ギアを愉しむ。

変えないために変える 一周回って考えるクラブの進化/ギアを愉しむ。

2024/06/18 11:00

変わったところを探すより、変わっていないかをチェックする

いまだに高い評価を得る初代オデッセイ「ホワイトホット インサート」

自分に合ったゴルフギアの見極めには2通りの“視点”が必要だと考える。新製品を前に「どこが変わっただろう?」と興味津々になるのは当たり前として、もうひとつ「大事なところが変わっていないか?」と疑うことも重要と考えている。

私がギアの開発拠点に取材で行き始めたのは90年代半ば。ちょうどキャロウェイの「グレートビッグバーサ」「ビゲストビッグバーサ」が発売されたことで、ドライバーが大型ヘッド化&長尺化に向かう転換期だった。

開発話を聞きにいくたびに、「ポイントウエーティング(モデル別の重心設計)」や「VFTフェース(部分肉厚設計)」「カーボンモノコックボディ」「アジャスタビリティスリーブ&ウエートシステム(可変機能付きクラブ)」といった新しいワードとともに、魅惑のニューモデルが登場した。開発現場に赴くときは、常に「どこが変わるのだろう?」と胸を躍らせた。

実際、開発者へのインタビューの冒頭から、「今までのクラブと、どこがor何が変わったのですか?」と単刀直入に切り込んでいたほど(笑)。変わってこそ価値がある――。そんな風に思っていたのかもしれない。

だが、取材を重ねていくと、エンジニアたちは変えることよりも、変えないことにこそ配慮、苦心していることだと感じるようになった。もちろん改善するべきところを正していくことが進化の在り方だが、それによって今まで保持していたメリットを犠牲にしては意味がない。一発当たればものすごく飛ぶようにはなったが、構えにくく振りにくくなってはゴルフ道具として退化したものになってしまう。

ゴルファーは大きな進化を求めているようで、実はものすごく保守的。特に見た目や打感に関しては驚くほど繊細で、いつもと違うことに大きな拒否反応を示す。実際に、慣性モーメントをルール上限値まで持っていけた半面、独特の形状や打音で評価を下げ、負のイメージを背負ったままクラブ事業から撤退した新興ブランドも多かった。

第一次高慣性モーメント時代を代表するスクエア型ヘッド

四半世紀に及ぶトライ&エラーを経て、令和時代ではアドレスでムムッとなるような三角や四角形のドライバーヘッドを、ほとんど見かけなくなった。拍子木を叩いたようなサウンドがするモデルもない。各ブランドが変えてはならないところをしっかりと押さえたうえで、見えないところで弾道パフォーマンスの改善に努めている証拠といえる。

我々プレーヤー側も、新製品や気になるモデルを試打する際に最新のテクノロジーばかりに目を向けず、構えやすさや振ったときの心地よさ、打った時の手応え、音などに大きな違和感がないかをチェックすることを優先するべきなのかもしれない。そのうえで飛距離や方向性などの弾道パフォーマンスの変化、改善に着目するようにしたいものだ。

「変えないために変える」――そんな進化もある

開発拠点を取材するなかで、今でも心に残っている開発者の言葉がある。「フィーリングをキープするために、フェースインサートを変えました」というオデッセイパターのエンジニアの言葉だ。

当時のオデッセイではホワイトホットXG、ixなど、初代ホワイトホットに代わる新インサートの開発に余念がなかった。「なぜ新しいフェースインサートを開発した?」という私の質問に対し、「より転がりが良くなる」「打点のバラツキに強くなる」など、打球結果の改善のためという返事が返ってくると勝手に予想していた。が、彼の言葉は違った。

「初代ホワイトホットのフィーリングをキープするためです。ボール開発チームとミーティングし、ニューボールのフィーリングが変わってしまうと分かった時点で、パターのインサートを変えていかないと従来のフィーリングが保てないと思ったからです」

2000年に発売され、今なお多くのゴルファーから支持を得ている初代ホワイトホット。「変えないために変える」、そんな進化もあるのかと妙に感激したことを覚えている。(高梨祥明)

■ 高梨祥明(たかなし・よしあき) プロフィール

20有余年ゴルフ雑誌のギア担当として、国内外問わずギア取材を精力的に行い、2013年に独立。独自の視点で探求するギアに対する見解は、多くのゴルファーを魅了する。現在は執筆活動のほかマイブランド「CLUBER BASE(クラバーベース)」を立ち上げ、関連グッズの企画や販売も行う。