テーラーメイド特集
2023/03/22

カーボンフェースの軽さが生み出した飛びとやさしさの秘密

連載:ギアの進化はカーボンウッド時代へ
飛距離アップの大きな要因となる「ボール初速」。近年のクラブ開発でどのように追求されてきたか(撮影:落合隆仁)

飛距離を追い求めるのはゴルファーならば誰でも同じ。「飛ばしよりもスコアが大事」と口にはしても、「飛ばなくていい」と思っている人はほとんどいないだろう。だからこそ、クラブメーカーは飛ぶクラブの開発に力を入れ続けている。

飛びの3要素は、「ボール初速」「打ち出し角」「バックスピン量」。なかでもボール初速は、2008年以降、フェースの反発係数を規制したルール(SLEルール)が定められてからも、さまざまなテクノロジーで初速アップを実現している。

反発係数の規定値を逆手に取った逆転の発想

飛びの3要素のうち、打ち出し角とスピン量は、適正な範囲があり、高ければいい、少なければいいというものではない。しかし、ボール初速は速ければ速いほど、飛距離につながるシンプルな数値だ。

SLEルールにおいて、上限の反発係数は0.830。いかにこの数値に近づけるかが、初速向上の着眼点となることもある。代表例がテーラーメイドが2019年に発売した「M5/M6」シリーズで採用された「スピードインジェクション」テクノロジーだ。

「M5/M6」シリーズで採用された「スピードインジェクション」は独特な発想により反発係数の上限を実現した(画像提供:テーラーメイド)

テーラーメイド日本法人のハードグッズプロダクト・シニアマネジャー、柴崎高賜(敬称略、以下同)は、この技術をクルマの運転に例える。「各メーカーが既定の位置で急ブレーキを踏んで停車していたのに対し、我々(の場合)は一度、通り過ぎてからバックで車を止めるイメージでした」と説明する。

一度規定をオーバーした高反発のヘッドを作り、レジン(樹脂素材)を注入することで、反発係数を規定値まで下げるという独特の発想だった。ヘッドにレジンを注入すること自体はウエイト調整の目的でツアープロ向けに行われていた。「内部でレジンがフェースに付着すると反発係数が落ちることは分かっていました。これをフェース開発に応用しました」。このテクノロジーは、進化を続けながら2020年発売の「SIM」シリーズ、2021年の「SIM2」シリーズにも採用されている。

軽量カーボンクラウンが低重心×深重心を実現

重心位置を最適な位置へと調整できる「カーボンクラウン」は以後のモデルすべてで採用された(撮影:岡崎健志)

しかし、ボール初速は反発係数だけでは決まらない。2013年に発売された「SLDR」シリーズでは、「低スピン」が重視された。バックスピン量が多いことによる球のふけ上がりを抑えた強弾道で、着弾してからのランによって飛距離も伸びるからだ。
「低スピンに必要なのは低重心にすること。一方で、打ち出し角を上げるには重心を後ろに下げることが有効なのですが、両者はトレードオフの関係にあります。低重心設計にすれば、重心は前に、重心を後ろに下げれば高重心になります」

低重心×浅重心となった「SLDR」では、ロフトを増やすことで打ち出し角を確保。ロフト14度のドライバーもラインアップされている。このヘッド構造も飛距離アップを目指す一つの解ではあった。とはいえ、「ロフトを増やすとエネルギーのロスが発生し、ボール初速がどうしても落ちてしまう」と課題を残した。

解決策となったのがヘッド素材に使用していたチタンなどの金属よりも軽量で強度がある“カーボン”をクラウン部に使用する発想だった。2015年に発売された「M1/M2」シリーズでは、「カーボンクラウン」を採用することで、ヘッド上部の重量を下げることで、低重心かつ深重心を実現できることになった。このテクノロジーは、これ以降のすべてのモデルで採用されている。

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