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“科学者”デシャンボーの肉体改造 カギは「体幹」と「支える」筋肉

2020/09/04 16:00
周囲が驚く肉体改造で20yd以上飛距離を伸ばしたデシャンボー その秘密に迫る(写真は「ロケットモーゲージ・クラシック」時/Gregory Shamus/Getty Images)

肉体改造により、まるで別人のような体格に変わったブライソン・デシャンボー。平均飛距離は昨季から20yd以上も伸び、米ツアーでは7月に今季初優勝。その後も好成績を収め、年間王者を争うプレーオフではポイントランク8位で最終戦に進出した。“ゴルフ科学者”の異名をもつデシャンボーの筋力強化の狙いと効果をゴルフスイングコンサルタントの吉田洋一郎氏が解説する。

「飛距離アップ=スコアアップ」が肉体改造の根拠

――デシャンボー選手が肉体改造に取り組む理由は?

吉田洋一郎(以下、吉田) 彼は物ごとをロジカルに考え、結果に対して、どういうステップを踏むとうまくいくかを常に考えている選手。肉体改造に取り組んだのも、現在のPGAツアーにおいて、飛距離を伸ばすこととスコアが伸びることの相関性に基づいていると思います。コロンビア大学のマーク・ブローディ教授の研究によると、飛距離が20yd伸びるとバーディ数が増え、4日間競技だと3、4打は減らせる結論になるそうです。スコアを伸ばすために、飛距離アップは欠かせない要素なのです。

――スイングはどのように変わった?

吉田 もともと「ゴルフィングマシーン」とも呼ばれる独自のスイングで知られていましたが、2018年にクリス・コモコーチと契約してから、バイオメカニクス(生体力学)の理論を取り入れるようになりました。特に、足を積極的に使ってスイングスピードを上げることに取り組んでいます。具体的に言うと、左足を踏み込む動きがかなり強くなりました。ヒールアップをして、グッと踏み込んでいます。

今までは上半身の動きに集中し、テークバックとダウンスイングで同じプレーンを描く、ワンプレーンスイングが彼の特徴でした。ここにプラスして、足を使って地面反力(地面から跳ね返る力)を得ることで、ヘッドスピードを上げています。

トップでかかとを上げ(左)てから、強く踏み込む(右)ことで地面反力を得てヘッドスピードを上げる

――足を使うスイングと肉体改造の関係は?

吉田 スイングの動きに関するトレーニングの中に、フィジカルトレーニングを取り入れているようです。いくら筋力があっても使い方が間違っていると無意味なので、プレッシャーマットを使って踏み込む力を計測したり、スイングを定期的に調べてデータを取ったりして、いかに効率よく自分の力を使うかを確認しながら取り組んでいるようです。

また、足を使って地面反力を得るスイングには、積極的に動かす股関節の柔軟性なども関わってきます。股関節の収縮と伸展ができないと、ひざに頼ってしまい、ケガの原因にもなります。肉体改造とスイング改造を同時並行で進めていることも実にロジカルといえます。

体幹強化により反力がスムーズに上半身へ伝わる

――下半身から得た力をヘッドスピード向上につなげるには?

吉田 下半身からもらった力を上半身に伝えるために重要になるのが体幹です。ここが安定していないと力が伝わりません。体幹が弱いと、その部分が傾いて軸回転ができなくなり、下半身で作った力が逃げてしまいます。

デシャンボー選手は肉体改造の前、左の腹斜筋(脇腹にある筋肉)が弱かったそうです。そのせいで軸回転の際、その部分から力が逃げてしまっていた。弱点だった部位の筋肉を鍛えることで、あれだけ振っても曲がらない軸になったのだと思います。

腕とシャフトが“ブレない”一本の棒に変化≫
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