な女性専用ゾーンや仲間とワイワイ楽しめるパーティ打席など、ゴルフボールを打つ楽しさだけではない「+α」のワクワクが刺激される要素が盛りだくさんだ。
『ゴルフ練習場をやめました』に至った経緯
同施設を運営する株式会社ウィルトラスト(水戸市)の礒崎博文社長は、24日のグランドオープンを前に最終確認に余念がない様子だった。「ゴルファーを増やすにはどうしたらいいのか? 会社を経営する上でどんな社会貢献ができるのか? ずっと考えてきました。茨城県は『魅力度ランキング』で下位の常連ですが、ゴルフの市場規模では全国トップクラスです。ゴルフで地域経済にイノベーションを起こせないかと考えました」。今回のリニューアルは、入念に練り上げてきたプランの実現。もちろん口調は熱く、力強くなる。
礒崎氏が叔父から練習場経営を引き継いだのは8年前。以来、施設を利用するさまざまなゴルファーと日々向き合う中で、「ただゴルフの練習環境を提供するのではなく、お客様が感動する練習環境を提供できないか?」と本質の追求を続けてきたという。たどり着いたのは、リラックスできる空間と、ゴルフができるスペースの共存。それが礒崎氏の頭に明確になっていった練習場の新しいカタチだった。
『ゴルフ練習場をやめました』という一見すると驚くようなキャッチフレーズは、ゴルフを楽しむ環境の理想を突き詰めればこそ、誤解を恐れることなく切り出せた言葉でもある。
地元に愛され、地元を発信するゴルフ施設へ
リラックスできる雰囲気や、打った球の弾道をデータやグラフィックで一球ごとに打席で確認できるトップトレーサー・レンジの最新テクノロジーに頼っているだけではない。地元特産品を用いたフードやドリンクの提供体制を整えるところにも、ゴルフ&エンターテイメント空間へとリニューアルした意図がにじむ。
「笠間は日本一の栗の産地だし、土浦はレンコンが有名。こうした茨城の食材を使い、一流シェフのレシピを取り入れ『誰もが食べたくなる』料理を振る舞いたい」
ゴルフは老若男女が一緒に楽しむことができる数少ないスポーツであり、レジャーであるところに特長がある。ゴルフ練習場がゴルフをきっかけに誰もが訪れてみたくなる場所を目指すことは、「地元の方たちを大切にしながら地域の活性化につなげる」という礒崎氏のライフワークにも添うチャレンジになる。まずは「ランチやカフェ目的でも、地域の人々が気軽に立ち寄れる場所にしたい」という。
スポーツやレジャーだからできる「+α」の追求は、「例えば貸し切りにして会社のイベントを行ってもいいし、結婚式を催してもいい」との構想にもつながり、隣接する遊休地を使ってグランピング施設を造るアイデアもあると明かした。
『茨城モデル』の成功へ、全国から熱視線
「ここで成功モデルを作り、他の地域にこのコンプセトも持っていければ、ゴルフ人口の増加につなげられる。より多くの人がゴルフに興味を持っていただき、笑顔で楽しく過ごせる時間を提供したい」。
礒崎氏の見据える“新しいゴルフ文化”が共感を呼ぶのだろうか、視察に訪れる関係者は全国に及ぶ。攻めの決断を下した『茨城モデル』の成功に、集まる期待は大きいと言えそうだ。