音楽とゴルフ 常識を疑う“仕掛け人”が生んだ観戦スタイル
アイデアの実現を後押しした選手たちの反応
前例のないことをいきなり始めると混乱を招くもの。そこで、プレーする選手たちにもヒアリングを行った。「静かなところで急に音がするのはダメだけど、ずっと流れていれば気にならない」という意見が主流。好意的な声も多かったことで、事態は大きく進展した。
プレー中に音楽をかけることにGOサインは出たが、何しろ初めての試みだ。適正なボリュームが誰にもわからない。そして迎えた2017年大会。蝉の鳴き声しか聞こえない初日スタート前、実際に音楽を流して日本ゴルフツアー機構・青木功会長の判断を仰ぐことになった。
うるさいよ!と一喝されるかもしれない…。そんな心配は杞憂に終わった。「音が小さい。もっと(ボリュームを)上げろ」。青木会長のひと声により、にぎやかな音楽とゴルフが融合する日本初の大会は無事にスタートした。
「フェニックスオープン」16番のような名物ホールに
1番と10番のスタートホールでは、選手自身が選ぶテーマ曲で入場。野球や格闘技のように選手は胸を高ぶらせ、ギャラリーの拍手も自然と大きくなる。「入場曲を流すことで、お客様が『この人は何でこの曲?』といった具合に興味を持ってもらうきっかけになりますよね」。大保のアイデアには、ギャラリーにさまざまな選手への関心を高めてもらう狙いもあった。
特定のパー3ホールでは常に音楽を流し、DJとギャラリーが「ホールインワン」コールで選手をあおる。安全策を取ればブーイングが沸き起こるが、敵意はない。あくまで楽しむための演出。だからこそ選手も自然とテンションが上がり、バーディを奪えば気前よくボールをプレゼントするなどのパフォーマンスで自己表現するようになった。
ギャラリーと選手がより一体になれる空間作りが、さらなる熱狂を生み出す。目指しているのは、「フェニックスオープン」16番のような世界一盛り上がる名物ホールに仕立て上げること。ことしは、12番パー3がその舞台となる。
「第一歩」を踏み出した次なる施策は?
音楽とゴルフツアーを掛け合わせる新しい観戦スタイルはすっかり定着し、ことしで6年目(2020年大会は中止のため開催は5度目)の夏を迎える。選手と主催者が協力し合ってトーナメントを盛り上げる、これまでになかった形の「第一歩になったかな、とは思っています」と自負する。
「第一歩」というからには、大会は完成形ではない。「8月ですから、日本の夏の行事らしい何かをやれたら。これからも発展していきますよ」。次は、どんな出会いでサプライズを起こすのか。「Sansan KBCオーガスタ」は今後も進化を続けていく。