カーボンフェースの軽さが生み出した飛びとやさしさの秘密
初速に対する新発想はエネルギー伝達効率に
2000年代はフェース部分にチタン素材を使用するのが主流だった。その裏で、テーラーメイドは20年以上に渡りフェースにカーボン素材を採用する“カーボンウッド”の開発も進めていた。形となったのが、2022年発売の「ステルス」シリーズだ。
チタンからカーボンへの素材の移行は、今までの常識から大きな変化を生む。ボール初速に影響を与えていたインパクト時のヘッドの働きについて、考え方が大きく異なるからだ。
「カーボンというのは、やわらかい素材という誤解があるようですが、実際にはダイヤモンドに近い硬度を持つ素材です。そのため、チタンなどの金属製フェースと違い、インパクトでたわみや変形が起こりません。今までのようなフェース自体の反発によって球を弾くというよりも、ヘッド全体がボールを押し込むような状態でインパクトを迎えるため、エネルギー伝達効率も良く、ボール初速が向上するのです」
硬度とともにカーボンの特長となるのが軽さ。「チタンでは、フェースを薄くすればするほど反発力が出るとされていました。しかし、実は薄いフェースがフェース自体をたわませることは、エネルギーロスが生まれます。我々が出した答えは、軽さが速さになること。軽いフェースを後ろの重いボディが押し込むことでボールに与える運動エネルギーの伝達効率が高まるというのが結論でした」
フェースの軽さがボール初速につながるという結論から導きだされたのが「カーボンフェース」の採用だ。「最新モデルの『ステルス2』のカーボンフェースで言うと、その重さは24グラム。チタンフェースの約半分の重さです」
今までの反発係数という基準とはまったく違う、フェースの軽さによるエネルギー伝達効率の高さ。既存のテクノロジーを覆す発想で、ボール初速の向上、飛距離アップが実現した。
新たな素材の採用は飛距離とやさしさにつながる
カーボンフェースの採用は、オフセンターヒット時の初速ロスの軽減にもつながることを柴崎は強調する。
「『ステルス』から『ステルス2』への進化では、カーボンフェースの積層を変化させ2グラムの軽量化、そしてフェース中央部の肉厚エリアを拡大しています。肉厚部はスイートエリアとなるので、エネルギー伝達効率も高くなります。その範囲が広くなるということは、その付近に当たればどこでも高初速の球が打てるということです」
スイートエリアの拡大は、スイングが安定しているプロや上級者だけではなく、幅広い層のゴルファーがカーボンフェースの恩恵を実感できるというわけだ。
クラブの歴史はパーシモン、メタル、チタンと素材が変わるとともに、やさしさと飛距離を向上させてきた。そして、新たな素材として注目されているカーボンにより、時代はまさに新たな進化を遂げようとしている。