大人の社会科見学

シャフトの生命線 -受け継がれる“巻き”の技術を深掘る/大人の社会科見学「藤倉コンポジット」福島県小高工場(後編)

2026/06/30 11:30
「巻き」の作業は実に手際よい

フジクラのシャフトはいかに日米男女4ツアーで使用率No.1という地位を築くに至ったのか。前編では福島県南相馬市に建つ小高工場を訪れ、震災からの復興、躍進について触れた。後編ではその工場で働く人々に焦点を当て、シャフト作りに励む姿勢を探る。連綿と受け継がれる「巻き」の技術、そしてそれを支える「マイスター制度」について詳しく紹介していきたい。(取材・構成/服部謙二郎)

再稼働した小高工場に人が戻ってきた

社員食堂でご飯を食べる従業員たち

再稼働した小高工場は、ガラス張りで採光も良くとても明るい雰囲気だった。広く、清潔感もある。「原町工場から小高工場に移転して変わったことは、何より広くなったことですね。当初は広すぎるなと感じましたが、もう慣れてきて、住めば都みたいな感じですね」と製造部長の庄子敏幸氏は語る。

場内を巡ると、ところどころ地面に亀裂が見られた。「震災で基礎が歪んでしまいました。今回リニューアルした時には、基礎や躯体(くたい)の見直しを行い、耐震性に問題ないことを確認しています」

工場内の床面には亀裂が入った場所も

フジクラは昔から地元住民の雇用を重視してきた。震災後、仕事に復帰できた従業員は全体の約10~20%。その後徐々に戻ってきて、現在はゴルフシャフト部門で約65名、別の部署で30名が働いているという。その中で、東日本大震災を経験した人は約5割。「被災経験者も年を重ねるごとに定年などで年々少なくなっています」と庄子氏は話す。

生産ラインには、「ベンタス」、「スピーダー」、「エアスピーダー」、「MCI」、「トラヴィル」などが並び、取材時は「スピーダーNXゴールド」が主力で稼働していた。フジクラではクラブメーカーのOEMシャフトの生産も行っているが、規模が大きいためそちらはベトナム工場で取り扱うのだという。

シャフトが出来上がるまでをお勉強

カーボンシートを裁断するところからスタート

続けて製造工程を見学し、シャフトができ上がるまでをレクチャーしてもらった。

作業は5工程(1裁断 2巻き 3研磨 4塗装 5検査・出荷)に分かれる。「裁断や巻きの工程は比較的早く終わりますが、塗装工程は『硬化』といって塗装を定着させるための時間がかかります」。1本のシャフトを作るのに約2週間かかるという。

作業工程は多い

以下、それぞれの作業を細かく解説する。

1.裁断
シャフト製造の工程は「カーボンシート」と呼ばれる巨大なシートロールを裁断するところから始まる。裁断前のカーボンシートは巨大な冷蔵庫の中に保管されていた。「カーボンシートを冷やしておくのは、暑さによって樹脂が硬化するのを避けるためです」

カーボンシートを裁断していく

取り出されたカーボンシートロールは、大きな刃が付いた断裁機の前に設置される。スタッフがあらかじめ用意した設計のバーコードを読み込ませ、機械のボタンを押すと裁断が自動で始まる。「ある程度の大きさに切り、次の成型工程でパーツの形に整えて角度を変えて裁断します。決められた長さに切らないと素材のロスが出てしまう。ロスをいかに出さないかが非常に重要です」と庄子氏は言う。

2.巻き

マンドレルにカーボンシートを巻いていく

裁断されたカーボンパーツは、続けて「巻き」の工程へ移る。作業レーンは3列あり、各レーンには3人が横並びする。彼らの目の前にはマンドレル(芯金)があり、それぞれが課された枚数のカーボンシートをマンドレルに巻き、次の人に渡すという流れだ。

重要なのは最初のパート。カーボンシートをマンドレルに真っすぐ巻く技術が、不良品を出さないかどうかのポイントになるという。「最初がズレないように、マンドレルを回転させながらカーボンシートを巻き付けていきます。非常に重要な作業なので、マイスター(詳しくは後述)などのベテランが担当することが多いです」。人の手で巻き付けた後に、さらに機械で押し転がして巻いていく。1本のシャフトに対してカーボンシートを複数枚巻きつける。

マンドレルはシャフトのモデルごとに毎回作り変えられている。つまり、マンドレルの太さや形状がシャフトの性能を大きく左右するのだ。「発売の1~2年前に新しいシャフトの構想ができ上がります。その性能に応じてどういう材料を使うか、マンドレルをどういう形にするのか、そしてどういう巻き方にするかを決めていきます」

素早く、そしていかにロスを少なくするかが重要

カーボンシートを巻き付けた後に、熱をかけて硬化させる。カーボンの樹脂を固めることで硬いシャフトになる。硬化前にはテープを巻き、シートから空気を抜く工程が入る。「テープで締めて空気を抜いておかないと、硬化した後に空気が表層に出てきて仕上がりが粗くなり、脆くなります」

「硬化」の作業が終わるとマンドレルを抜く。製品長に長さをカットし、テープを剥がしていくと、いよいよシャフトらしくなってくる。

3.研磨
隣の作業に移ると「キーン」という金属を加工する音が鳴り響いていた。次は研磨工程だ。2段階の研磨によって硬さやキックポイントなどのスペックが決められる。

「第一段階はおおまかな削り代を調べるために振動数を計ります。元々は人の手で計っていましたが、巻く人や材料によって上ブレ・下ブレが生じるため、小高工場に戻るのを機に自動化しました。数値ごとにグループ分けを行うことで、後の研磨作業を効率的に行うことができるようになっています」

機械で振動数を測っていく

「第二段階では機械の研磨で仕上がってきたものを実際の規格(CPM=振動数)に正確に合わせていきます。ここは全て人の手で測り、その後の削りも人の手で微調整して仕上げます」。最終的にはやはり人力が重要になる。

4.塗装
研磨が終わると、製品名を示すラベル貼りへ移る。「これも元々は人の手で貼っていましたが、今は機械で貼る自動化がなされています」と自動化が導入される。その後、塗装工程に移るが、この工程は企業秘密も多く取材はNGだった。

5.検品
塗装を終えたシャフトは最終工程の「検品」に移る。検品担当がシャフトを転がしながら黙々と作業をしていたが、いったい何をチェックしているのだろうか。

実に細かく出来上がりをチェックする

「質感や色はもちろん、印刷文字の欠点や異物の付着がないかを確認しています。作業の途中でぶつかってちょっとした傷がつく場合もあり、それだと品質基準がクリアできないので弾きます」と言い、次々と流れてくる製品を1本ずつ目視で確認する。「人の検査で1日約1000本の検査を行います。検品もベテランが多いので、経験則が大きいですね」と庄子氏は話した。

検品を終え、ようやく完成。一連の工程を終えたシャフトたちが束になって積み上げられていた。ここから全国各地へ出荷される。

フジクラの品質を支える「マイスター制度」

「巻き」は3人体制で最初をマイスターが請け負うことが多い

「巻き」の作業内で少し触れたが、今回の取材で分かったのがフジクラのシャフト開発における「マイスター制度」の重要性だ。マイスターとは高度な技能を持つ職人を指し、フジクラには現在5人の巻き作業マイスターがいる。

シャフトを作る上での重要な「巻き」には繊細な技術が求められる。パーツを一つひとつ正確に巻かねばならず、少しでもズレが生じると硬化後に不具合の原因となる。さらに生産性を上げるべくスピードも求められ、作業は迅速に行わねばならない。「正確」かつ「迅速」に行うには手先の器用さが求められ、誰でもできるものではないのだ。

マイスターは巻きの技術だけでなく、生産の一連の工程に対して精通していなければならない。「マイスターになるためのテストでは、不良品の判断をしてもらいます。巻き上がった生産品を見て品質評価を行います」と、品質に関しての責任感も求められるという。ちなみにこれまでの合格者はたった6人(うち1人は定年退職)と非常に狭き門だ。

マイスターの3人。左から栗原哲也さん、寺澤典子さん、岡田吉弘さん

その数少ない5人のマイスターのうちの3人に話を聞いたので、紹介していこう。

マイスターNo.1 寺澤典子さん
寺澤さんは社歴20年で、マイスターの紅一点。マイスター制が出来た年に就任しており、相当の“目利き”であることは間違いない。

前編で「軽いものを作れるのは技術力の証明」と言っていたが、30~40gという驚異的な軽さの「エアスピーダー」はその代表的なモデル。繊細な作業が要求されるので、そこはマイスターの出番だと寺澤さんは言う。「ちょっと何かあると不良につながってしまう。そういう巻きミスがシャフトの割れにつながるんですよね。使っている時に割れるのがいちばんダメなことなので」

では、この「割れにつながるミス」を防ぐために寺澤さんは何に気を付けているのか。「カーボンシートをマンドレル(芯金)に真っすぐにくっつける位置が要だと思います」と語る。巻き付けはシャフトの性能や品質に影響する最も重要な工程の一つだ。「そこがズレると次の工程のときに『全然違うじゃないか』となるわけです。そうなると硬さも変わってしまう。なるべく無くすようにしていますが、やはり手作業なので一日にそういった不良が多少は出ます」。そうしたミスが極端に少ないのがマイスターだという。

正確に巻く「コツ」を聞くと、「技というよりも、やはり経験ですかね。私は基本的に人よりは器用で細かい人間なんです。繊細に、いかにきれいに巻くかを研究するのが好きなんです」と笑った。

マイスターの一人、岡田吉弘さん

マイスターNo.2 岡田吉弘さん
社歴37年の大ベテランで、マイスターには約6年前に就任した。「入社当時はサロモンというメーカーのシャフトをOEMで作っていました。その後、気づけば事業が大きくなっていた」と振り返る。フジクラシャフトの発展と共に従事してきた従業員だ。

得意なのは品質の見極めだ。「硬化の巻きの時点で段々ができるかできないかが見て分かる。不良になりそうな場合を見極められる」という。まさにこの道40年近いベテランだからこそのなせる技である。

こうした熟練工たちがフジクラのシャフトを支えているのだと、改めて感じさせられた。

マイスターNo.3 栗原哲也さん
栗原哲也さんは社歴24年、マイスター歴は約6年。元々は設計や生産技術の部門で働いていたが、マイスターになるタイミングに合わせて「巻き」工程に配属された。

栗原さんの巻きの作業は非常に手際が良く、明らかに他の人よりスピードが速い。速さは経験の賜物か、それとも才能か――という問いに栗原さんは「特にそういうことはないです。慣れもあると思いますよ。速くやらないとラインの流れが良くならないし、生産性を上げることを考えると自然に速くなります」と答える。

もちろん速さだけでなく正確さも必要だ。「品質保証の基準もあるので、必ずそれはクリアしないといけません。また、何かトラブルが起きた時にしっかり対応ができるのもマイスターだと思っています」。栗原さんは後輩の指導も行い、未来のマイスターを育成している。

技術はしっかりと後輩たちに受け継がれている

◇◇◇
「マイスター制度」は、従業員のスキル向上に寄与し、「エアスピーダー」などの軽くて薄い素材の巻きではその技術が大いに発揮されていた。研磨や検品といった工程では機械による自動化も進んでいるが、最後の要の部分でベテラン職人が関わって仕上げてる点も、フジクラのものづくりに対するこだわりを感じた。

取材を終えて思ったのは、フジクラのシャフトが評価される理由の根底には、やはり「人」がいること。震災を乗り越え、現場に戻ってきた従業員たちの思いとその営みの積み重ねが、V字回復と今の躍進を支えている。

仙台へ向かう帰路の車中、彼ら従業員の言葉一つひとつを反すうしていた。