子どもの自我と指導者選び ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(3)
わが子をプロゴルファーに。トッププロの若年化が進む昨今、そう願う大人は決して少なくありません。アスリートの親として、コーチとして必要なこととは何か。2022年までにPGAツアーで15勝を挙げたジャスティン・トーマス(通称JT)選手の父であり、全米プロゴルフ協会(PGA)公認のティーチングプロでもあるマイク・トーマス氏が指導方針と“子育て論”を語ります。全5回のコラム第3回は指導者の在り方についても触れました。(聞き手・田辺安啓)
父を“反面教師”に
そもそも私の父(ポール・トーマスさん/同じくPGA=PGA・オブ・アメリカ公認のティーチングプロ、2021年2月に死去)は私がジャスティンに教えたことよりも、私にずっと多くのことを教えてくれました。ゴルフを始めたのは6歳か8歳で、私も小さい頃からやはり父の働くゴルフ場について行っていました。当時は今ほど環境が優れておらず、ジュニアの大会も夏場に2試合がある程度でした。
父は昔気質のゴルファーで、自分に厳しい人でしたからプロとしても成功しました。私を良い選手に育てるために厳しく指導したのも当然でしょう。ただ、私にとってはそれがあまり良い思い出ではなかった。たたかれたことはありませんでしたが、口ではかなり厳しく言われました。ですから、私はジャスティンには決して厳しく叱責しないように心がけています。まあ、父も『お前には厳しく当たりすぎたよ』と認めていたのですが(笑)。
プレー中の態度が悪かったら
そうは言っても、親というものはいつだって子どもをしつける(Parenting)ものです。ジャスティンは29歳になりましたが、例えば、家のことや銀行口座のことでアドバイスすることが今でもあります。それが親としてのしつけです。
子どもは自我が芽生えてくると自分を主張するようになり、物事を自覚して、自立していくのです。ジャスティンが小さい頃、カッとなってクラブをたたきつけたことがありました。私は試合中にそのことを注意しませんでした。試合が終わった後に「あれはダメだ。コースであんな行動をしてはいけない」と指摘する。また同じことをやったら、同じことをやはり試合後に言うだけ。
実際には子どもであっても、“体験”がモノを言います。彼のジュニア時代、試合で同組になった選手の態度が非常に悪かったときがありました。ジャスティンは試合後、自分から『僕があんなふうにしたことはある?』と聞いてきました。その子の悪態を見たことで、私に以前注意されたことがリンクしたのでしょう。私は「あそこまで悪かったことはなかったけど、近いことをしたことはあった。周りの人に迷惑だし、本人にも良いことはないだろう。スコアが良くなることもないよね」と伝えました。
話はそれますが、子どもがコースで感情をむき出しにするのが必ずしも悪いことだとは限りません。自分の悪いプレーに怒るのは、闘争心の表現方法のひとつでもあります。メンバーさんの言葉をよく使わせてもらっています。「闘争心をコントロールすることは、闘争心に火をつけるよりもずっと易しい」と。ただ、その闘争心は自分が有利になるために使うべきであり、マイナスになったり、あるいは他人に迷惑をかけたりするためのモノではありません。
良い指導者とは
子どもは大人になるにつれて多くの指導者に出会います。幸い、ジャスティンはジュニア時代のゴルフの成績が良かったので、高校時代に多くの大学から誘いがありました。最後の方は5校くらいに絞って考え、実際にそれぞれの大学を訪れてコーチと話し、キャンパスや練習施設を見学してアラバマ大に決めました。
アラバマ大はコーチ陣がそれぞれの指導法を選手に押し付けず、コーチである私とコミュニケーションを取ってくれたことが良かった。私はそこを重視しました。
彼らは事あるごとにジャスティンのスイングビデオを私に送ってきて、『ボール位置がスタンスの右寄りすぎるのでプッシュアウトが多いと思うが、あなたはどう思うか?』といった具合に相談を投げかけてくれた。私も『確かにその傾向はあるけれども、むしろ腰の開きが早すぎる方が問題なのでは?』などと、話し合うことができました。高校や大学のコーチは総じてとても良いコーチが多いと思っています。しかし、中には自分のエゴを押し通すタイプの指導者もいるのです。
ジャスティンが大学で学んだのは、時間的資源の使い方と言えるでしょう。NCAAのディビジョン1、強豪の大学ゴルフ部のメンバーは一日中仕事をしているようなものなのです。週30時間は練習に打ち込み、トレーニングもして、さらに学校の授業も受ける必要がある。仲間と観に行きたいフットボールのゲームもあるでしょう。そんな生活で限られた時間の使い方を学ぶわけです。
アラバマ大はゴルフに限らず、成功のための準備をさせてくれる学校でした。学業で成績が落ち込んだらチューター(大学所属の家庭教師)がサポートしてくれました。入学した最初の日から、決められたエリアで勉強するように指示される。これは必須で、成績を一定レベルで保つようにするシステムがありました。
理解の方法も人それぞれ
すべてのコーチ、インストラクターの課題は、生徒の性格や理解度をいち早く把握することでしょう。ある生徒に1つのことを教えるのに、8つの別の言い方をしてやっと納得してもらえたこともあります。学校の先生にも同じことが言える。30人のクラスで全員に同じ教え方をするのでは難しい。同じ情報を伝えても、同じ結果が得られるとは限らないのです。
私のレッスンでは最初の15分ぐらいで、ボールを打つのを見ながら話をして、どのように改善したいかを聞きます。動きを専門用語で理解する人には『体の前で腕をターンさせるとインパクトが安定する』という言い方でも良いでしょうが、感覚派の人にはよりシンプルな言葉が必要。患者によって治療法が変わる医師の診断と似ているかもしれません。
コーチであれば、ショットを5球も見れば、この人がなぜフックするのか、どうしたら直るかはすぐに分かります。しかし、すぐに答えを教えるのではなく、どのように教えたら良いのかを考えなくてはならない。そこでいくつかの言い方で説明しながらボールを打ってもらう。
次第にフックが止まり始めると、生徒も何かに気づきます。インストラクターは「どう伝えたときに理解したか」を素早くキャッチしなければならない。そのことは、生徒に渡すレッスンカードにもしっかりメモします。その生徒の理解の仕方を書いておくのです。そうしてレッスンを重ねていくと、コーチと生徒、双方の“理解の壁“が低くなって教えやすくもなります。
■ マイク・トーマス Mike Thomas
1959年10月15日、オハイオ州シンシナティ生まれ。父にプロゴルファーのポールさんを持つ。82年にケンタッキー州のモアヘッド州立大を卒業し、88年に全米プロゴルフ協会公認のヘッドプロに。90年に同州のルイビルに移住、ハーモニーランディングCCで勤務した。93年4月にジャニー夫人がジャスティンを出産。現在はフロリダ州ジュピターに在住。