「高いトップ」の誘惑に気をつけろ レッスン最前線からLIVEルポ
これからお届けするレッスンのやり取りは、感覚論とは無縁の科学目線の世界。最新技術を使ったいまどきのコーチたちのリアルなレッスンの一部始終を生レポート。人の振り見て我が振り…直せます。
飛距離アップを目指し高いトップを意識したが…赤羽さん(40代・男性・平均スコア95前後)
ゴルフ歴10年、平均スコア95でベストは88という赤羽寛孝(あかはねひろたか)さんは、高いトップを作ることで飛距離アップを目指したが、右に出てさらに右に行くプッシュスライスが出るようになり、修正方法がわからなくなったと語る。
まずは、アドレスを後方から確認すると、ツアープロ(写真右)はバランスライン(右わき、グリップエンド、膝がしら、土踏まず)が直線で結ばれ、安定感のあるアドレスに。これに対し、赤羽さん(写真左)はバランスラインから外れる箇所が多く、つま先重心のアドレスに。懐が広く、わきが締まらず腕の運動を使った「手打ち」になりやすい構えだ。
ハーフウェイバックでは、シャフトの延長線とヘッドと右わきを結んだ2本の線でできた「V字」の間を、手とクラブがともに上がる理想的な動き。シャフトが水平になった時点での腰と肩の回転角度を見るとプロの平均値は「肩42度、腰18度」に対して赤羽さんは「肩48度、腰23度」と良い数値を示している。「ここまでの動きは完璧に近いです」と担当した堀江智史(ほりえさとし)コーチは評価した。
トップの位置を比較するとグリップエンドは、(後方から見て)かかと線上にあるのが理想的といわれていて、この位置にあることで切り返し以降、インサイドからクラブを下ろすことができる。プロは「V字」ラインから少し外れているもののグリップエンドはかかと線上にある。これに対し、赤羽さんはつま先の上でかなり前に出ている。「この前に出た位置から切り返し以降、インサイド軌道に戻すのは非常に難しい」と堀江コーチは指摘する。
コーチの言葉通りに、ダウンスイングではかなりアウトサイドから手とクラブが下りてきている。「手元が体から離れることでクラブフェースは開きやすく、そのままインパクトすると右に出てさらに右に行くプッシュスライスが出るようになります。それを嫌がって手を強引に返すとボールが左に、と様々なミスを引き起こす原因となります」(堀江コーチ)。
体の回転ではなく手でクラブを上げていたトップ
正面からアドレスを見るとボール、手元、頭の位置といずれも問題はない。が、トップでの腰の位置を確認すると、プロは平均で0.3Tインチ(約8ミリ)目標方向(トゥワード)に動くのに対し、赤羽さんは2.2Aインチ(約55ミリ)目標と反対方向(アウェー)へ動き体の右サイドへのスウェーが起きていた。
「腰が右サイドに動くこと、頭の位置をキープしようと上体は目標方向に反りやすく「リバースピポット」になります。その動きに同調するようにトップの位置も高くなります」(堀江コーチ)
高いトップを作ることへの弊害が
ダウンスイングでは上手に体重を移動させているだけでなく、フィニッシュは左足の上に頭が乗り、「綺麗です。完璧ですね」と堀江コーチは絶賛。ただし、「右にスウェーしてから大きな幅で動いているので、インパクトでタイミングが合えば素晴らしい球筋になりますが、タイミングが合わないとフェースがスクエアにならず、左右どちらにもいく可能性があります。体の動きの大きさに比例してミスした際の“ケガ”も大きくなる」と指摘した。
「高いトップを作るのは飛距離アップに欠かせませんが、それを体の回転ではなく手だけを上げて作るトップでは、多くの弊害が生まれます。赤羽さんの場合、バックスイングで右へのスウェーが見られ、それによってトップではグリップエンドが前に出て切り返し以降で手元が体から離れる現象があり、『アウトサイドイン』軌道へと繋がっていました。ダウンスイングではフェースが開き、右に出てさらに右に行くプッシュスライスが出るようになります。右へのスウェーをなくすことで自然と『リバースピボット』も修正されますし、体を使ったトップを作る動きを身につけることで、『インサイドアウト』軌道へと変化させることができると思います」と堀江コーチは改善点を提案した。
お尻でキャディバッグをおすドリル
右へのスウェーと体を使ったトップを作るために堀江コーチが提案したのが「お尻でキャディバッグを押す」ドリルだ。これはアドレス時に体の左サイドにキャディバッグを置き、バックスイングからトップにかけて腰を回しながらキャディバッグを押すように動かすもの。ポイントは、左ひざを前に出しながら腰を回転させ、左腰でしっかりとキャディバッグを押すこと。
「こうしたドリルでは体の右側に何か置いたりしがちですが、それでは効果がないんです。右にモノを置いたり、誰かに押さえてもらうと、容易にスウェーしない動きができるのですが、いったん“支え”がなくなるとどう動かせばいいのか途端に分からなくなってしまいます。左にモノを置くと自分の意思でモノを押すので、この動きをすることが正解だと認識しやすく、身に付きやすいんです」(堀江コーチ)。
ドリル後のスイング映像をレッスン前と見比べると、右へのスウェーがなくなり1.2Tインチ(約30ミリ)目標方向(トゥワード)に動くようになった」。体の回転を使ったトップとなり、手が低い位置に収まることで「リバースピボット」の動きは見られなくなった。
トップの位置を後方から確認すると、手が三角のラインから外れることなく収まり、グリップエンドの位置も切り返し以降で、インサイドから下ろしやすい」ところへと変化した。
ダウンスイングでは、手元が三角のラインから大きく外れていたが、ラインの内を通りインサイドアウト軌道になった。「インサイドからクラブを下ろせると体の回転を使った動きになり、フェース管理がしやすくなります。インパクト付近で手で合わせにいく動きがなくなることで、打点も安定します」(堀江コーチ)
「高いトップ」の誤解
「身長180センチでの高いトップは、インパクトまでにクラブが動く距離が長く、「位置エネルギー」をより多く使えて飛距離アップにつながるとは思います。赤羽さんも多くのアマチュア同様にここにこだわっていました。ですが、高いトップにこだわるあまり、右へのスウェーと共に体が反り、さらにクラブを手だけで上げていました。『お尻でキャディバッグを押すドリル』で、スウェーせずに腰が目標方向に動く感覚を身に付けてもらいました。トップもコンパクトになり、後方から見てつま先の前にあった手の位置がかかとの上に収まるようになり、クラブをインから下ろすことができるように。まだインパクトからフォローにかけて左への回転が足りてないので、もっとヒップターンするようになれば飛距離も伸びてきます」とさらなる上達ポイントをアドバイスした。
■ 堀江 智史(ほりえさとし) プロフィール
1979年10月25日生まれ、千葉県出身、ゴルフテック横浜所属。
学生時代に体育教師を目指していたが、ゴルフの面白さに触れレッスンの道を志す。学生時代に運動力学や機能解剖学を学び、小手先の動きではなく、体の「どの部分」を動かすと「どのように動くか」を分かりやすく説明することを心がけている。ギアの知識も豊富で、クラブの物理学的視点からアプローチしたレッスンも展開している。