消したほうがいい「右側の世界」/石川遼 パットの教室 Vol.2
石川遼のいちばんの武器は?間違いなく誰もが「パッティング」と答えるだろう。その技術の高さはプロの間でも群を抜き、数多くの名シーンを演出してきた。グリーン上でどんなことを考え、どうやってその繊細なタッチを作ってきたのか。今まで語ることの少なかった頭の中のロジックを、特別に話してくれた。2回目は出球の管理について。(取材・構成/服部謙二郎)
左側の世界でパッティングをしよう
パッティング中のストローク(打ち方)を全く気にしないという石川は、パターのヘッドがどんな軌道を描くのかといったことは、もちろん気にしていない。好みのパター(L字マレットなど)から類推するに、イントゥイン軌道が強めのように思えるが、「たぶん、イントゥイン…ですかね(笑)。でもホントに気にしたことがない」と言うほど。トップ選手がこうなのだから、ヘッドをどう上げてどう下ろすかといった類のことを、我々アマチュアは気にし過ぎかもしれない。
「バックスイングやダウンスイングを気にしている人は、ボールが出ていく先の左側の世界を消して、ボールの手前(右側)だけ見たいのだと思うんですよ。それは僕もやったことがあるのですが、あまり良い結果にならなかった」
今でこそパットの名手として知られている石川だが、調子を落としていた時期があった。当時、意識していたのが体の右サイドの世界だったという。「頭を右に向けたまま打っていたことがあって。あの時は本当に良くなかったですね」。体の右サイドで全て完結するような打ち方だと、カップまでのイメージが湧かず、距離感が出せなかったというのだ。
「タイガー(・ウッズ)みたいに頭を動かさずにパンって球を出して、思ったところに出球を出すことを優先してやっていたんですよ。『出球が狙ったところに出れば入る』という考えでやっていました。でもそれって、アドレスでフェースがちゃんと目標を向けていないとダメ。自分のセットアップを次第に信頼して打てなくなってくるんですよね。さらにカップを見えないようにしていたので、出球とその先の世界の繋がりもなくなっちゃって…」
インパクトからフォローにかけての体の左サイドを意識するようになって、石川のパッティングは復調した。「今はボールから右を全部シャットアウトとして、 ボールとカップの方の景色をめちゃくちゃ見ています。カップ、出球、ボールが全部見えているような視界でいたい。だってやっぱりあそこ(カップ)に打ちたいわけですからね。今は体の右側の世界に全く興味がなくなりました(笑)」
過去の試合の写真と見比べても、アドレスやインパクトの顔の向きがだいぶ違うという。「ボールとカップが自分の視界に収まる顔の向きってあると思うんですけど、その全部が見える顔の向きになっていると思うので、基本的には今は体の左側を見ています。打つ瞬間も顔が上がるのは早く、ルックアップ気味。そうすると、前回話したインパクトのフェース向きも見え、出球も見えて、カップも見える。ショートパットは少なくともその状態が理想ですね」
ロングパットではカップが視界に収まらないが、カップを見ながら打つと出球が見えなくなるので、出球が見えるギリギリの「どっちつかずぐらいな視線」が今の正解らしい。
アドレス時のボール位置も自ずと左側に移ってきていて、「左目のさらに外に置いています。やっぱりもうこっち(左側)しか見たくないので。ですからヘッドが左目の下ぐらいですね」と言って構える石川。左目の辺りから別のボールを落としてもらうと、ちょうどヘッドのヒール側に当たった。「左目よりボールが1個分左(カップ側)かつ外(体の反対側)にありますね。自分が思っているより左の外側」と自分でもそのボール位置が新鮮だった様子。
「(左に置くのは)もう僕は体の左サイド特化型だからかな。ボールが右にあると、やっぱり体が閉じちゃうんですよね。体を閉じると右サイドだけしか見えなくなる」。顔の向きを左に向けているので、体が右を向いてしまうと、バランスがおかしくなると考えているようだ。
最終的には、「ボールが出て10cmから30㎝ぐらいの間のところに、こう線みたいなものが見えてくるといいんですよね。それが見えてきたら、もうそこにこうパンって打つだけ」という境地になるらしい。我々アマチュアにもその線が見える日がくるのだろうか…。少なくとも体の右サイドは意識しないほうがよさそうだ。