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メガソーラーかゴルフ場か? 開発に揺れる長崎・宇久島

2023/09/13 13:59
ひらばるゴルフクラブのメンバーたち

長崎県の五島列島最北端にある人口約1800人の小さな島、宇久島(うくじま)。今も一軒の畜産農家が牛の放牧を続ける土地に、島民が手作りした平原(ひらばる)ゴルフ場はある。グリーンは9つだが、ティイングエリアを変えて2周回って18ホール、全長4700ヤードのパー68とする。2022年に開場45周年を祝ったが「本当はもっと古いかもしれない」と地元住民にもその起源は定かではないという。

プレーの申し込みは宇久島観光協会か、コース管理を行う「ひらばるゴルフクラブ」に直接電話で問い合わせる。コース自体が島民の手作りなので、まずは島民メンバーとプレーすることをオススメする。かといって身構えることはない。わざわざ遠くからプレーしに来たとなったら、メンバーたちは自然とたくさん集まってくる。川上光郎さん(83歳)も「若い人と回るのは楽しいね」と来島者とのラウンドを心待ちにしているメンバーの一人だ。

第1日曜日はメンバーによる管理作業、第2日曜日が月例コンペで、その前日にグリーンを刈る。グリーンは決して速いとは言えないが、そんなことでゴルフの本質的な楽しみは損なわれない。野性味あふれる地形と海風に翻弄(ほんろう)され、東シナ海を望む絶景に癒やされる。美しい自然の中であるがままに白球を打つ平原は、ゴルフの原点さもありなんといった風情だ。

打ち下ろしで左ドッグレッグとなる4番ホール。左前方にあるマウンドの肩越しにフェアウェイがちらりと見え、その先には群青の海が広がっている。まるでスコットランドにいるかのようだ。彼の地ではゴルフと生活が密接に結びつくが、宇久島も同じである。前述の川上さんは、コースに乗用カートが導入された4、5年前から毎日18ホールをプレーしている。「昼までテレビを見て、ご飯を食べて、ゴルフに行く。もしゴルフがなかったら何をしていいか分からない」と優しく笑った。

名物ホールは海越えの16番(パー3)だ。正面のガードレール上に小さなピンフラッグが揺れているが、141ヤードという数字以上の距離を感じる。ティショットは、小さな入り江の突端をぐっと進んだ崖の上から打つ。

名物16番ホールのティイングエリア

だが、この“楽園”はいつまで存続できるか分からない。宇久島全体の4分の1を覆うメガソーラー計画が進行中で、このゴルフ場も近い将来ソーラーパネルが敷き詰められる可能性があるからだ。

宇久島の人口は年々減少を続けている。かつて栄えた漁業は衰退し、小学校、中学校、高校は全校児童・生徒がそれぞれ30人ほどしかいない。島の豊かな自然を残したいと思う人がいる一方で、将来を危惧し、大きな収入を確保できるメガソーラー計画に賛成する声も聞こえてくる。

ラウンド前、昼食を食べていると突然、携帯電話の呼び出し音が鳴った。午前中に島民からメガソーラー計画への思いなどを聞いていたが、電話は名刺を渡してきたその人からで、記事には名前も写真も出さないでほしいと念を押された。狭い島社会でそれぞれの立場があり、違う考えの人たちがいる。角が立つからという理由だった。

この距離のパットも気が抜けない

「ひらばるゴルフクラブ」会長の渡辺慎吾さん(71歳)は、商船に乗っていた20代の頃にゴルフを覚えた同クラブ最古参のメンバーである。メガソーラー計画への賛否は渦巻くが、会長としての立場は明確だ。「メガソーラーになる、ならないは我々ではどうしようもない。ただ、私はメンバーたちの健康のためにも、ゴルフ場はこのまま存続してもらいたい」と訴える。だが、メガソーラー計画の事業者が利用料として地元に支払う金額も小さくはない。

ゴルフ場か、メガソーラーか? どちらが、誰にとって価値があるのか? 私たちの次の世代、子どもや孫たちに何を残すべきなのか? どちらかの結論を後押しするつもりはないが、少しでも多くの人に、消え去る前にこのコースをプレーしてもらいたい。それは、プレーするゴルファーにとっては特別な体験となり、宇久島にとってはゴルフ場が島と外部をつなぐ貴重な資産となり得ることの証明になるからだ。

平安時代末期、壇ノ浦の戦いに敗れた平家盛が流れ着いたのが宇久島で、その子孫たちが五島藩の礎を築いていった。諸行無常と言うけれど、荒れ狂う波に翻弄される小舟のような平原ゴルフ場の運命やいかに…。(今岡涼太)