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自分で選ぶ、自分で直す ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(2)

2023/01/06 16:00
ジャスティン・トーマスの父、マイクさんはコーチとしても息子を指導する

わが子をプロゴルファーに。トッププロの若年化が進む昨今、そう願う大人は決して少なくありません。アスリートの親として、コーチとして必要なこととは何か。2022年までにPGAツアーで15勝を挙げたジャスティン・トーマス(通称JT)選手の父であり、全米プロゴルフ協会(PGA)公認のティーチングプロでもあるマイク・トーマス氏が指導方針と“子育て論”を語ります。全5回のコラム第2回は、ジュニア時代に学ばせるべきことについて。(聞き手・田辺安啓)

ジャスティンへの技術指導

フロリダの自室にはジャスティンが小さかった頃の写真が

私たち夫婦(ジャニー夫人)にとって、ジャスティンのゴルフの成績自体は重要ではありませんでしたが、もちろん技術ポイントも教えてきました。4、5歳の時に『アドレスでボール位置が右に寄りすぎている』とか、『グリップが少しストロングになっているよ』といった具合に。それでも、アドバイスの押し付けはしません。それを聞いても本人が変えようとしなければ、そのまま放っておきました。

私が指導するタイミングは、彼から『教えてほしい』と聞いてくる時。その時こそがレッスンに相応しいタイミングだと考えていました。これは彼が大学生になっても変わらなかった私の方針。ジャスティンの横で一日中レッスンをするのではなく、彼が私を必要とする時だけ指導するというスタンス。

思い出の品々

『ちょっとダフるんだけど』とか『ちょっとトップするんだけど見てくれない?』という時だけ、『OK、次の生徒さんのレッスンまで10分だけ時間があるから見るよ』という調子でした。働いていたゴルフ場でレッスンに充てた時間は、あらゆる生徒の中でジャスティンが一番少なかったのではないでしょうか。

とはいえ、その10分で様々なことを教えてきました。10分だけスイングを見て、2時間ほど仕事に戻り、帰ってきて、うまくいったかどうかを聞く。うまくいかなかったら、別の方法を試して、納得のいく方法を探る。彼は小さい頃インサイドアウトに振りすぎていて、フックがよく出ていました。矯正するため、クラブをなるべく左に出すよう指導したのを覚えています。

自己修正力を磨く

ツアー会場でレッスン

しかし今でもそうですが、私は生徒に「不調時に自分で修正できるようになること」の重要性を説いています。レッスンの間に指導者がいつも『こうしろ』と強制していたら、その生徒は試合中にどうなるでしょう。11歳くらいの子どもたちに初めてレッスンをする際には、『なぜそうなるのか?』を教えます。私のレッスンの根幹は、最終的に“生徒が私を必要としなくなる”こと。生徒が自分のやっていることが正しいかどうか理解し、試合中も自分で判断できるようになるのが大切です。

私はレッスン中に「理由は分かる?」、「理解できた?」と、たびたび生徒に聞きます。「理解していない時に『分かった』とは言わないように」とも。ジャスティンはプロになった今もラウンドの途中でスイング修正を行います。それは「マスターズ」や「全米オープン」を戦っている時も例外ではありません。

ジャスティンへの愛があふれる

修正は推測ではなく、明確な根拠に基づいて行うべきで、原因と解決方法を知っているからこそ可能になります。調子が悪くても、途中から突然復調することが多く見られるのはジャスティンの長所で、そういったラウンドの後に尋ねると、『スイングが大きくなりすぎないようにした』、『トップがクロスになっていたから直した』といったように、考えと行動を明確にして答えます。

私は今、フロリダで一般のアマチュアの指導もしていますが、主にジャスティンのコーチとしてツアーに帯同しているので、誰かに頼まれたときは基本的に「忙しいのであまり時間は取れません」と忠告します。たまにフロリダまでやってきて私のレッスンを受けても、ゲームの上達にはあまり結びつきません。

そういった場合は、その子の地元で、優れたインストラクターを探す手助けをします。コーチが必ずしもPGA公認のプロである必要はない。あらゆるティーチング方法がありますから、納得できる方法論の人に出会うことが大切です。

ゴルフ以外のスポーツもやるべき?

昨年12月の親子大会「PNC選手権」ではジャニー夫人がキャディを務めた

ジャスティンは小さい頃、野球もプレーしましたし、バスケットボールやインドアでサッカーもしていました。しかし8、9歳ぐらいになると夏場はゴルフの遠征が増え、他のスポーツのキャンプには参加できなくなりました。運動神経が良かった(Good hand-eye coordination)のですが、やはり一定期間、離れてしまうと、集中している子どもと技術レベルに差が出ます。同じように、ゴルフがうまかった子もバスケットボールの合宿に参加にして戻ってくると、差がついてしまっています。

米国でもトップレベルのジュニアアスリートは今や、1つの競技を年中プレーする必要性が出てきました。3つ、4つの競技を子どもたちが同時にこなすのが難しくなっています。成長過程で取り組むスポーツを1つに決めないといけない。何に決めるべきか? 私がいつも言うのはやはり、「お子さんがやりたいことをさせれば良い」です。

親が選んで子どもにさせるのではありません。子どもは誰しも、そのスポーツを好きで、楽しんでやっていればうまくなる可能性が高くなる。無理矢理やらせても、自らが望まない限りは、“半分の努力”しかしません。最初はいろんな競技に触れるべきですが、いつかは自分の一番好きなことを選ぶことになります。繰り返しますが、親が好きなことではありませんよ。子ども本人が好きなことです。

■ マイク・トーマス Mike Thomas

1959年10月15日、オハイオ州シンシナティ生まれ。父にプロゴルファーのポールさんを持つ。82年にケンタッキー州のモアヘッド州立大を卒業し、88年に全米プロゴルフ協会公認のヘッドプロに。90年に同州のルイビルに移住、ハーモニーランディングCCで勤務した。93年4月にジャニー夫人がジャスティンを出産。現在はフロリダ州ジュピターに在住。