科学の力でお悩み解決

「オープンフェース」を直したら…カット軌道も直ってきた レッスンの現場からLIVEルポ

2023/07/30 16:00

これからお届けするレッスンのやり取りは、感覚論とは無縁の科学目線の世界。最新技術を使ったいまどきのコーチたちのリアルなレッスンの一部始終をレポート。人の振り見て我が振り…直せます。

飛ばないコスリ球に悩む難波さん(女性、ゴルフ歴15年、平均スコア97)

難波遥香(なんばはるか)さんは、平均スコア90台後半。ドライバーの飛距離は「当たれば180yd前後」というが、弾道はスライスで、コースではコスリ球が出て飛ばないことが多いという。つかまったドローで飛ばしたいというのが現在の目標だ。

「自分でもカット軌道(アウトサイドインの軌道)なのは分かっていますが、なかなか直せません。バックスイングの回転不足が原因なのではないかと思って、いまは『肩の回転』を意識してスイングしています」(難波さん)

スイング分析でわかったカット軌道の原因

肩、腰と回転量は素晴らしい数値だが...

問題点は分かっているが、それを直せないというもどかしさを感じている難波さん(写真左)。今回は安部ひとみ(あべひとみ)コーチがその悩みの解決に取り組む。

後方からのスイングを見てみると「意識しているだけあって、バックスイングの回転不足は問題ありません。ツアープロの平均はトップで『肩が88度、腰が44度』に対し、難波さんは『肩が98度、腰が50度』と平均以上に回っています」と安部コーチは評価する。一方で、ダウンスイングでの左への突っ込みや、フェースコントロールに問題があると指摘する。

難波さんは、ダウンスイングでフェースは開きながら下り、さらにクラブ軌道は外から

ダウンスイングでの左への体重移動は十分なものの、その際、上半身も左に(写真左)突っ込んでしまっている。これがカット軌道の原因のひとつと安部コーチは分析する。

「映像を見ると頭の位置が左に流れています。これは上半身で球を打ちにいっている証拠。難波さんはフェースを大きく開きながらクラブを上げるので、ダウンスイングでフェースを閉じる量も大きく、上体の力でもって強引にフェースを返そうとしがちです。そうなると右肩もかぶりやすく、頭も飛球線側にズレ、クラブがラインの外(写真右)を通るカット軌道につながりやすい。ですから、まずはフェースの使い方を覚えることが、修正のカギになりそうです。その結果、上体の突っ込みなども直ってくると思います」(安部コーチ)

早速、難波さんのフェース管理の修正に取りかかった。「バックスイングでのフェースを開く量を抑えて、球のつかまりアップを目指しましょう。フェースをもう少しシャット(閉じて)に使えるようになれば球はつかまりやすくなります。そうなるとインアウトで振っても右へのミスの心配がなくなってくるので、軌道も徐々にアウトインからインアウト方向に修正されていくはず。先に軌道を直す方法もありますが、飛距離が落ちてしまうケースも多い。もともと飛ばない女性の場合は飛距離の落ちにくいフェース管理から先に直すほうがおすすめです」と、安部コーチは改善方法の順番を提案した。

グリップ修正でフェース管理をシンプルに

少し上から握るフックグリップ(写真右)にすることで、左腕の内旋が抑えられてバックスイングでフェースが開きにくくなる

フェース管理の上で、最初に直したのはグリップ。「左手がグリップを少し横から持つような握りだったため、バックスイングで左腕が内旋しやすく、フェースが開きやすい状態になっていました。左手をいまよりも少し上から握るフックグリップに変えました。左腕の内旋が抑えられ、バックスイングでフェースが開きにくくなるとともに、インパクトでのフェースの開きも抑えられます。ダウンスイングでフェースが閉じる感覚がつかめると、問題に挙げた上半身が左に突っ込む悪い動きが減ってくるはずです」(安部コーチ)

アドレスは、正面から見て体が「逆くの字」を描くような形に

アドレスで頭の位置を右にズラすことで、インサイドから球がとらえやすくなる

さらにセットアップに手を加え、正面から見て「逆くの字」になるように、右肩が低いアドレスに変更した。これによって右手の力みが生じにくくなるとともに、自然に球がつかまる状態を作れる。

「アドレスを変えたことで、難波さんご自身は少し右足体重に感じるかもしれませんが、それでやっと左右5対5くらい。これが適正だということを覚えておいてください」(同コーチ)

バックスイングでフェースをシャットに上げる

バックスイングでフェースを閉じて上げることで、ダウンスイングで自然に球をつかまえる形がつくれるようになる

セットアップを変えた状態からフェース管理を修正します。「フェースを下に向けるイメージでバックスイングしてください。フェースを開く量を抑えることで、いままでよりも球がつかまってくるはずです」(同コーチ)

改善前と改善後では、ダウンスイングでの手元の位置やクラブの軌道が少しではあるが変化した

このイメージで何球か打った難波さんの球は以前よりもつかまり気味で、スライスは明らかに軽減され、「アウトサイドイン軌道」も弱くなっていた。
「インパクトの感触が変わって当たりがぶ厚くなってきました! 飛距離も伸びていますし、たったこれだけでこんなに効果があるのかとびっくりしました」(難波さん)

改善後は、ダウンスイングで頭の位置に変化が見られる

フェースの使い方を改善し、球のつかまる感覚が体感できたことで、安心感が生まれ上半身が左に突っ込む悪い動きが減ってきている。

インサイドアウト軌道を明確にイメージする練習法

左手前と右奥に障害物を置いてスイングすることで「インサイドアウト軌道」をイメージする練習法

フェースの向きが改善されてきたので、次は軌道を「アウトサイドイン」から「インサイドアウト」に近づけていくドリルを追加。そのために安部コーチは、ボールの前後に障害物を置いてスイングする練習法を提案した。

「『アウトサイドイン軌道』だとジャマになる位置に障害物を置くことで、『インサイドアウト軌道』のイメージが明確になります。最初は障害物にヘッドが当たってしまいそうで怖いかもしれませんが、そこに当てないように気をつけるだけで自然と軌道がよくなり、ドロー回転の球が出るようになります。『がんばって球をつかまえなければ』と考えなくても、構えやイメージを変えれば、力まなくても球はつかまるんです」(同コーチ)

「アドレスやグリップはスイング軌道に大きな影響を与えるので定期的にチェックして欲しい」と安部コーチは語る

スライサーが抱える「アウトサイドイン軌道」と「フェースオープン」という2つの問題点のうち、フェースを直すことによって連鎖的に軌道も改善に向かってきた難波さん。まだ違和感があると語るがこの動きを習得できれば、脱スライス・飛距離アップもすぐに実現できるだろう。

■ 安部 ひとみ(あべひとみ) プロフィール

1986年9月11日生まれ、千葉県出身、ゴルフテック大手町所属。
11歳からゴルフを始め中学・高校とゴルフ部に在籍。その後は東京ゴルフ専門学校を卒業し学生時代には国体選手も経験。卒業後は千葉県内のゴルフ場で研修生を経て2011年から千葉県内でレッスン活動を開始。自身の怪我の経験からコンディショニングにも興味を持ち、2013年にゴルフコンディショニングスペシャリスト資格を取得。