科学の力でお悩み解決

たかが「1度」されど「1度」の肩の向き レッスン最前線からLIVE中継

2023/07/09 16:00

これからお届けするレッスンのやり取りは、感覚論とは無縁の科学目線の世界。最新技術を使ったいまどきのコーチたちのリアルなレッスンの一部始終をレポート。人の振り見て我が振り…直せます。

たまに出る「プッシュアウト」が悩みの高橋さん(20代、男性、平均スコア80)

ベストスコア72という腕前の高橋(たかはし)さん。大学時代はゴルフ部に所属していたというだけあって、スイングはキレイで飛距離も平均280ydという飛ばし屋。しかしラウンドの頻度が月1回ほどに減っている現在、1ラウンドに1~2発、ドライバーで右にプッシュしてOBが出るのが悩みだという。高橋さんのテーマは、このOBを減らすことだ。

スイング解析で右プッシュの原因を探る

プロ(写真右)は、腰が目標方向(トゥワード)に動くのに対して高橋さん(写真左)は、目標と反対方向(アウェー)に動く右へのスウェーが見られる

森継章仁(もりつぐあきひと)コーチがスイングチェックを行ったが、「基本的にはすごくキレイなスイングで、大きな問題はありません」と絶賛。が、ときどき出るプッシュアウトの原因を考えると、バックスイングでの“わずかなスウェー”が気になると森継コーチは診断する。

バックスイングで腰の回転量がやや不足し、その代わり右方向にスライドする代替動作が生じている。このスウェーのせいで、ダウンスイングで重心がやや「右残り」になって振り遅れ、プッシュが出るというわけだ。「一般的なアベレージゴルファーであれば、右へのスウェーはダウンスイングでの左への突っ込みにつながり、カット軌道のスライスになりがちですが、インサイドからボールをとらえる感覚が身についている上級者の高橋さんは、そういった『ありがちなミス』にはならずにプッシュアウトになっているのだと思います」と森継コーチ。

わずか「1度」のズレがスイングに大きな影響を及ぼす

プロは右腕が左腕に比べてやや体側に。高橋さんは右腕がやや前に出てわずかに左を向いている

プッシュアウトの原因は明らかになったが、「スイングの動きを修正するのではなく、アドレスを見直すところから始めるべき」と森継コーチは指摘する。「高橋さん(写真左)はバランスがよくキレイなアドレスですが、球筋の傾向を見ると肩のラインが『9度~10度前後オープン』になっていて、上半身と下半身で向きのズレがあります。アドレスで上半身がオープン=左を向いているため、左へのミスを嫌がって右に逃がす動作が生じています」という見立てだ。

「バックスウィングでのスウェーも、構えが左を向きすぎているから『しっかり右に乗りたい』という意識が生じてのことですし、ボールを思い切ってつかまえにいけないのも『左向き』の構えに原因があります」(森継コーチ)。ツアープロ(写真右)の平均値が「8度オープン(※)」という点を見ればわずか1、2度のズレだが、ドローヒッターの上級者である高橋さんにとっては、このズレがスイングに大きな影響を及ぼしているというわけだ。

※肩のオープン度合いは、前傾の角度・両肩の傾き角度と連動するため、8度オープンの状態で両肩を結んだ線は、ほぼスクエアになる。

右肩が少しだけ低い構えで肩の開きを抑制

正面にクラブを構え左肩よりも右肩が低くなるように構え、そこから前傾姿勢をとる

構えの修正には、まずはセットアップから。高橋さんは体の真ん中に手元とクラブをセットして真っすぐ構えているため一見キレイなアドレスだが、「本来右手が下に来るゴルフの構えからすると右肩が高すぎです。そのせいで肩のラインが左を向いているのだろう」と森継コーチは指摘。現状よりも少しだけ上体を右に傾け、適切な「右下がり」の構えを作る形に変えた。構える前にクラブを体の前に立ててセットする際、両肩のラインを飛球線と平行に保ちつつ、左肩よりも右肩が少し低くなるようにするのだ。「クラブは少しだけ右に傾いてもOKです。そこから前傾してアドレスするという手順をていねいに行いましょう」(森継コーチ)。たったこれだけの修正だが、高橋さんにとっては劇的な変化があったようだ。

左サイドに壁ができることで、右サイドにスペースがうまれインサイドからクラブを下ろす準備ができる

「構えた段階からボールの見え方が変わり、体の右側に空間ができたのがわかりました。しかも上体を右に傾けることによって左腰の横あたりに“壁”がある感覚が生じたので、安心して左に踏み込んでいけるし、思い切ってインサイドから下ろしても怖くない。自分がドラム缶のような筒の中に入っているようなイメージが湧いてきました」(高橋さん)

右方向に打ち出しつかまったドローボールが

左に振り切れるイメージができることで、球もつかまり飛距離アップにもつながった

実際に球を打ってみると、しっかり右方向に打ち出してつかまったドローボールが出始めた。球がつかまっていることに加え、恐怖感なく振り切れて、飛距離アップも実現。スウェーの動きも明らかに縮小傾向だ。練習では、肩の向きを意識し、「つかまったドロー系の球が出ていればOK」と森継コーチ。「プッシュアウトを警戒しすぎると構えが左向きになり悪循環になるので、『ナイススイングできれば球がつかまる』という自信を持って右を向くことが大事です」(森継コーチ)。

アドレスを変えることでスイングが激変することも

わずかな違いだが「1度」の差は250yd先では大きく影響する

「高橋さんほどの腕前なら、この『1度』にこだわってほしいですね。でも上級者に限らずアベレージゴルファーであっても、アドレスでスイングが劇的に改善されるケースは多いです」と森継コーチは結論付けた。

構えだけでスイングが劇的に改善。これでOBがなくなれば、久しぶりのベストスコア更新も夢ではないかもしれない。

■ 森継 章仁(もりつぐあきひと) プロフィール

1999年8月1日生まれ、大阪出身、ゴルフテック恵比寿所属。
8歳からゴルフをはじめ、高校から大学にかけてゴルフ部に所属。学生時代には優勝経験もあり、18年・19年全国大会に出場するなど、プレーヤーとして腕を磨いてきた。コーチとしての指導する傍ら、プレーヤーとしても日々腕を磨いている。