ボールの変遷から見るタイガー・ウッズのこだわり
日本初開催のPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」でツアー最多の82勝目を挙げたタイガー・ウッズ。今大会で使用したボールは、ブリヂストンスポーツの「ツアーB XS」。今年のマスターズで11年ぶりにメジャー優勝を遂げた際は、同社に注文が殺到したという。
「ボールが決まらないと、クラブを決められない」 と断言するほど、ボールに強いこだわりを持つウッズだが、ボールに何を求めているのだろうか。ボール契約を結ぶ同社ボール商品開発部の古山大樹氏に話を聞いた。
ボール開発担当者が明かすウッズのこだわり
2016年、ウッズは長年契約していたナイキのハード事業撤退に伴い、道具の変更を余儀なくされる。まずは、クラブよりも先にボールから新たな相棒を探した。各メーカーのボールを独自にテストしていた中から選んだのがブリヂストンスポーツの「ツアーB330S」だった。
開発部の古山氏は、「打感とスピンが彼(ウッズ)のボールへのこだわりだと、テストを重ねる中で分かってきました」と力強く語った。「打感とグリーン周りのスピンをチェックする意味で、パットやチップ(アプローチ)のテストから入ります。彼はスピンが多ければ多いほど、ボールを自在に操れるので好みですね。かつ、他のプロに比べるとソフトな打感に対するこだわりが強いです」。
そのため、ボールのテストはパット→チップ(アプローチ)→ショートアイアン→ミドルアイアン→ドライバーと飛距離が短い順に行うそうだ。
特に興味深いのが、ショットでのテストをする際の判断基準だ。「彼独自の感覚で自分の“ウィンドウ”の中にボールが入っているかをチェックしているようです」。ウッズのユニークなボールの選び方が見えてきた。
「私たちは彼のコメントと弾道計測機のトラックマンで測ったデータを照らし合わせてこの弾道だとウィンドウから外れているんだな、って見当をつけるんです。その結果を開発部にフィードバックして、次の設計につなげています」と開発の裏側を明かしてくれた。
ウッズの打感への繊細さは、メーカー担当者も驚くほどだ。微妙な差を感じ分けるウッズの2020年使用モデル開発にあたって、同社は音に注目して“好みの打感”を分析。音響解析の結果を反映しながらリクエストに応え、用意した試作サンプル数は通常の開発時の2倍近くに上った。
時代の最先端を歩むウッズのボール変遷
ウッズが使用していた歴代のボールは以下の通りだ。
<これまでのボール変遷>
1996年 タイトリスト「プロフェッショナル90」
2000年 ナイキ「ツアー アキュラシー TW」
2003年 ナイキ「ONE TW」
2005年 ナイキ「ONEプラチナTW」
2009年 ナイキ「ONEツアーTW」
2011年 ナイキ「ONEツアーD」
2014年 ナイキ「レジン ブラック」
2015年 ナイキ「レジン ツアー プラチナム」
2016年 ブリヂストン「ツアー B330S」
2017年 ブリヂストン「ツアー B XS」
プロ転向を発表した1996年はタイトリストの「Professional 90」を使用。糸巻きバラタカバー(天然ゴム使用)が全盛だったこの頃に、いち早くウレタンカバーのボールを取り入れた。
2000年にはゴルフ界の歴史に残る転機が訪れる。ウッズがナイキの「ツアー アキュラシー TW」という3ピースボールを実戦投入した。糸巻きウレタンカバーが一般的だった時期に、ソリッドコア構造のボールを採用し話題となった。年度をまたいで4大メジャーを4連勝した“タイガー・スラム”と呼ばれる大活躍が合わさって、約100年続いた糸巻きボールの時代は幕を閉じた。
2016年からブリヂストン「ツアーB330S」を使用し、現在は「ツアー B XS」を愛用中。2020年に使用する予定の新しいモデルは、同社の設計コンセプトに納得を得ながら、ウッズとともにテストを重ね完成したそうだ。こだわりが強かったグリーン周りのスピンのかかりやすさには、カバーの硬さと塗装への工夫で対応。対して、ショット時の性能向上には、コアに水を配合するという特許技術で1層のコアながら内軟外硬を実現し、ボールの吹き上がりを抑えたという。
ウッズは常に最先端の技術が詰まったボールを使用し、ゴルフ界をリードしている。歴代のボールを見ていくと、ほとんどがスピンをコントロールしてボールを操りたいというプレースタイルにつながる。
プロ転向から早23年を数え、年末には44歳となるウッズ。新ボールに好感触を示しており、開発した古山氏のところには「今すぐにでも使いたい」と、期待を込めたコメントが届いたという。ウッズの放つ白球のドラマを噛み締めながら味わいたい。 (編集部・大久保彩)
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