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渋野日向子のスイング改造 1年半の変化と次なる課題

2022/08/10 16:07
賛否のあった改造にも信念を曲げず意志を貫き通す渋野

海外メジャー今季最終戦「AIG女子オープン(全英女子)」を惜敗の3位で終えた渋野日向子。2021年シーズンの開幕前から大きなスイング改造に取り組み、紆余曲折を経て、大舞台で好成績を残した。改造直後と現在に変化はあるのか!? 当初「半年から1年がかりの大改造」と予測したスイングコンサルタント・吉田洋一郎氏が再び解説する。

レイドオフの形が板についてきた

渋野選手のスイング改造で象徴的なのは、トップでフラットに腕が上がるレイドオフの切り返しです。フェースをシャット(閉じた状態)に使い、クラブをアップライトに振り上げ、シャフトが少し寝ながら下りてくる以前のスイングから、腕の動きと体の回転を同期させたコンパクトなものに転換しました。

ランを使ってかなり飛距離が出ていた渋野(Richard Heathcote/Getty Images)

現在(2022年8月)のスイングを見ると、改造した内容が明確に体に馴染んできたことがうかがえます。21年3月の時点では、切り返し以降のフォローが、以前とあまり変わっていない部分を指摘しました。イメージしていたバックスイングはできていながら、ダウンスイング以降にあまり変化が見られませんでした。現在は調子の波はあるものの、切り返し以降も完全に適した動きに移行しています。目指している方向に、はっきり進んでいる変化が見て取れます。

「振り切る意識」に込められた真意とは

全英女子の好成績を呼んだ一番の要素としては、体の形よりも“タイミング”に着目するべきでしょう。彼女の目標とする動きは、ジョン・ラーム(スペイン)のような、クラブをシャットに動かす上半身の動きに加えて、切り返し直後の下半身の先行が必須になります。アドレス時から体重をあまり右に動かさず、そのまま左へ踏み込むような意識。バックスイングで、左ひざがあまり右ひざ方向に寄らず、切り返しをむかえる形が模範となります。

まだ完ぺきとはいえませんが、下半身がタイミングよく先行しているシーンが多くなっています。ラームのようにダウンスイングで左足を踏み込み、インパクトにかけて抜重(屈伸やステップの踏み替え)をしながら左足を伸ばし、地面反力を生かしながら素早く振り抜いています。ただ、まだ左足に体重を移行するタイミングが遅い場面が、少なからず見受けられます。この場合、インパクトで上半身が先行してフェースが閉じることで、左に引っかけたり、引っかけを回避するために右へプッシュしたりするミスが起こります。

目標はラームのコンパクトなスイング(Andrew Redington/Getty Images)

ミュアフィールドでの好調の要因は、首位で滑り出した初日のラウンド後に口にした「振り切ることを意識した」というコメントに集約されている気がします。振り切る=体の積極的な回転を指していると推測できます。振り切る意識を持って体を回転させることにより、無意識のうちに下半身が先行し、上半身との連動を生んでいると考えます。

男子プロ並みのパワーが必要な難スイング

スイングは目に見える形も重要ですが、それ以上に目に見えない“力(フォース)の使い方”が大きな要素となります。「AIG女子オープン」での渋野選手は、スイング中の力の流れに影響を与える“運動連鎖”や地面反力の出力タイミングが、うまくハマった結果といえます。下半身にクローズアップして見ると、適切なタイミングで左足を踏み込むことで、上半身と連動し小気味いいショットを連発していました。

渋野の調子を知るには左脚の動きがバロメーターに(David Cannon/Getty Images)

ただ、そもそもこのスイングは、体の強い選手でないと難しい動きです。クラブに仕事をさせて飛ばす女子プロにはめずらしく、男子プロ並みのエネルギーとフィジカルがないと厳しいもの。彼女の目指す理想形は、高く険しいものではありますが、一歩ずつ近づいていることは間違いありません。

■ 吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう) プロフィール

1978年生まれ、北海道出身。海外のスイング理論に精通するゴルフスイングコンサルタント。D.レッドベターを2度にわたり日本へ招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。世界各地で最新理論の収集と研究活動を積極的に行っている。オフィシャルブログ