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“スピンロフト”がなぜ大切なのか 日本初の「アプローチ専門コーチ」永井直樹が解説 (後編)

2024/12/11 11:00
インパクト時のロフトと入射角を合算した数値がスピンロフト。スピンロフトの数値が大きいとスピンが増える

日本ではおそらく初となるショートゲーム専門コーチが国内男女ツアーで活躍している。その名は永井直樹。まだ26歳という年齢で専門コーチを職業に選んだ理由を探りつつ、そのレッスン活動を紹介していく。後編はスピンロフトについて詳しく解説。(取材・構成/服部謙二郎)

――アプローチが上手くなるには、ローポイントのコントロールと、もうひとつ「スピンロフト」の確保ということでしたが

スピンロフトは、簡単に言うとダイナミックロフト(インパクト時のロフト)と入射角の合算値のことです。たとえば、ロフト60度のウェッジをシャフトを15度くらい傾けて(ハンドファーストにして)打つと、ダイナミックロフトは「45度」になります。さらにそのとき、10度ダウンブローで打ったとすると、45度+10度でスピンロフトは「55度」です。スピンロフトは60~65度のときにいちばんスピンが多くなるというデータがあるので、「55度」は最大値ではないですが、アプローチとしては優秀な数値といえます。

ビクトル・ホブラン(ノルウェー)のコーチ、ジョセフ・マヨは、打ち出し角を30度以下と低く抑えつつ、できるだけ入射角を強くしてスピンロフトを確保する打ち方がいちばん「寄せやすい」と言っています。実際、ホブランはその打ち方に変えたことでアプローチがものすごく向上しました。ホブランみたいな打ち方は、今は「ツアーチップ」と呼ばれています。

インパクトのロフト(約45度)ー入射角(約-10度)=スピンロフト(55度)はスピンがかかりやすい

では、打ち出し角を低く抑えるにはどうすればいいか。ウェッジの場合、打ち出し角は約65%がダイナミックロフトで、残りの約35%が入射角で決まると言われています。60度のウェッジでシャフトを15度傾け、さらに10度ダウンブローで打った場合は、29.25度(ダイナミックロフト45度の65%)から3.5度(入射角10度の35%。ダウンブローなのでマイナス)を引いて、だいたい25度か26度くらいの打ち出し角が取れるという計算ですね。ちなみにホブランをはじめ、ジョーダン・スピースなど、アプローチが上手いと言われる選手はほとんどこのくらいの数値(シャフトの傾きと入射角)で打っています。

――旧来の「右に置いてつぶす」だと、スピンロフトが確保できない?

ボールが右だと、上からは打てますがダイナミックロフトが取れないんです。そうするとスピンロフトも小さくなるので、低く出てスピンが少ない球になりやすいということになります。ならばと、ボールを左足寄りにずらしていくと、ダイナミックロフトは増えますが、今度は入射角が浅くなって、こちらも思ったほどスピンロフトが増やせないことが起こります。

これを解決するのがローポイントのコントロール。前回お話ししたみたいに、左足つま先と胸を開いて、ローポイントをボールの先に持っていくことで、左足寄りに置いたボールに対して、ロフトを寝かせたままダウンブローに打つことができるので、スピンロフトも確保できるというわけです。上手い人は、ダウンスイングで自分自身がさらに左に移動しながら打つことで、さらにローポイントを左にずらしつつ、ダウンブローの入射角で打っています。

右に置くとダイナミックロフトが確保できない(写真左)。ボールを左に置いて最下点を前へ(写真右)

――「ボールの手前からソールを滑らせる」というのがアプローチのコツというレッスンもありますが

それも間違いではないです。あくまで「ツアーチップ」の場合は、強めのダウンブローで、地面より先にボールにコンタクトすることを重視しているというだけなんです。実際、日本の選手の場合は、アプローチが上手い人(プロ)でもローポイントが右の人はかなりいます。これは、コースの芝質や練習環境(練習場マット)の影響が大きいと思っています。日本のコース(のフェアウェイ)に多い高麗芝は、ボールが少し浮いた状態になるので、ローポイントが右でもボールの下にリーディングエッジを潜り込ませる余裕があります。

感覚が鋭敏なプロであれば、微妙な“刃”の高さのコントロールは可能でしょう。ただ、ローポイントが左にあるほうが、いろいろな球質を打ち分けたり、世界の多様な芝質に対応がしやすいというのは間違いないと思います。

ボールの手前にテープを貼り、テープをはがさない練習をするとローポイントを意識できる
テープがはがれていなければ、地面より先にボールに刃が当たった証拠

――ローポイントを左にもっていくためのコツなどはありますか?

確かにいきなりローポイントを左にズラすのは難しいかもしれません。アドレスで左足つま先と胸を開くと話しましたが、同時に右足を少し引いてクローズスタンスの形をとってみてください。その際、右ひざを伸ばして、意図的に「左足下がり」の状態を作ります。このセットアップの何が良いかというと、クローズかつ左足下がり状態なので、自然と左重心を作りやすい。また右肩を高く保てるので、後ろから見たときに、手元が中&ヘッドが外に動きやすく、プレーンが高い状態(アップライト)を保ちやすいんです。そうなると手前に当たることも減りながら、スピンロフトも確保できます。

手元が中&ヘッドが外、プレーンは高くアップライトに保つのがコツ(写真左)

プレーンが低いまま(フラット)のアプローチもありますが、それでスピンロフトを確保するには手を前に出してヒールを浮かさなければいけない。ツアーに1年間帯同して思ったことは、アプローチの上手い選手は、手元が体のそばでヘッドが高い位置にあるという状態を自然にやっているということ。それで自然にローポイントとスピンロフトのコントロールを行っているわけです。

ちなみに、ツアーチップのように強いダウンブローで打つ場合は、バウンスはほぼ地面に当たりませんので、ローバウンスでまったく問題ありません。シャローなアプローチをする場合は、アマチュアの方でしたら10~12度くらいバウンスがあるほうがやさしいと思います。

胸を中心に振り子の動きがベース。胸を左に向ければ最下点は左へ

――では、最後に永井コーチの今後の目標、そしてコーチとしての夢を教えてもらえますか?

目澤さん(目澤秀憲コーチ)がマスターズチャンピオンのコーチとして活躍したことに憧れを抱いたというお話はしたと思います。まだ駆け出しの身ではありますが、私もいつかは自分が教える選手が海外のメジャートーナメントで優勝するのをサポートしたいと思っています。それによって他の若い選手たち、コーチを目指したい人が増えてくれれば本望。いつか自分が目澤さんを見て思ったように「コーチってかっこいいな」という存在になりたいです。まずは近い目標として、男子、女子の海外メジャートーナメントに帯同してみたいです。

協力:キングフィールズGC

シーズン中は片山晋呉のアプローチを見る姿も。活躍の幅は広がる