大は小を兼ねる「距離感づくり」/石川遼 パットの教室 Vol.3
石川遼のいちばんの武器は?間違いなく誰もが「パッティング」と答えるだろう。その技術の高さはプロの間でも群を抜き、数多くの名シーンを演出してきた。グリーン上でどんなことを考え、どうやってその繊細なタッチを作ってきたのか。今まで語ることの少なかった頭の中のロジックを、特別に話してくれた。最終回はタッチの作り方について。(取材・構成/服部謙二郎)
10~15メートルのパットをもっとやってほしい
これまでの石川のレッスンから、気になっていた方がいると思う。パットの距離感を決める肝心な「タッチ」をどう出しているのだろうか。振り幅なのか、インパクトの強さなのか、はたまた別の方法があるのか。本人はバックスイングを全く気にしていないというので、振り幅ではなさそうだが…。
「そもそもストローク式とタップ式ってあると思うんです。緩やかにバーンって打つ(ストローク式)のか、インパクトでカツン(タップ式)なのか。その2タイプだったら僕は明らかに後者。そのカツンっていう感じは常に持っていたいですね」
タップ式といえば、タイガー・ウッズや藤田寛之など、いわゆるインパクトをしっかり作っていくタイプだ。「バックスイングの大小に関わらず、インパクトした時のヘッドスピードでボールの距離を変える。僕は振り幅の大きさなどは気にせず、全部インパクト重視です」と、つまりインパクトの強弱でタッチ(距離感)を作っているというのだ。
その裏付けには、石川が一番難しいと考える、グリーン上のラインの存在があるという。
「パットってヘッドスピードが遅いので、インに引きすぎたとか、フェースが開いたとか、全部が見えるじゃないですか。たぶんそれがパッティング自体を難しくしているんですよね。グリーンが平らならまだいいんですが、グリーン上には傾斜があって、ラインによってクラブの上がり方も違うでしょう。フックラインはつま先上がりで、ヘッドの重さでインに上がりやすいですし、スライスラインはつま先下がりなので、自分の重心に対してクラブは外に上がりやすい。ラインのきついところから打とうとすると、クラブの軌道は変わりやすく、そのヘッドの動きも見えてしまう。毎回ラインが変わる中で、自然とストロークも変わるので、いちいち振り幅などを気にしていたら入るものも入らない。そうなると、インパクトを重視した方が入る確率は上がると思うんです」
同じラインなどないグリーン上で、ストローク幅で距離感を決めるのはナンセンスだと考えている。
繊細なタッチを作るために、石川は練習グリーンでのロングパットを勧める。「ゴルフ場に行った時に、練習グリーンでロングパットを練習しているアマチュアの方が非常に少ないなっていつも思います。“入れごろ、外しごろ”の2、3mの距離を練習している人は多いですが、でも実際にはファーストパットで5m以内の距離を打つ確率ってそんなに高くない。やっぱり10mや15mぐらいが残りやすく、その距離を練習しておくと5mも楽になるはず。大は小を兼ねる精神で、できるなら30mとかのロングパットもやってほしいです。そこでタッチの強弱の感覚を養ってほしい」
ロングパット時の注意点をたずねると、「アドレスなどは気にせず、距離感に全集中してください。どちらかというと下手投げのイメージで、ゴミ箱にゴミを放るような感覚。なんなら最初は手で投げて転がしてもいいです」といって、実際にデモンストレーションを始めた。「手で投げるときに、目標が近い場合は普通に小さく振りかぶるじゃないですか。遠い時は自然と大きく振りかぶる。遠い目標に対して、小さく振りかぶってからいきなり思いっきり強く投げる人いないですよね」。パッティングのタッチを養う上でも、その感覚が大事だという。
「『1mのパットに対してバックスイングは20cmで行きましょう』と言われたら、入らない気がしませんか?本当にナチュラルに、そこに行きそうだなと思って打ってほしい。その繰り返しが距離感を作ってくれます」
ストロークは気にしていないという石川だが、タッチを出すにあたり、唯一左手主体で打つことだけは意識しているという。「僕もタイガーの真似をして右手主体で打ちたい願望があってやってみたのですが、自分のイメージには合わなかった。左手主体でバンって打つほうが、僕にはめちゃくちゃイメージが合いました」。グリップも左手はしっかりと握り、右手はかなり緩めで添えているだけだという。
「最近は左手の感覚をもっと高めたいと思って、徐々に右手が浅くなっている感じですかね。前はもっとしっかり右手を持っていたんですけどね」。左手主体なのか右手主体なのかは「人それぞれなので、自分に合うのを見つけてほしい」と石川。タップ式の方がこうした手の感覚は生きてくるそうだ。