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“飛ばし規制”で5年後のドライバーはどう変わる?

2021/02/11 05:00
進化を続ける1Wの未来予想(提供:antpkr / PIXTA)

R&Aと全米ゴルフ協会(USGA)が先ごろ公表した用具規制に関する提案のひとつに、以前から議論が続いていた“飛ばし抑制”がある。年々伸び続けるツアープロの飛距離を憂慮したものだが、これがギア製造に関わるとすれば、アマチュアにとって全く影響がないとは言い切れない。そこでギアコーチ・筒康博氏に将来のギア事情を考察してもらった

「むしろアマチュアにとってプラスに影響する」

今回の方針提案について、筒氏は「この動きは何年も前からクラブメーカー各社に聞き込みの上で、支障にならないラインでの線引きだと確認をとっているはずです。ごく一部のゴルファーが困ることはあるかも知れませんが、多くのアマチュアにとってほぼ影響はないと思います」ときっぱり。いわば「対岸の火事」であって、施行されればメリットのほうが多い規制とみる。一体、どういうことか?

市販モデルで46インチ以上は希少 ※画像はゴルフガレージ松戸八柱店

「シャフト長が48から46インチに制限されたところで、現状の市販ドライバーの多くは46インチ以下で販売されています。残り2インチの余地を残し、“長くすれば飛ぶ”という物理的な希望を残すよりも、ルール化によって潔く断ち切ることで、ヘッドやシャフトの構造や素材による進化によって、飛距離性能の向上を目指す動きが活発になると予想します」

「2003年に大型ヘッドの規制が始まったことを機に、カーボン化やマルチマテリアル(複合素材)の進化が進み、460cc内でも十分飛ばせるヘッドが生まれました。また08年にフェースの高反発が規制されたことで、ヘッド自体のたわみや慣性モーメント(以下MOI)の進化が始まり、飛んで曲がらない“広反発”モデルが登場しました。今回の規制によって、今後メーカーがどのような新しいテクノロジーを生むのか、大いに期待したいと思います」

■1. ヘッドの進化 「注目は“第3のMOI”」

用具規制の余波として、新たな進化が始まることを期待する筒氏。そこで、5年後のドライバーがどのように変化するのか? 考えられる予想を3つのパーツごとに聞いてみた。

ソール後方にはめ込まれた「フォージド ミルド アルミニウム リング」

「まずヘッドですが、今季発売のテーラーメイド『SIM2』シリーズで搭載されたアルミニウムのように、従来では異例とされてきた新素材が、各社から登場すると思われます」と、すでに始まりつつある素材革新が、より進むと予想を立てる。

「新たな素材を採用することで、余剰重量と設計自由度がさらに進み、重心・重量・MOIの3つの特徴を、より複合化したモデルが登場すると思います。従来モデルのように1つの項目ではなく、2つ3つを合わせ技で特徴づける。特に注目は“第3のMOI”と呼ばれる『軸周りMOI』を絡めた、より複合したMOI。また重心も、これまで単に“重心角が大きい=つかまりが良い”くらいの認識だったものを、重心角だけに頼らず、操作性と寛容性を高めたモデルが一般化するような気がしています」

■2. シャフトの進化 「30g台の純正が一般化」

ダンロップZXの人気の1要素となっている純正シャフト「ディアマナ ZX 50」

「ここ数年で顕著に進化しているのが、“吊るし”と呼ばれる純正シャフトです」と、ヘッドに続きシャフトについて言及する筒氏。「10~20年前では考えられなかったのですが、いまや“セミカスタム化”と呼べるほど、カスタムシャフトの特性に近づいています」と、すでに向上しつつある純正モデルの進化を取り上げた。

「予想できるのは、軽量化と剛性分布の複雑化。すでにカスタムではトレンドになっていますが、この動きがより加速して、5年後には40g台を切る軽量純正シャフトが当たり前になる可能性が考えられます。また、ゴルファーのビッグデータを基に、先・中・元調子といった単純な言い回しから、剛性分布(EI)設計の多様化に踏み込んでくるでしょう。すでにカスタムシャフトで行われている、部分ごとの硬さ&軟らかさの構成が複雑化し、純正シャフトにも波及してくると予測します」

■3. グリップの進化 「軽く&太くなる大変化」

ゼクシオ11に採用されていた「ウエイト プラス テクノロジー」※提供:ダンロップ

「グリップは、実はクラブの中で、ヘッド、シャフト以上に進化の余地が一番残っているパーツです」と、筒氏は大きく変貌する可能性を秘めた部位として、グリップを挙げる。「現在販売されている一番軽いモデルは約25g。重いものは約100gと、その幅は75gもあり、実はヘッドやシャフト以上に総重量を左右する部分として、各メーカーはすでに気づいているはずです」と、その進化の可能性についてロジックを展開する。

「すでに進化の途上とも言えますが、軽量化と太グリップ化は、押さえておきたいポイントです。通常50g前後のところを30gまで軽量化することで、よりヘッドの存在を感じることができ、手元側のスピード感が増します。また、太いグリップを装着することで、インパクト時のブレが軽減し、安定感が生まれやすくなります。ただ、単純に太いだけではクラブ重量が増えてしまいますし、軽くて細いだけでも操作性を失うリスクがあります。今後5年間ではクラブ全体を“調律する”意味で、太さと重さのバランスを考慮したグリップが装着されると予想します」

自慢の肉体で20年全米OPを制したデシャンボー(Simon Bruty/USGA)

確かに、シャフトの長さを制限したところで、ブライソン・デシャンボーのポテンシャルが急激に落ちるとは思えない。筒氏が言う通り“規制=ネガティブ”ではなく、むしろ規制の範囲内での試行錯誤が活発化することで、新たな恩恵をゴルファーに与えてくれると捉えるほうが、妥当かもしれない。

■ 筒 康博(つつ・やすひろ) プロフィール

プロコーチ、クラフトマン、フィッターとしてプロアマ問わず8万人以上のゴルファーにアドバイスを経験。江東区・インドアゴルフKz亀戸内「ユニバーサルゴルフ スタジオ」トッププロファイラーを務める。