一般男性アマが鈴木愛を真似してレディースパターを使ったら… メリットとデメリットを考察
国内女子ツアー最終戦「リコーカップ」を制した鈴木愛。彼女の支えとなったのが「G Le2 echo パター」という、数ある愛用モデルの中でも「最もやさしい」ゆえに極力使用を避ける“禁断のパター”と表現したレディースモデルだった。そこでふと湧いた疑問は、一般的な体格の男性ゴルファーが使っても、同じようにメリットがあるのか――。販売元であるメーカー担当者と、スイング&ギアに深く精通しているコーチに話を聞いた。
「男だから、女だから…」は昔の話!“PLAY YOUR BEST”
まずは表題の質問を、ピンゴルフジャパンのプロダクトマーケティングマネジャー安齋伸広氏にぶつける。すると、「当社ではレディースモデルだからといって女性限定、男性厳禁と明確に分けてはいません」ときっぱり。
「もちろんレディース商品には小文字の『ping』を採用したり、手に取ってもらいやすくカラーリングを意識したデザインを施していますが、“PLAY YOUR BEST”の原則のもと、プレーヤーがフィッティングをして適したスペックを各々で選んでもらうというのがベストです。男性だからメンズ、女性以外はレディースを推奨しないというスタンスは取っていません」
「『G LE』シリーズは、レディースモデルでもメンズクラブと同等の性能を実現し、しかも女性に受け入れられるクラブを開発しようと専属チームが結集してできたプロダクトです。創業者カーステン・ソルハイムの孫娘であるステイシー・ポーウェルズを中心に、女性ゴルファーの意見を取り入れ、独自の開発手法を用いたシリーズ。パターでいうと、2017年発売の第1弾ではTR溝、19年『G Le2』では二重構造のインサート、23年『G LE3』ではプラス浅い溝を採用するなど、メンズ同様の高い技術を取り入れてきました」
同社のジェンダーレス対応は今に始まったことではなく、17年スタートの変革を経て、現在では常態化していた。今回の鈴木愛の使用も、同社の姿勢が結果につながったとみられる。ちなみに同週優勝の契約選手・大岩龍一も、24年の開幕戦で「G LE3 LOUISE パター レディス」を使用していたそうだ。
360gマレット+シャフト長33インチの利点
次に細かなスペックを見ていこう。
今作「G Le2 echo」はヘッド重量360g。ヘッド単体でいうと「スコッツデール ANSER 2D パター」と同等で、同じマレット型「OSLO 3」365gや「CRAZ-E」370gと比べると、やはり軽い。専用グリップ&純正シャフトを踏まえた総重量を比べれば、こちらも本当に微差ながら10~15gほど軽いことが想像できる。また、シャフトの長さ33インチは、長さ調整が効くカスタム対応がされていないので固定。一般的なメンズモデルの平均長さ34インチと比べると、若干ではあるが短い。「インドアゴルフレンジKz亀戸店」の筒康博コーチは、この微小な“軽さ+短さ”をメリットに挙げる。
「当然ですが、重いものより軽いほうが、手を動かしやすくしっかりストロークできます。また、メンズモデルの34インチより1インチ短く、アドレス時にボールに近く立てるため、少しだけ吊るような感覚で握ることができます。本当にわずかな違いですが、この吊るような感覚があることで、マレット型の特徴であるストレートに近い(イントゥインの度合いが小さい)軌道がスムーズになる効果も。特に繊細な違いを感じ取れる鈴木プロが『やさしい』と表現した理由は、このわずかな“軽さ+短さ”の相乗効果を指しているといえます」
アマチュアには関係ない話… だが物理的「スキッド」に影響!?
では、一般的な体格の男性アマチュアゴルファーにとって、この微小な“軽さ+短さ”はメリットになるのか? 「正直、そこまで感じ取れる人はいないでしょう」と筒氏。
「圧倒的な練習量に技術が確立されているプロはたった数mm単位でも違いを察知できますが、一般アマチュアでその違いを感じ取れる人はほぼいないでしょう。ですが、物理的に10g、1インチ単位の違いはインパクト時のクラブの挙動に影響を与えます」
「パッティングの場合、インパクトロフトが変われば“スキッド”と呼ばれる順回転に変わる前の芝上を滑る長さに影響が生まれます。ツアートーナメントの高速グリーンでは、スキッドが短いほどタッチが合わせやすくなりますが、我々アマが回る9~10フィートのグリーンでは、ある程度スキッドが長いほうが、ボールがバウンドや芝目の影響を受ける割合が減り、スムーズな転がりを感じられる。わずかに打ち損じても、ショートするリスクが減る可能性が高まります」
ショートするリスクが減る…!? タッチが合う。なら、これはもう買いでしょ。と思いきや、「ただし全員が全員、使うべきとはなりません」と、最後に注意点を加える。
「『G LE2 echo』が適している人は、ずばりオートマチックにパッティングをしたいけど長さや重さを気にせずにカップまで届く少し強気のタッチを出したい人。または、今よりも少しボールの近くに立ってストレート軌道のストロークをしたい人向きです。イントゥイン軌道が体にしみついている方や、積極的にフェースの開閉を使いたい人には、高慣性モーメントヘッドの挙動に違和感を覚えてしまうので注意が必要です」
プロのように十分な練習時間も、多くのモデルを試す機会も少ない我々アマチュアにとって、パターを何本もスイッチして使い分ける余裕はない。だからこそ、ストロークに迷い続ける前に、少し“型破り”な一本を投入することで、意外な解決策が生まれるかもしれない。(編集部/内田佳)