安心してください。過去の教訓、生きてますから! 美浦ゴルフ倶楽部(後編)
過去の教訓+癸生川流アプローチでパーを奪取(その1)
13番ホール、N村のティショット。飛距離こそ出ないものの、何とかフェアウェイの右サイドぎりぎりをキープする。とはいえ、セカンドショットがこれまた難解。狙うエリアにはバンカーが点在しているのだった。
(癸生川プロ)奥にバンカーが縦に2つ並んでいるのが見えますよね。その間がターゲットになります。
(N村)えっ、あんなに狭いエリアを狙うんですか。
(癸生川プロ)実際には、両者の間には縦50ヤードくらい差があるんです。キャリーで170~180ヤード出せれば、手前のバンカーを越えて奥のバンカー手前に球を置けます。
(N村)敷居の高いショットですが、5番ウッドで狙ってみます。
(癸生川プロ)実は左に突き出した崖のようなOBゾーンの奥には、フェアウェイがあるんです。あまり左へ引っかけるとOBになりますが、そのフェアウェイがあることを頭に入れておくと、気持ちが少しラクになるのではないでしょうか。
(N村)ありがとうございます。あれっ、パー5、セカンドショットと言えば……。
N村はかつて、北野正之プロから指導を受けたことを思い出した。ロングホールの2打目、3打目に適した“ナイスショット一歩手前”の距離を稼げるショットのことだ。
・スイングの中で頭の位置を進行方向に動かすイメージを持ち、ボールを上から打ち込む
・フォローは小さく、低くして方向性を高める
当時受けた2つのポイントを抑えて、N村が放ったセカンドショットは……ややトップ気味に。ボールは左方向に飛び出してから大きくスライス。ラフでワンクッションして、最初のバンカーの少し先のフェアウェイに止まった。
160ヤード近く残した3打目でグリーンを狙うN村。ここからが難易度1位の13番ホールの真骨頂である。縦長のグリーンの右サイドには深いバンカーが口を開けており、左サイドはOBゾーンが間近に迫る。バンカーに入れればグリーン奥のOBを意識せざるを得ず、ダフリやホームランというミスの上塗りにもなりかねない。
この日最も細心の注意を払い、アドレスに入るN村。6番アイアンで放った弾道は当たりも方向も思い通り。ボールはピン手前で着弾、そして左へ跳ねてカラーのほうへ……まずい!
駆け寄ると、写真のようにぎりぎりのところで耐えていて、N村は胸をなでおろす。そこから、癸生川プロ直伝のアプローチショットで寄せワンに成功。ようやく目標とした難易度上位のホールでパーを獲得できたのだった。
過去の教訓+癸生川流アプローチでパーを奪取(その2)
そして、N村がどうしてもパーを取りたい、17番ホールに到着。理由は、401ヤードという全長にある。N村が400ヤードを越えるパー4を大の苦手にしていることはお伝えした通り。先ほどのラウンドでも、3パットを含むダブルパーの8。データを裏付ける結果になったからだ。
池を時計回りに周回しながら、グリーンを目指す右ドッグレッグホール。スライス弾道の傾向が強いN村にとっては、池が目障りで仕方ない。ティグラウンドでターゲットの設定に悩むN村に、癸生川プロから助け舟が出た。
「フェアウェイの中心に仮想のラインを入れてください。右側はNGですが、左側はラフまで含めてOKというように考えたらどうでしょう。少しはリラックスできませんか。ラフに入れればグリーンまで遠くなりますが、池に入れないことを優先すべきです」
なるほど、“捨てサイド”は左方向か。するとN村の脳裏に、今度は田島創志プロから受けたアドバイスが浮かんだ。
・オーバースイングを改善する方法。その1つとして、アーリーコックを使う
トップがコンパクトになった結果として、球のつかまりが良くなり、ドライバーの飛距離アップにつながっている。絶対に右に行かせたくないこの場面には、この上ない金言と言えるだろう。
ターゲットをフェアウェイ左サイドとラフの境目に設定。早めのコックを意識したN村のティショットは、タイミングが合わずにフェアウェイ右方向へ飛び出してしまう。だが、いつもとは違う、左回転のドロー弾道でフェアウェイの左サイドをキープできた。
そして、セカンド地点。ピンまでは165ヤードのやや上り。意気軒昂にアドレスの態勢に入るN村。
(N村)では、5番アイアンで狙いますね。
(癸生川プロ)ちょっとN村さん、どこを向いているんですか。アドレスが池に向いていますよ。
(N村)ええ、それでいいですよ。ボールとピンの位置を結べば、自然と池を向くことになるじゃないですか。
(癸生川プロ)ピンポジはグリーン右奥ですよ。スライスしたら池もしくはガードバンカーに入ってしまうので、池にかからないラインにターゲットを定めたほうが安全です。
(N村)でもそうすると、グリーンから外れた左サイドのエリアを向くことになりますよ。
(癸生川プロ)5番アイアンで打つわけですから、振り遅れによるミスも想定しておくわけです。
(N村)スライスの曲がりの分、保険をかけるわけですね。
N村はロングショットの技術を信用されていないことに、やや悔しさがこみ上げた。だが、そんな感情はすぐに吹っ飛ぶことに。癸生川プロが言う通りの弾道を描き、グリーン手前に大きくショートしたからだ。
3打目地点からピンまでは約30ヤード(エッジまで5ヤード+エッジからピンまで25メートル)。低く打ち出して寄せる、癸生川プロから伝授されたアプローチを発揮する最高の舞台。グリーンエッジから奥5メートルまでの幅の中で落としどころを2人で確認。すると、写真のように2メートルくらいの差が出ており、癸生川プロのほうが手前に設定した。
(N村)ずいぶん、イメージに差が出ましたね。PWでエッジから4メートルのところにキャリーさせて、21メートル転がすイメージですが……。
(癸生川プロ)僕は9番アイアンでエッジから2メートルにキャリーさせて、23メートル転がすイメージなんです。N村さんは球を上げたがりますが、小さい振り幅のほうが、インパクトの誤差が小さくなるのでやさしくなる。だから、9番アイアンを選ぶほうがベター。慣れないうちはイメージが出しづらいでしょうが、このほうが絶対寄る確率は高くなるので、チャレンジしてほしいですね。
(N村)分かりました。では、9番アイアンで。右足寄りにボールを寄せて、左足体重に……(ブツブツと確認事項をおさらいする)。
癸生川プロの言う通り、N村には慣れが必要のようだ。低く打ち出せたもののイメージより手前にワンバウンドしてしまい、2.5メートルをショート。このホールのリベンジに並々ならぬ執念を燃やすN村は、入念にラインを読み、自分のイメージ通りにストローク。すると、癸生川プロの手招きに引き寄せられるようにカップに沈められた。
14番ホールのセカンドショット、そしてこのホールのティショットといい、過去の教訓をうまく生かすことができた。コースマネジメントが少し板についてきたということか。遅ればせながら、良い流れになってきた。本当に遅いけれど……。
そして18番ホールをボギーで終えたN村は、淡い期待を胸にスコアを集計。パット数で劇的な成長を見せたものの、スコアは93でまたも目標には届かなかった。だが、癸生川プロからはパットの上達を認められた。
「ドンマイ、N村さん。それでもショートゲームを強化した成果はあらわれていたと思いますよ。その証拠に、3パット以上はなかったじゃないですか。このコースはプロの試合が行われるほどで、上級者でも80台で回るのは簡単ではありません。その中で難易度の高い4ホールを2オーバーで回れたのは大したもの。今回は、ほかのホールまで手が回らなかっただけで、ラウンドの回数を増やせば、スコア80台の可能性もあると思いますよ」
連載当初の計画では、GDOが選定した難易度ランキングのトップ5のコースのどこかで達成することを思い描いていた。それがかなわなかったいま、N村にもう一度チャンスが与えられた。しかも、難しいコースを条件に、N村がコースを選定できるというものだ。
パターの上達の成果を試せるところがいい。そう考えたN村は、グリーンが難しいコースを検索していると、「オーガスタ並みの高速グリーン」「12~13フィートの高速グリーン」という見出しが目に飛び込んできた。ここしかない! N村が挑戦する最後のコースが決まった。
・パットは最も心地よい振り幅で作った距離感を基準に。距離などによってアジャストさせる
(取材協力/美浦ゴルフ倶楽部/PGM)
※次回の公開は3月11日(金)を予定。N村が選んだ、最後に挑戦するゴルフ場とは!?