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打ちづらいクラブで練習してない? ジュニアゴルファー夏の自由研究「PINGフィッティング体験」

2026/08/31 15:58
PGAジュニアリーグ夏休み特別プログラムでPINGの工場見学と職業体験に参加したジュニアゴルファーと保護者

ゴルフメーカーのイベントと聞けば、新製品の試打会を思い浮かべる。しかし、この夏、PING(ピン)がジュニアゴルファーたちに用意したのは、フィッティングを学び、自分に合うクラブを知るきっかけ。クラブが組み上がる現場を見て、ものづくりなどの職業を体験する機会だ。「子ども以上に勉強になった」と同行の保護者たちも前のめりに見守った“社会科見学”に密着した。

まずは自分の道具を知る

まずは自分を知る

「ゴルフは道具をいかに上手く使えるかを競うスポーツです。ですから、自分に合った道具を選ぶことは、プロにとってもジュニアにとっても、とても大切なことなんです。それをサポートしてあげるのがフィッターの役割。打ちづらいクラブで一生懸命真っすぐ打とうと練習することは、実はとてももったいないことなんです」

そう話すのは、シニアフィッティングスペシャリストの藤川清幸氏だ。舞台は、埼玉県さいたま市にあるピンゴルフジャパンのアンサーオフィス。PGA(日本プロゴルフ協会)が推進するPGAジュニアリーグの夏休み特別プログラム「PING工場見学&職業体験」は昨年に続き2回目の開催だ。PGAジュニアリーグは、個人競技のイメージが強いゴルフを、野球やサッカーの少年団のように「地域クラブチーム」として仲間と楽しむプログラム。今回は地元埼玉だけでなく、栃木や茨城からも12人のジュニアが集まった。

体験の幕開けは、ピンの哲学の核である「フィッティング」の体験だ。

フィッターという仕事

ライ角を説明するPINGのフィッター、藤川氏(右)

クラブのヘッドとシャフトがなす角度、すなわち「ライ角」を知っているジュニアはそう多くない。ジュニアたちはまず、自分の身長と手首から床までの長さを測定する。この2つの数値をチャート上に当てはめ、交点から導き出されるのが、ピン独自の「カラーコード」だ。

ピンは50年以上も前から、このライ角の重要性を説き続けてきた。カラーコードは、難解な「角度の数字(度数)」ではなく、標準の「ブラック」を基準に、「レッド」や「ブルー」といった直感的に分かりやすい「色」でそれぞれの適正角度を表現しているのが特徴だ。

単に「今の身長」に合わせるのではない。なぜ、手首から床までの長さ(腕の長さ)も測るのだろうか。藤川氏はその理由をこう説明する。

「ジュニアのクラブ選びでよくある誤解は、身長だけで判断してしまうことです。しかし同じ身長でも、手首から床までの長さは人によって5センチほど差が出ることがあります。この差が最適なライ角に大きく影響するのです。身体のサイズを多角的に測ることが、上達への第一歩なんです」

腕の長さとの相関関係まで考慮することで、無理なく最も自然な姿勢で構えられる、「自分の色」が導き出される。

中2の添田さんは、大人顔負けのスイング

その言葉に熱心に耳を傾けていたのが、栃木県から参加した中学2年生の添田璃乙(そえだ・りと)さんだ。コロナ禍の頃からゴルフを始めて約4年。ベストスコア「69」を記録した経験を持ち、将来はプロゴルファーを目指している。

そんな添田さんにも悩みがある。「なんか(球が)滑っちゃうんですよ。スライスしか出ない」。フィッティングでは、ライ角やシャフトの異なるクラブを試打しながら、自分に合うスペックを探っていく。藤川氏から重量が違うクラブを手渡されると、「重い方が振りやすいです」と即答した。

子どもはクラブに合わせてしまう

付き添いの保護者らを相手にフィッターの仕事も経験

フィッティングは単にクラブを選ぶ作業ではない。自分の身体やスイングを客観的に知る機会でもある。

藤川氏は、ジュニアゴルファー特有の難しさも指摘する。「子どもは非常に器用です。どんなに体に合わないクラブを渡されても、その道具で何とか打とうと自分を合わせてしまいます」

しかし、その無理な適応が後々のスイング形成に影響することも少なくない。

「ブカブカの靴を履くと、脱げないように不自然な走り方になりますよね。人間はそうやって道具に合わせて動いてしまう。ゴルフも同じで、合わないクラブは変なスイングの癖やけがの原因になります。子ども自身は違和感に気づきにくいからこそ、大人が適切な道具を整えてあげるべきです」

5000万通りの一本

クラブづくりの現場を見学

続いて向かったのは、世界に4カ所しかないピンの製造拠点の一つ、北戸田の「本社工場」だ。ここでは、日本国内のみならず、アジア全域に向けてクラブが出荷されている。ヘッド、シャフト、グリップの組み合わせは約5000万通り。それを受注後48時間以内に出荷する体制は、設備だけでは成り立たない。

組立工程をまとめるアセンブリーリーダーの根岸亨多氏は、その理由をこう説明する。

「設備だけではなく、各工程で働いている一人ひとりの技術と、それぞれの工程がしっかり連携できているからこそ、このスピードを実現できているんです」

実際に工場内を歩くと、製造から検品、出荷までの流れに寸分の無駄もないことが分かる。そこには最新のテクノロジーと人の手による作業が共存していた。

職人が仕上げる「0.2度」

ハンマーでたたく熟練の職人技に興味津々

見学の中で、子どもたちが驚いた様子を見せたのは、アイアンの角度調整の工程だった。最新のカメラやレーザー計測器で数値を測りながら、最終的にクラブの角度を調整するのは、なんと職人の「ハンマー」による手作業だった。ライ角やロフト角の許容範囲はわずか「0.2度以内」。この極めて繊細な作業を、熟練の職人たちは一本わずか30秒ほどで完了させていくという。

「1日に何百本ものクラブを、こうして一本一本、手作業で調整しています」

さらに、グリップを装着する前の「テープ巻き」体験では、握り心地を安定させる「らせん状」のテープ巻きに挑戦。ヘッドがついたクラブだったせいか、「重くて回すのが難しかった」との声も。一見簡単そうに見える作業だが、均一に巻くには技術が必要だ。

テープ巻きは難しかった?

「実際にやってみると、すごく力がいるし、きれいに巻くのは大変だった」と添田さん。熟練スタッフが短時間でこなす作業も、実際に体験してみると想像以上に難しい。

見学に同行した母親の道子さんは「子ども以上に勉強になりました。ものを大事にしてくれれば、それだけでも参加した意味があります」と話していた。

完成品としてしか見ることのないクラブが、どのような工程を経て作られているのか。その背景を知ることは、大人にとっても新鮮な体験だったようだ。

ゴルフで生きる道は一つじゃない

ゴルフを続けるきっかけになれば

子どもたちを見守ったPGA副会長の下田和則氏はこのイベントに込めたもう一つの願いを語った。

「ゴルフ業界で生きていく道は、プロゴルファーだけではありません。エンジニア、フィッター、そして今見た工場の職人さんたち。ゴルフを支えるたくさんの『仕事』があることを知ってほしい」

少子化や、中学進学を機に競技から離れてしまうジュニアの存在は業界共通の課題でもある。今回の体験会には、道具への理解や職業観の広がりにつながってほしいというPGAとピン双方の思いが込められている。

ピンのイベント担当者は、「クラブが作られるプロセスを知ることで、ゴルフというスポーツそのものをもっと好きになってもらえたら」と話す。さらに、「大人になったときに、『あの夏にピンの工場でクラブが作られるところを見た』という記憶が、ゴルフを続けるきっかけになればうれしいですね」と続けた。

そしてクラブは店頭に並ぶ

フィッティングを通して自分に合ったクラブの選び方を学び、工場では、その一本が多くの人の手によって組み上げられていく過程にも触れた。

ゴルフクラブは完成品として店頭に並ぶ。クラブを「打つ」だけでは見えなかった世界を、ジュニアたちはこの一日で体験した。(編集部・清野邦彦)