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「インパクトまで約1秒」日本では珍しいパット専門コーチの教えVol.2

2024/05/08 16:22
テンポスティックを使いながら振り幅とリズムを揃えていく

PGAツアーでは一般的な「コーチの分業制」が今、日本でも少しずつ浸透しつつある。国内ツアーでパッティング専門コーチとして活躍するのが、昨年スコッティキャメロンとアドバイザー契約を結んだ24歳の丸山颯太氏だ。プロツアーのシード選手から多くのアマチュアを指導。今回は同業のコーチ向けに行われた丸山氏のパッティング講座に潜入した。いささか難解ではあるが、アマチュアにとっても攻略のヒントになるかもしれない。(第2回/全3回)

距離感をつかさどる「スピードコントロール」

◇◇◇◇◇

パッティングのコーチングとして、テーマに挙がるのは以下の7項目。(前回の続き)で「距離感」から説明していきます。

1. 打ち出し方向(ダイレクション)
2. エイム(向き)
3. スピード(距離感)
4. ボールの転がり&スピン
5. ストローク
6. クラブフィッティング
7. グリーンリーディング(ライン読み)

距離感のことを「スピード」と呼んでください。ボールのスピードをコントロールすることが、パットのタッチにつながるからです。パット巧者はボール初速をコントロールして到達距離を操ります。初速を速くして遠くまで届かせることもあれば、遅くして距離を合わせることもあります。

では、どうやって初速をコントロールするのか。ボール初速は「打点」と「インパクトスピード」で決まります。まず打点に関して。芯を外すとエネルギー効率が落ち、球離れのスピードも変化するため、常に同じ所でヒットし続けることが大事。もちろん芯がベストですが、毎回同じ所に当たるなら芯でなくても良く、打点がバラバラになる方がNGです。

距離感はスピードのコントロールで決まってくる

続いて「インパクトスピード」とは、簡単に言うとヘッドスピードをコントロールすること。そのために以下の4つの項目が絡んできます。

1. 加速
2. 振り幅
3. テンポ(ストローク時間)
4. リズム

この4つをうまくコントロールすることで、最終的にインパクトスピードが決まります。

ストローク時間の比率は「2:1」

ひとつ目の「加速」が、インパクトスピードに大きく影響します。ストローク中にアクセルは2回踏むもので、クラブを動かし始める「始動」が1回目。トップからの「切り返し」、クラブが方向転換する時が2回目です。アマチュアの方は、2回目の加速のタイミングがバラバラになりやすい。原因に「振り幅」があります。

例えばカップまでの距離に対して短いテークバックをとってしまった場合、(カップまで)届かなそうだから、大体の人は切り返しで急加速させてスピードを上げますよね。逆にテークバックで大きく上げすぎると切り返しで緩み、減速につながることもあります。距離に対して適正な振り幅が取れないと、安定した加速はできません。

加速をコントロールするには、このアクセルを踏むタイミングがズレないことが大切です。PGAツアーの選手の平均ストローク時間は、始動から2回目のアクセル(切り返し)までが平均0.66秒、そこからインパクトまでが0.33秒。つまり、ストローク時間の比率が2対1(アドレスから切り返しが2、切り返しからインパクトが1)になります。この関係を理解できるとストロークのリズムが良くなり、加速も安定してきます。

アマチュアは「遅い」

PGAツアーの平均ストローク時間は約1秒

一方で、振り幅は「テンポ(ストローク時間)」と「リズム」が基準になります。PGAツアー選手の平均テンポ、ストロークにかける時間は1秒。始動からインパクトまで正確には0.99秒です。対してアマチュアの平均データは、始動からトップまですでに0.82秒。インパクトまで含むとトータル1.22秒、最も遅い方で1.44秒でした。PGAツアーの選手より明らかに時間がかかっています。

さらにストローク時間に対してリズムがあり、人それぞれで異なります。タイガー・ウッズで大体115ビートといわれています。メトロノームなどで聞くと115ビートはけっこう速く、テークバック時間でいうと0.55秒ぐらいしかかかっていません。映像で見ても分かる通り、タイガーはテンポもリズムも速いです。

振り幅、テンポ、リズムがなぜ密接かというと、テンポとリズムは基本的にどの距離になっても変わらないからです。変わらないというよりは変えない。つまり、ストローク時間とリズムを固定した中で、振り幅によってヘッドスピードを変化させ、ボール初速を変えているわけです。パットの上級者は、同じストローク時間の中で、クラブの動く幅を変えて距離を打ち分けているのです。

タイガー・ウッズは短いパットも長いパットもリズムは速い

ですから、選手にコーチングをする際は、まずテンポとリズムを固定してもらいます。メトロノームを聞いて90ビートと決めたら、頭にそのリズムを刻み込んでもらう。あとは同じリズムの中で振り幅とヘッドスピードを変化させ、ボール初速をコントロールします。岩崎亜久竜プロもスタート前のルーティンでは、必ずメトロノーム聞きながら、10m、15mとそれぞれの距離の振り幅を練習しています。グリーンの転がるスピードは毎日変わるので、自分のテンポとリズムで打った時に、「この振り幅で今日はどれだけ転がるのか」ということを確認してもらっています。

このやり方をアマチュアの方にも提案しています。朝の練習グリーンでカップばかり狙う練習はお勧めしません。自分の振り幅もテンポも明確にせず、バラバラの振り幅とヘッドスピードでは、効率よく距離感をつかむ作業はできません(さらに打点もバラバラになる)。メトロノームを聞くだけでもいいですし、一定の振り幅にティを刺して振り幅を可視化するだけでもいい。基準をもってボールを転がしてあげると、その日のグリーンに対応できるスピードを作ることができるはずです。

「いい転がりとは?」ボールの転がりを決める3つの要素

次は「ボールロール」、いわゆるボールの転がりです。僕は普段「クインテックボールロール」という機材を使って、プレーヤーのボールデータを測定しています。ボールの転がりについて、よく「順回転がいい」とか「跳ねないように」などと言われますが、いい転がりを生むには以下の3つの要素が大切になります。

1. スキット
2. ランチアングル(打ち出し角)
3. スピン

一つ目の「スキット」とは、インパクト後にボールが地面の上をスライドしている状態を指します。インパクト後、ボールは向きを変えずに無回転で横滑りしています。いいボールの転がりが出た場合、スキットはカップまでの距離の約10%になります。3mのパットだったら30cmで、その間はグリーンの傾斜の影響をほとんど受けません。

岩崎亜久竜に話をする丸山氏。選手はその週のグリーンスピードに合わせて距離感を作る

良くないのは、スキットが10%、15%、7%…とバラついてしまうこと。ボールが曲がり始めるポイントも変わってしまいます。またスキットが大量に発生すると、ボールが跳ねてしまい転がりにも直進性がなくなってしまう。結果、距離感にもバラつきが出ます。選手のバターをフィッティングする際は、クインテックを使ってこのスキットがどれだけ安定しているかなども見ています。スキットを安定させることで、ボールの転がりは良くなっていきます。

スキットを安定させるために影響してくるのが、二つ目と三つ目の項目、「ランチアングル」と「スピン」です。ランチアングルはショットでも使う用語で、ボールを打ち出す高さのことです。パットも一緒で、ボールの打ち出す高さとスピン量が重要になってきます。

グリーン上では、芝に沈んだ状態のボールを一度持ちあげる必要があります。その際の適正なランチアングルが0.5度から2度。スキットと同様に、ボールデータを取るときにこのランチアングルもチェックします。

ランチアングルを決める要素には二つのロフトが絡んできます。一つは「静的ロフト」、つまりパターのロフト角です。クラブ自体のロフトが何度なのか、レッスンする時は必ず最初に計測します。

もう一つが「ダイナミックロフト」、いわゆるインパクト時のロフト角です。ランチアングルに約80%影響してきますから、ここもしっかりとチェックします。ダイナミックロフトは主にシャフトの傾きに影響を受けます。ハンドファーストに当たればダイナミックロフトは立ち、ハンドレートならロフトは寝る。アマチュアの約7割近くの方がハンドレートで構える傾向があり、ダイナミックロフトが必要以上についてしまうことで、ランチアングルは適正より多く出てしまいます。

スキットを安定させるといい転がりにつながる(写真はイメージ)

ハンドレートになる主な原因としては、右手からアドレスに入り、右肩を軸に構えてしまう方が多いからだと思います。アドレスでロフトがついた状態で構えやすく、さらにインパクトでアドロフト(ロフトを増やして)して打つパターンが多いですね。

ハンドレートで構えると大体アッパー軌道になります。クラブの最下点がボールの7~8cm手前になり、さらに構えた時点でフェース下部が前に出ているので、打点はフェースの下目になりがちです。ダイナミックロフトがついて、なおかつアッパー軌道で打点が下目。これだとバックスピンが入る条件が揃います。打ち出しが高くてスピンも入ると、ボールの転がりは悪くなる。この状態で距離感を作ることは非常に難しくなります。

フォワードスピンを目指そう

最後の「スピン」には、バックスピン、フォワードスピン、サイドスピンの3種類があります。バックスピンとフォワードスピンは、ほとんどダイナミックロフトで決まるといっても過言ではありません。入射角とダイナミックロフトの差、いわゆる「スピンロフト」でバックスピンとフォワードスピンは決まります。理論上はフォワードスピンが良くて、バックスピンが入り過ぎると良くない。

サイドスピンもショットと同じように、フェーストゥパス(ヘッド軌道に対するフェースの向き)のズレによって生まれます。前回説明しましたが、ターゲットに対してパスが大きくズレる方は、フェースの向きをターゲットに合わせにいきやすいので、フェースとパスとの差が生まれて、サイトスピンが大きく発生しやすくなります。そうした方にはパスの修正を入れていきます。

パッティングでも「スピン」の役割はかなり大きい

もちろん打点がトウとヒールに外れた際にもサイドスピンが発生します。トウ側だとフックスピンが増加して、ヒール側に当たるとカットスピンが増加する。パットが上手い方は、基本的にサイドスピンは全部フック回転、フェーストゥパスもクローズ、つまりドローワーク(ドローの動き)の方が多い。スライス回転でパターが得意な選手には、今のところまだ一人も出会ったことがないですね。(取材・構成/服部謙二郎)

第3回(最終回)は「ストローク」「クラブフィッティング」「ライン読み」を学びます。