新ドライバーでも松山英樹の信頼を得たツアーレップの次なる願い
車に大量のヘッドを積んで全米を駆け回る
片道500キロを超える道のりすら軽快に車を乗りこなす。全米を駆け回る宮野の移動車のハッチバックにはこの秋、実に100個前後のドライバーヘッドが積まれていた。モデル、ロフト角、重心位置など、それぞれカスタムを施し、微細な違いを持たせた製品を準備。そこから見た目やコンセプトで絞り込み、まず20個ほどのヘッドでテストを繰り返した。これが世界のゴルフファンを魅了する一流選手と、ツアーレップの日常である。
「私は選手と開発チームとの架け橋、通訳をしているだけ。ですが今、ダンロップと松山プロは良い仕事ができていると感じています」
契約メーカーがツアープレーヤーに期待することは、試合会場あるいはメディアを通じた、販売促進につながる社名や製品の露出である。彼らはハイパフォーマンスを発揮することを前提に、ブランド価値を高めるという目的をシェアしてきた。
「ツアーレップの本来の仕事の目的は製品を売ること。商品を露出させるための最前線にいる仕事です。しかし、私たちは思い入れからどうしても選手に寄りすぎて、流されることもあります。そうならないように、自分の仕事が“スジ”から外れていないかを確認しています。松山プロも『モノが売れなければ開発もできない、それでは自分のためにならない』と理解してくれていて、彼こそ『ダンロップ』の商品が売れてほしいと思っています」
松山の評価は「察知して、先を見られる人」
ときに開発陣をはじめとした社内と、契約プロの板挟みになるツアーレップ。ところで、松山本人が彼らに求めるものは何か。
「例えば、僕が今、感じていることをレップの方に伝えても、オーダーしたクラブが1カ月先に手元に届くようでは、それがもう必要でなくなっていることもあります」。“わがまま”と表現してしまえばそれまでだが、ラウンド前後の感覚が鋭敏なうちにギアを調整し、試したいと思うのがゴルファーである。
「宮野さんは先を見られる人。僕の考えを察知して、スイングを変えていることを共有したりしているうちに、『そろそろこういうクラブが必要になってくるな』と感じて、準備してくれる。アイデアをたくさん持っているから助かります」
「もう一度マスターズに勝利する選手を」
考えの先を行く想像力。それはここ数年、宮野が開発チームへの自信を深めている要素でもある。「最近は“先回り”した開発ができていると実感します。私たちはプロゴルファーを、松山プロをワクワクさせてあげないといけない。彼はずっと、死ぬまでゴルフの研究をしているような人。(製品を手渡した時に)『おお!』と高揚させてあげたい」
明日の保障などない、勝負の世界。緊張感に満ちた毎日には挫折も、刺激も多い。「サッカーのワールドカップも日本代表の活躍で盛り上がりました。ああいうニュースを生み出せる場にいられることにやりがいはあります」。一時の興奮や感動だけでない。彼らはその先にあるものを信じる。
「ゴルフを楽しむ人を増やしたい。そのためにツアーレップとして何ができるか。大きなことを成し遂げていくことで、ゴルファーが増えていく、という循環があるはず。そういう意味ではもう一度、マスターズに勝利する選手に携わりたい。トップの選手が輝けば、きっとゴルファーは増えると思うんです」