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ツアーきっての鉛マニア 欧州も旅した”お道具箱”を初公開/星野陸也のギア語り<前編>

2024/12/18 16:44
星野陸也のギアトーク前編。手に持っているのは何?

星野陸也はツアーきってのギアオタク…いや、ギアマニアとして知られている。あらゆるクラブに重量、重心調整用の鉛テープを貼り、それが移動中に剥がれないようアイアンセットにまでヘッドカバーを装着する。その繊細さと探究心はメーカー担当者も腰を抜かすほど。DPワールドツアー(欧州男子ツアー)からPGAツアー(米国男子ツアー)への扉を開いた28歳がクラブへのこだわりを明かした。(聞き手・構成/桂川洋一、谷口愛純)

初公開 星野陸也のチューニングセット

星野陸也は左上のポーチにチューニングの道具を詰め込んでいる

世界を駆け回る星野はキャディバッグにいつも”お道具箱”を忍ばせている。長辺20㎝あまりの黒いポーチの中に、クラブをチューニングするためのキットがぎっしり。中身をひろげ、満面の笑みで手にしている(冒頭の写真)のは、鉛テープのロール(業者用)と、小さく切り刻んだそれがいくつか入ったビニール袋である。

鉛を0.1g単位で細かくするのが珍しくないから、カットするのは鼻毛バサミがちょうどいい。メーカーが製造するウッド用のウエートも各種合わせて30個近くある。ちなみに、スリクソンのボールのパッケージを切った4枚の紙は「メモ帳に使っている」という。

鉛をリユースする男

5Wと3W。どちらも古いモデル…

星野のアイアンはどの番手のバックフェースにも鉛がベッタリ。もう中学生時代から愛用モデルにしている5W(スリクソン Z-TX)のソール中央には、年代物のテープが何枚も重なって“化石”みたいになっている。3W(テーラーメイド M5)はというと…フェース近くのソールに細長い極小の銀色を発見! 第三者があえて言おう。…これ、ホントに意味あんの!?

パターのウエートに極小の鉛が…

極小の鉛で言えば、パターに施す細工はさらに常軌を逸している。上の写真をよーく見てほしい。お馴染みのマレット型パター(オデッセイ ホワイト・ライズ iX #3SH)のソールに埋め込まれた2つの円形ウエートの中央に5㎜角の”異物”が…(しかも1つだけ)。重量、実に0.2g以下。その変化にも星野はこだわる。

接着剤の量まで厳格だ

小さなビニール袋の中にこれまた小さな鉛。ちょっとシワが

ところで先ほどのチューニングセットの中に、小さく、細く切り刻まれた鉛の束があった。目を凝らすと、ところどころ角が落ちていたり、シワがついていたりする。星野が解説。「コースによって重心の位置の感覚が微妙にズレることがある。ある試合で使ってみた鉛が、次の試合ではいらないときがある。でもその次の試合でまた必要になったら、すぐに貼り直せるようにキープしてます。細さも1mm変わるだけで自分にとっては違うんで」

つまりは…切り貼りした鉛の再利用を日常的に行うというわけか。SDGsか何かのつもりなのか、ただ物持ちが良いだけのか、もうよくわかんなくなってきた。

ダンロップのツアーレップに聞いた

住友ゴム工業(ダンロップ)のツアーレップ中村俊亮氏(右)

クラブ使用契約を結ぶ住友ゴム工業(ダンロップ)の担当(ツアーレップ)、中村俊亮氏に助けてもらおう。2人は星野がレギュラーツアーに定着してから2年目の2018年頃からの付き合い。クラブの細かな調整はもとより、意見交換を長らく重ねてきた。

「星野プロのすごさはとにかく準備に力を注ぐことです。何カ月も前から『あの試合ではこういうクラブを使いたくなるはず』と、いつもずっと先のこと考えて、(メーカーに)早めにオーダーする」(中村氏)

およそ6年前、星野が最初に細かいチューニングを依頼したのはウェッジだった。「自分の場合はバウンスの頂点(最も地面に近い部分)が1mmズレているだけでダフったり、トップしたりすることが増える。親身になってピッタリに削ってくれたのが中村さん」

ウェッジは見た目はオーソドックスな形状。ソール、バウンスに改良を重ねている

実際にアドレスしたときの上からの見た目は一貫していて、フェースは縦幅が少し長目で、いま流行りの三角形っぽいものよりも、四角形に近い形状が好み。”出っ歯”ではなく、グースがわずかに入り、ボールをやさしく包み込むような印象を持たせるものを選ぶ。

しかし、「プロはそれぞれのコースに合うウェッジを使いたい。中でも星野選手はその気持ちが特別強い。地面の固さ、芝質に合うものを細かく選ぶのでバリエーションをたくさん持たなければならず、ストックづくりが大変です。リーディングエッジ側(飛球線側)やトレーリングエッジ側(後方)の角度を変えたり、頂点の位置を1mm前に、後ろにずらしたり…。わずかな変化なんですけど、作っては試してを繰り返します」と中村氏。

これまで作ってきた形状違いのウェッジは、40種類はくだらない。他のツアープレーヤーは「一年を通して同じ形状を使う選手が多く、たまにローバウンスのものを用意する選手がいるくらい」と言うから星野のサポートは…大変だ。

1gの差を見極める

感覚が優れたゴルファーを相手にクラブセットを組むにあたり、製造側が頭を悩ませる問題のひとつに“個体差”がある。同じ製品の中にも形状や重さにほんのわずかな、大多数の人は気づかない違いが出てしまうのが現実だ。ゴルフクラブをつくるヘッド、シャフト、グリップそれぞれに細かい製品管理をしているにも関わらず、バラつきが出る。パターで1g以下の調整を施す星野だから、やはりその誤差にも厳しい。50.5gのグリップの誤差の許容範囲は±0.3gまで。130gのアイアン用スチールシャフトは±0.5gまで、と細かくオーダー。それらを組み合わせる接着剤の量にまで目を光らせる。

「接着不良を起こさない(使用中に抜けてしまわない)ように、1本あたり“最低”1gは入れるのですが、星野選手はその通り1gでないとダメ。でもそれだけ重量管理をするので、ちょっとした鉛を貼っても分かりやすいのだと思います」

これだけそろってようやく、指定のグリップテープ(バッファロー)を巻き始める(らせん一重巻き)ことができるという…。

<後編へ続く>