引き算? それとも足し算? 一周回ったアイアンの距離感の作り方/ギアを愉しむ。
方向性が整う“プラス”な飛距離の作り方とは
前回、ストロングロフト設定のアイアンの生かし方について書いたが、今回はもう一歩踏み込んで、アイアンの距離感の作り方について述べていきたい。
一般的なロフト角のモデルより1~2番手ほど距離が出るストロングロフトアイアンでは、いつも通りの距離を打つことで、左右のブレ幅が減ると話した。だが、実際に飛距離を意図して落とすことは、思っている以上に難しい。
皆さんは、ターゲットより飛距離が出るクラブを使う際、どのように距離を落として打つだろうか。「フルショットでこのくらい」→だから「10yd落とすにはこれくらい」という風に、スイングスピードを落とし、ボールに強く当たらないようにする考え方が大多数だろう。最大飛距離を基準にして、力加減(出力)をマイナスする“引き算”の考え方だ。
今回は、この方法が間違っているとか正しいという議論ではなく、もうひとつ異なる距離感の作り方を紹介したい。それは、考え方をパターと同じにするというもの。カップに近づけるために、距離感が最も重視されるパッティングと同じ思考に寄せる発想だ。
例えば、パットで5mの距離を打つ際に、「フルショットで10m転がる」→「これくらい弱めに打とう…」とはあまり考えない。アイアンのように、距離に応じた番手が何本も用意されていないパターでは、マイナスの逆算をしにくい。振り幅や大体の目安はあっても、他のクラブの飛距離を想定して考えることはせず、シンプルに相応の出力をイメージして距離感を作り出す。
短い距離から始めることで 芯に当てる感覚が養われる
手始めに、練習場にて7番で50ydをキャリーさせる練習をしてほしい。10ydから徐々に出力を上げていく“足し算”で50ydを目指す。7番で10ydという実に解像度の高い感覚を維持しながら、50ydまで積み上げていく。50ydが達成した後は、目標を70→100→120→150ydと伸ばしていき、距離を伸ばすたびに出力が上がっていくことを体感する。
この“足し算”のメリットは、フェースの芯でとらえる感覚が身につく点にある。ボールを芯でとらえれば、当然エネルギーロスが減る。極力少ない出力で、効率よく飛距離を出すことができる。それまでのフルショットよりも、さほど振っていないのに150ydが打てている可能性も大いにあるのだ。
さらに、出力を上げていく中で、ミスや左右のバラつきが大きくなるといった“振り幅の限界点”も分かってくる。実は、ここが非常に大きなメリット。飛ばせる番手で短い距離を確実に打つことで、芯でとらえる心地のいい感触は養われる。
今までにはなかった手のひらに残る何とも言えない好感触が成功の証。その気持ちいい手ごたえをチェックポイントに置き、徐々に飛距離を伸ばしていければ、距離感のコントロールが身につくだけではなく、最大飛距離も自然に伸ばすことができるかもしれない。(高梨祥明)
■ 高梨祥明(たかなし・よしあき) プロフィール
20有余年ゴルフ雑誌のギア担当として、国内外問わずギア取材を精力的に行い、2013年に独立。独自の視点で探求するギアに対する見解は、多くのゴルファーを魅了する。現在は執筆活動のほかマイブランド「CLUBER BASE(クラバーベース)」を立ち上げ、関連グッズの企画や販売も行う。