ドライバーのトレンドは“扱いやすさ”へ 「大MOI時代」は終焉か…/26ドライバー研究#1
26年モデルのドライバーが市場を賑わせている。それらのクラブを一斉に打ち比べるチャンスがなかったとしても、ヘッドの計測データから特性を見出せば、自分に合うモデルの目星がつけられるはずだ。(第1回/全7回)
“重心”によってヘッドの特性が決まる
海外の4ブランド(テーラーメイド、キャロウェイ、ピン、コブラ)と日本の2ブランド(ゼクシオ、ミズノ)からローンチされた26年モデルのドライバーのヘッド計測を、クラブデザイナーでジューシー株式会社を主宰する松吉宗之氏に依頼した。まずはヘッドの計測データに関する基礎知識をおさらいしよう。
[重心距離]
40㎜くらいが現代の平均値です。38mmを切ると短い、42mmを超えると長いと言えます。今年は極端に長いモデルはあまりなく、むしろ30mm台がやや増えました。
[重心深度]
重心距離と同じように40mmくらいが現代の平均値です。今年も驚異的に深いのがピンの2モデルで、どちらも50mm台でした。
[重心高]
フェースの高さ(大きさ)がモデルによってけっこう異なるので、下から測った数字(重心高1)の評価は悩むところです。過去には、重心点より上で打つほうが低スピンになりやすい“飛ぶエリア”と考えると、その大きさをどれくらい確保するかが重要とされていたので、重心高2(有効打点距離)を気にしていました。これをどう捉えていくかが今後の課題でしょう。
[ヘッド左右MOI(慣性モーメント)]
ヘッド体積に0を一つつけたくらいの数値が出ていれば、きちんと設計されていると評価できます。現代の大型ヘッドとなる460㏄だと4600g・cm2が標準値で、平均値は4700g・cm2弱くらいです。実際に、プレーヤーが体感できるのは4300g・cm2くらいで、物理学の計算上、それ以上は大きな差が出ません。なお、左右だけではなく上下のMOIもありますが、こちらはあまり体感できません。
[重心角]
球のつかまりに影響する数値で、重心距離、重心深度、FP(フェースプログレッション)という3つの要素で決まります。長年にわたり測ってきた感覚だと、25度くらいが平均値。小さいと20度、大きいと30度くらいのモデルもあります。重心距離が40~42mmで重心角が23度くらいのモデルはバランスが良くて「素直に真っすぐ行く」というイメージです。
[FP値(フェースプログレッション)]
平均値は18mmくらいです。以前はもう少し大きかったのですが減少傾向に。10年くらい前は19~20mmくらいありました。14㎜台になると小さいと言えて、外ブラのモデルは総じて小さい傾向です。
[ヘッド体積]
チタンの300㏄の時代から技術革新によりヘッドを大きくしていった時代、ヘッド体積は重要視されていました。しかし、ルールで460㏄と決まった現代では、この数字はあまり意味をなさないと思います。現代の技術では厚みや凹凸のつけ方で体積はいくらでも調整可能に。体感的には投影面積のほうが重要ですが、その数値化は難しい。ちなみに、ルールでは460㏄が上限と定められていますが、測定誤差プラス10㏄が認められていて、実質的な上限は470㏄です。
“扱いやすい・打ちやすい” だから飛ばせる
毎年、モデルチェンジをして新作を世に送り出す、テーラーメイドとキャロウェイ。26年モデルのドライバーも、この外ブラ2社が話題の中心になっている。その「Qi4D」シリーズと「クアンタム」シリーズ、それぞれ4モデルのヘッド計測値を見ながら、松吉氏は前年との違いをこう述べる。
「両メーカーともに、昨年(前作)と比べてMOI(慣性モーメント)が“微減”となりました。この傾向はハッキリしていますが、キャロウェイのほうがより顕著かもしれません。
MOIが大きいことは良いのですが、MOIを大きくするために犠牲になった性能がありました。そこで新作はMOIを追い求め過ぎず、“扱いやすさ、打ちやすさ”を向上させる方向にシフトしている感じがします。この傾向は2メーカーだけでなく、全体的に見受けられますね」
2024年の“10K競争”が記憶に新しいところだが、ここ数年ドライバーの市場は「MOI偏重」のムードが支配的だった。MOIが大きければスイートエリアが広くなり、打点がバラついても球の曲がり幅や飛距離のロスが抑えられる。
一方で、MOIが大きくなりすぎたことでヘッドの扱いづらさを感じたり、フェースが戻り切らず球が右にすっぽ抜けたりする人が一定数いた。MOIを重視し過ぎるこの流れから脱し、26年モデルは全体的に、より打ち手の目線に立った設計がなされたということだ。その中にあって、ピンの新作2モデルはMOIが極大だ。
「ピンは長年MOIが大きいことを一貫したポリシーとしています。その上で、MOIが大きいヘッドをどう打ちやすくするか、に一つの答えを出したモデルだと思います」
各メーカーが取り入れた“打ちやすさ”の味つけ
“打ちやすさ”を追求するために、各メーカーでさまざまな工夫があるようだ。
「テーラーメイドの『Qi4D』(コアモデル)のように、4カ所に可変式ウエートを設けて、それぞれの人が打ちやすいところへアジャストできるようにするのもそう。または、コブラ(『OPTM』シリーズ)のように、モデルごとの違いをハッキリと出して、自分が使いやすいモデルを選べるようにするのもそうです」
日本のブランドについても、そのことが当てはまるという。
「『ゼクシオ 14』(ダンロップ)のように、ヘッドの大型化へ少しずつ変化しながら、伝統的な“ゼクシオのベストバランスは崩さない”というスタンスもそう。ミズノ(『JPX ONE』シリーズ)のように、ミズノのファンが特に求めている性能(例えば、重心距離が短めで取り回しが良い)にしっかりとフォーカスしたクラブ作りもそうです」
重心が深くなるほど“上を向いてつかまる”動きをする
松吉氏が指摘する“扱いやすさ”とは、ヘッドの計測データで言うとどの数値が大きく関わるのか?
「重心深度です。重心が深過ぎないほうが“扱いやすさ”につながります。シャフトから重心が後ろに離れる(深くなる)と、ヘッドが上を向こうとする(ロフトが寝る)し、左に向き始めたら止まらない(フェースがかぶる)、という動きになるもの。ヘッドを上から見たときに、ヘッドの重心点がシャフトの延長線と揃おうとするので、重心が深くなるほどフェースがかぶる動きをするんです。この“上を向きながらつかまる”という動きが、重心が深すぎるヘッドの扱いづらさにつながってしまう。ヘッドのMOIを大きくするには、重心を深くせざるを得ません。深すぎる重心は、大MOIの副産物なんです」
ヘッドの“扱いやすさ”という点では「重心距離と重心深度の数値が近いヘッドは、わりと素直に感じます。逆に、2つの数値に差があるヘッドは“主張”が強いと感じるでしょう」と言う。今回計測したヘッドの中にも、重心距離と重心深度の数値が近いモデルがある。その辺りも次回以降でチェックしていく(続く)。
文:新井田聡
クラブ写真:小林司
取材・編集:中島俊介
■ 松吉宗之(まつよし むねゆき) プロフィール
ジューシー株式会社の代表取締役。ゴルフクラブメーカーにて、クラブの設計開発に20年以上携わる。2018年にジューシー株式会社を設立。自社製品だけでなく、OEMでの設計も行う。3D CADを用いたデジタル設計をいち早く導入し、数値に裏付けられた革新的な性能のクラブを多数開発。その傍ら、膨大な数のクラブヘッドを自身で測定し、ゴルフクラブの性能や製法の進化を独自に研究し続けている。