ゴルフ場の当たり前を変えるかもしれない「ゴルファーを迷子にしない」新サービス~サンメンバーズCC
どんな業界にも長年の慣習が存在する。他業種から見れば、違和感があることでも、業界内にいるとそれは目に入らなくなってしまう。ゴルフ場関係者も、ゴルファーも“それは盲点だった”と思ってしまうようなサービスを行っているのが山梨・上野原市のサンメンバーズカントリークラブ。親会社がドアサービスやペットタクシーなど、独自のサービスで知られる三和交通とあって、ゴルフ業界ではおそらく誰も気にかけていなかったことに、気が付いてしまったようだ。
ゴルフ場の“コンシェルジュサービス”とは何か
新たなサービスのヒントを見つけたのは武井良人営業部長が一人のゴルファーとして別のゴルフ場にプレーに訪れたときのことだった。「自分が勤務するゴルフ場のことは隅々まで知っていますが、そのゴルフ場ではフロントで受付をした後、ロッカールームはどこだろう、マスター室はどこだろうと少し迷ってしまったんです。そういえば、我々のコースでも時々、ウロウロしている人がいることを思い出しました」。
確かにクラブハウスの作りはゴルフ場によって違う。フロントから奥に進んで、ロッカールームが右手にあることも、左手にあることも。2階に上がることもあれば、階段を下りるということもある。初めて訪れたコースの場合、なんとなく人の流れに従ったり、案内表示を探すなどして、多くの人が自力でロッカールームに辿り着いているはずだ。
ゴルフ場ではスタッフも、ゴルファーもそれが当然のように思っているが、ビジネスホテルならどうだろう? チェックインの際には大浴場、朝食会場など、館内の説明があり、最後はエレベーターの場所を教えてくれるのが当たり前。比べてみると、多くのゴルフ場はやや不親切なようにも思えてくる。
「案内表示を増やすという方法も考えましたが、スペースの関係で難しかったので、それならば人の力で、と考えたのが“コンシェルジュサービス”です」。初来場のお客さんにクラブハウス内の案内をするという武井部長の提案に豊田茂良支配人はすぐにゴーサインを出した。
「ゴルフ場のクチコミを見ると、困りごとへの対応が好評価に繋がっているものをよく見ます。例えば『渋滞で遅れてしまったが、その際の対応が良かった』といったものです。初めて来場して何がどこにあるか分からない方に適切に対応するのはいいアイデアだと思い、今年1月からサービスを始めました」。厳密には場所が分からなくて困る前に教えてくれるのだが、豊田支配人の読み通り、クチコミでも高評価を得ているという。
「ゴルファーを迷子にしない」がサービスの基本
担当するのは提案者の武井部長を含めた管理職。朝はクラブハウスの玄関でゴルファーを出迎え、車から荷物を下ろすのを手伝っている。「初来場の方と2回目以降の方では受付用紙に記入していただく内容が違うので、初来場の方だと分かったら、フロントのスタッフから無線で連絡が入ります」。ここで担当者はクラブハウス内に移動し、受付を終えた来場者に声を掛ける。
「フロント担当が『専任スタッフによるご案内がございます』と声を掛けた後『ご来場ありがとうございます。軽く施設をご案内させていただきますが、よろしいでしょうか?』とご挨拶します。ほとんどの方は『よろしくお願いします』とおっしゃいますが、断る方もいらっしゃいますし、途中で反応を見て、ご案内を簡略化することもあります」。まずは手荷物置き場へ。続けてロッカールームに向かいつつ、途中のレストランやカート乗り場、少し特殊な位置にあるマスター室の場所を伝えていく。
さらに来場者が男女の場合には、ソファースペースも紹介する。「先にロッカールームから出てきた男性が女性を探しているのをよく見かけるので『待ち合わせ場所に使ってください』とご案内しています」。これには心当たりのあるゴルファーも多いだろう。男性客に対してはロッカールーム内でも案内は続き、風呂場の場所、暗証番号を登録するロッカーの使い方を説明して終了。ポーターではないので荷物を持つのはゴルファー自身だが、高級ホテルのような接客ぶりだ。
ここまでできるのは、来場者のうちメンバーが占める割合が6割と非常に高く、必然的に初来場者の人数も限られているから。ビジター比率の高いゴルフ場が同じことをやろうと思えば、人員を増やす必要があるかもしれないが、サンメンバーズでは既存のスタッフだけでコンシェルジュサービスを実現させている。
フロントで「ロッカールームは右手です」程度の説明を受けたことがあるが、ゴルフ場でこれだけ丁寧に案内されたことはない。ただ、実際にサービスを受けてみると、なぜ他のゴルフ場がやってこなかったのかが不思議にも思えてくる。近い将来、ゴルフ場の常識が変わってコンシェルジュサービスが当たり前になった時には、その元祖としてサンメンバーズの名前が全国に知れ渡っているかもしれない。