松山英樹 オーガスタ攻略のカギ握る「スリクソン Z-FORGED アイアン」初代と2代目の違い
松山英樹の生命線ともいえるアイアンショットを生む相棒は、2021年「マスターズ」制覇時のダンロップ「スリクソン Z-FORGED アイアン」から、この春「スリクソン Z-FORGED II アイアン」に替わった。文字通り“2代目”となるモデルは、何を求めてどう変化したのか。「マスターズ」2勝目に向けた戦いを前に、その性能面の違いを考察した。
スイッチに要した時間が物語る「替えたくない理由」
「基本的に松山選手は、クラブに変化を求めていないと思います」と言うのは、ギア事情に詳しいトレンドウオッチャー・コヤマカズヒロ氏だ。
コヤマ氏は「プロは基本的にギアをころころ替えたくないのが本音で、特に繊細なフィーリングを重視する松山選手の場合、モデルをスイッチしたことでスイングの感覚が変わることを、最も恐れていると思われます」と語る。その上で「Z-FORGED」の変化については「21年に『マスターズ』『ZOZOチャンピオンシップ』と勝ってきた良い印象を初代に持っている分、スイッチにはかなり慎重だったことがうかがえます」と推察した。
23年シーズン初旬から年末年始にかけ、初代→2代目へのスイッチ時期を見ると、かなりの時間を要した。一時期はPWだけを変更して使用する期間もあり、初代を使いながら2代目の相性を模索していた。
V字ソールを採用していないプロトタイプ
大きな変化を好まない要素として、コヤマ氏は松山が使用するプロトタイプに、市販モデルに搭載された『ツアーV.T.ソール』と呼ばれるV字型のソール形状を採用していない点に着目する。
「『ツアーV.T.ソール』は、ウェッジのバウンスの要領で、地面に当たることで抜けが良くなる、同社の最新モデルに欠かせない形状です。多くの契約選手はそのまま使用していますが、松山選手は長年使用して愛着のある形状のまま、あえてこの削りを採用していません。このあたりにもアイアンへのこだわりが感じられます」
「松山選手は、ドライバーを一時いろいろなメーカーのものを試していましたが、根底にあるセッティングは大きく変わっていません。これまでのクラブ遍歴を見ても想像はつきますが、特にドライバーのシャフトは、09年発売のグラファイトデザイン『ツアーAD DI』をずっと使い続けているところを見ても、基本的なクラブの傾向は変えたくないと思っているに違いありません」
松山の意向を反映した打感向上のための肉厚ボディ
「Z-FORGED」初代モデルは、マッスルバックの中でも寛容性が比較的高く、操作性とともにミスへの対応力も求める中上級者からの支持を得てきた。2代目はその特徴を踏襲しつつ、マイナーチェンジを図った。メーカー側の発表では、松山の声を反映して開発されたと聞くが、果たして具体的にはどこが変わったのか。
「2モデルを比較してみると、微小ながらコンパクトになっているように見受けられます。サイズはほとんど同じですが、ひと回りシャープさが増した印象。中央ボディの部分は肉厚が増し、打感の良さを求める松山選手の声を反映していると思います」
初代モデルとバックフェースを見比べると、2代目は中央のトウ・ヒール側に凹みが生じていることが分かる。これにより余剰重量をつくり出し、バックフェース下部への重量配分を実現。「PUREFRAME(ピュアフレーム)」と呼ばれる肉厚化設計を施すことで、上下慣性モーメントを高め、ボールの浮き沈みといったライの影響による打点のバラつきを抑える効果があるという。
「オーガスタの高速グリーンにボールを止めることは容易ではありませんが、この『Z-FORGED II』は、芯を外したときでも大きなミスになりにくい特性を持ち合わせています。アベレージゴルファーが扱えるほど決してやさしくはありませんが、プロにとっては微小ながらマイルドさを持ち、プレッシャーを少しでも緩和してくれる効果が得られる。松山選手はそんな操作性とマッスルバックとしては高い寛容性に納得した上で、全番手をスイッチしたのではないでしょうか」
初代のイメージを壊さず、より打感の向上を図った2代目「Z-FORGED」。2年ぶりの優勝を果たすため、確固たるイメージをそのまま継続しつつ、フィーリングの向上を図り、肉厚化をプラスした。世界一とうたわれたアイアンショットの切れを、再び大舞台で披露するべく、マイナーチェンジした性能がオーガスタ攻略に吉と出るか、見守りたい。(編集部・内田佳)