「“インパクトの手元の低さ” 兄ちゃんにほめられます」石川航(兄・遼の解説付き)
金谷拓実、中島啓太、蝉川泰果、平田憲聖…と、ことしの男子ツアーは毎週のように若手の誰かが入れ替わりで活躍している。お互いが刺激し合う相乗効果で、まさに“強い世代”を形成しつつあるのは間違いない。彼らはどんな経歴でゴルフをしてきたのか、そしてどんなスイングをしているのか。「U-25世代」の若者たちにスポットをあて、彼ら自身の口でスイングをセルフ解説してもらった。
ヘッドスピード52m/sで1Wの飛距離290yd
4回目はプロ転向して2年目の23歳、石川航だ。兄・石川遼とは8歳差で、物心ついた頃に兄はすでにツアーで活躍していた。航も小学生からゴルフを始め、中学、高校と父・勝美さんに教わりながら腕前を磨き、日本体育大学に進学してゴルフ部へ。河本力が同期、中島啓太がひとつ下の代におり、彼らにもまれるようにして着実に力をつけてきた。
一昨年の12月にプロ転向。今季は地区競技ながら「北陸オープン」で10位タイに入り、レギュラーツアー「横浜ミナト チャンピオンシップ」では予選を通過。「フジサンケイクラシック」では予選会を突破して本戦出場するなど、徐々にではあるが成績を出し始め、プロの階段を上りつつある。そのスイングは兄からの評価も高く、ヘッドスピードは52m/s近く、飛距離はランを入れて290ydに達するという。
では早速、彼のスイングをひも解いてみよう。
―父・勝美さんの指導法は?
父からはスイングの基礎をたたき込まれました。よく言われたのが「ハンドファーストで打つ」こと。特にアイアンでできていなかったみたいで、ひたすら8番アイアンなどの短いクラブで、ダウンブローで球をとらえる練習をしていたのを覚えています。
―その教えがスイングに生きている?
ハンドファーストで打つことが、スイングのベースにあるかもしれないですね。自分のスイングを動画で見ると、確かに(ダウンスイングで)コックをほどくような打ち方はしていないと思います。父からいろんなことを言われましたが、思い返せば半分以上がそれ(ハンドファースト)でしたね。そういった話を周りの人にすると、「アイアンが得意なんですね」と言われるんですが、実際はそうでもないんです(笑)。でも自分は、「インパクトで手を使うような打ち方」はしていないと思います。
―今でも父の指導は続いている?
そうですね。まだ時おり教わっていますが、実際は高校の途中から自分で考えることが多くなりました。それまでは父に聞いて言われた通りやっていたんですけど、次第に自分で動画を撮り、上手な選手と見比べたりして、自分でスイングを考えるようになりました。それまでは“やらされている感”があったかなと思っていて、そのときに初めて「ゴルフが楽しいな」という気持ちが芽生えました。
大学に入ってからは寮に入りましたが、そこには(河本)力とか(中島)啓太もいて、生でそういう選手のスイングが見られたのも良かったです。力からはショートゲームやバンカーを教えてもらったりしました。大学時代にも父は試合を見に来てくれて、試合が終わった後にメールや電話で「ここが良かったよ」などのアドバイスをくれました。父は小さい頃から自分のスイングを見ているので、良くも悪くも自分のクセを分かってくれています。
―自分のスイングの良いところは?
良くないところばかり見えちゃいますけどね…。でも最近、兄ちゃんが僕のスイングを見て「いいスイングだ」って言ってくれるんです。「航はインサイドから手が下ろせているからいいよね」って、ダウンスイングで手が中(イン)から下りてくるところをほめてくれます。確かに調子が悪くなると手が外から下りてくるので、その部分は僕のひとつのチェック基準になっています。
―意図的に手をインに下ろしている?
“気づけばそこ(イン)に下りている”という感じですかね。それは自分のクセであって、何も考えないとインに下りてきます。「元々の持っているスイングは航のほうがいい。結果的に手元が低い位置に下りてくるから」と兄ちゃんも話していました。
―自然に手元を低くできるのは父の教え(ハンドファースト)があったから?
本当のところは分からないですが、影響はあるかもしれないですね。でもそういえば、ハンドファーストだけでなく「インサイドから打て」とも父に言われていました。あと、僕はダウンスイングで右サイドが下がるクセがあって、もっとシャフトを立てたほうがいいのかなとも思っていたんですが、兄ちゃんのコーチの剛さんに「(クセを直す)必要はないよ」と言われて安心しています。
―今後コーチをつけることは?
地元の練習場のプロがアドバイスをくれたりするので、正式にコーチをつけようとは考えてないです。兄ちゃんからも「自分で考えるのが大事」ってよく言われますし、今まで自分の感覚というのがなかったので、スイング動画などを見て、自分の感覚をもっと大事にしたほうがいいのかなと、いまは思っています。
―グリップの握りがお兄さんとそっくりに見える
僕はもともと「左手の甲を下向きに」と教わったので、結果的に左手がウィークになったのかなと思っています。最近兄ちゃんの左手もウィークになってきたから、確かに似てきましたね(笑)。オーバーラッピングなのも同じですが、僕はちょっと右手の小指が痛いなというときに、インターロッキングをやめてオーバーラッピングにした記憶があります。兄ちゃんも元々インターロッキングでしたが、左手がウィークになったときにグリップが詰まったみたいで、結果オーバーラッピングにしていました。
会話の中で見え隠れするのが、ツアー18勝を挙げている偉大な兄の存在だ。これまでの話を踏まえ、石川遼に弟・航のスイングについて印象を聞いてみた。
◇◇◇◇
石川遼が弟・航のスイングを解説「僕がやりたい動きを持っている」
「これは航にも言っていますが、僕が目指したいスイングであって、僕がやりたい動きを何カ所も持っているんです」とベタぼめ。「特に後方から見て、切り返し後の右ひざが揃ったとき(左ひざと重なったとき)に、手の位置が相当インから来ているのがいいんですよね」。弟のスイングをよく見ているのか、細かい解説が始まった。
「僕と全然違うのは、航はシャフトが寝て入ってきます。僕は(シャフトが)立って入ってくるので、元々のクセが真逆。僕の昔のスイングを見てもらうと分かると思いますが、アップライトに上がって、アップライトに下りてくる。一方で航はアップライトに上がってフラットに下りてくる。航はインパクトの手元が低いでしょ? 僕の過去のスイングはやっぱり手元が高い。航のスイングで一番いいなと思う部分は、その『インパクトで手元が低いこと』です。どんなに上がワチャワチャしていたとしても、インパクトが収まっているので、航に何も言うことはないですよね。インパクトが悪かったらさすがに何か言っていましたけど、インパクトがいいからそれは必要はないかな」
石川はさらに続ける。「フォローの腕の使い方も航の方が全然いいので、うらやましいと思います。僕が航のスイングをしていたら、もう次のチェックポイントに移っている。航は元々できているから、そのありがたみを感じにくいんじゃないですかね。スイングはいいのだから、まずは思い切って今の自分が持っているものでベストを尽くしてほしい。スコアを構成しているのはそれ(スイング)以外ですからね」
弟のことになると、いつも以上に饒舌になる石川。弟がプロとなって同じツアーの舞台に立っていることの喜びが、どこか伝わってくる。
「そうですね、(プロゴルファーは)やっぱり航が自分で選んだ道ですから。航の思春期にもずっと会えていなかったですし、この道を選んでくれて、ここ(プロツアー)にいるのはうれしい。航が10歳のときは、僕が18歳で賞金王をとった年で、ほぼ家にいませんでしたから。その後アメリカに行くようになってからは一番会えていなかった」
一方で石川は、プロゴルファーの兄がいることの難しさについて推測した。
「8つ上に僕がいて、頭に入ってくる情報が多く、僕より常に8年早く知ることの難しさはあったと思うんです。全く何の影響を与えないよりはいいかもしれないですけど、いいことばっかりじゃなかったと思います。特に僕のやっていることがコロコロ変わる時期はかわいそうで、前の週は体の回転で打っていたのに、翌週急に手打ちで打つときもありましたから(笑)。だからこそ、航が成績を出せるようになってきて、純粋にすごいと思います。このまま、あまり細かいこと考えずにガンガンいってほしいですね。まずは自分の100%でぶつかって、あとは試合で反省して学習してほしい」と、最後には弟の成長を願う“兄心”が垣間見えた。
8歳上の兄がゴルフ界を代表するスーパースターという環境で育った石川航。兄の背中を追い続け、気づけば同じ土俵で戦うところまで成長した。兄弟での優勝争いを、早く見てみたい。(取材・構成/服部謙二郎)
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