松山英樹グリーン周りの思考回路

【新連載!松山英樹ショートゲームLESSON】「56度」と「60度」を使い分ける“判断基準”とは/グリーン周りの思考回路#1

2026/10/20 17:00
“国宝級”と称されるその技術の中身を徹底公開!

トヨタ、ソニー、任天堂――世界にはその名前だけで通用する日本生まれの技術がある。昨今のゴルフ界で象徴とも言えるのが、松山英樹のアプローチ(チッピング)だ。グリーン周りで、どう考え、どうクラブを選び、どう打つのか。米フロリダ州で撮り下ろしたGDOの完全独占企画。国宝級のテクニックを繰り出す、緻密な“思考回路”を本人の言葉から紐解いていく。(第1回/全8回)

同じ芝でもスピンのかかり方が違う

――グリーン周りにたどり着いた時、何を考えるか教えてもらえますか?

まずはボール周辺のライを確認し、必ずグリーンまで上がって、グリーン面とそこに至るまでの形状をチェックします。グリーンの芝のコンディション、グリーンまでの傾斜の有無、グリーン面の傾斜がどうなっているのか、あらゆる状況を確認します。その上で、どの番手でどんな球種がいいのか、低く出すのか高く出すのか、どんな球で行くのかを考えます。番手選びは(ロフト角)56度か60度のウェッジを基本にしています。

「必ずグリーン上をチェックします」と松山

――56度と60度はどう使い分けますか?

56度でいける時は56度でいきたいのですが、それだと球足(ラン)が長くなってしまって難しくなる時があります。その場合は60度を選択します。ただし、60度だとスピンがかかり過ぎて手前で止まってしまい、寄らないケースもあります。そういう場面では、56度で「ちょっとゆっくり振って球足が出ないようにする」というやり方も考えます。

――状況によって56度と60度を細かく使い分ける

60度で低く出してスピンをかけたほうが寄せやすい時もあります。60度で強く低く出したほうが、56度で打つよりもグリーン上でボールが先に跳ねてくれる。跳ねて前に行くけれど、スピンが強くかかって止まってくれます。

クリーブランド「RTX4 FORGED」の56度と60度がベースとなる

――「60度で低く出してスピンをかける」場面とは、具体的にどんな状況?

グリーン面が少しウェットな状況で、56度で普通にポーンと打つと、ファーストバウンドで芝に食われ過ぎて前に走ってくれないケースが結構あるんです。バミューダ芝の逆目などがそうですね。60度で低く出すと、ファーストバウンドで食われながらも前に行って、2バウンド目でスピンがかかる。そのように選択肢をいつも2、3個は持ってアプローチに臨みます。

――例えば下の写真のように、砲台グリーンでピンが奥、グリーン途中から奥に向かって下り傾斜のケースではどう考えますか?
上って、下るというシチュエーションで、さらにピンの奥も下っているように見えるので、ちょっと難しいですね。海外のコースだとピンの先が下っているとグリーンから出て行くことが珍しくありません。今回のようにカップの奥から2mオーバーしたらグリーンを出てしまう状況だったら、56度でピン手前に落として、「1~2m手前で止まるのはOK」とします。

撮影時の状況。砲台グリーンでピンは奥。ピンから先は下りで難しい

――ライはどう判断しますか?

例えばこのコースのバミューダは、僕にとって芝生の種類としては嫌なものではなく、きょう(撮影当日)は乾燥していてボールが浮きやすいですね。ピンが近い場合でも、速く振ってスピンをかけられる芝です。同じ芝でも、状況や生え方によって、スピンをかけやすい場合と全くかけられない場合があります。スピンがかけられない時は、諦めて転がしたり、ロブショットを打ったりという選択になります。

――同じバミューダ芝でも、状況によって変わるということですね

ここのバミューダ芝は逆目だったとしても、浮いていて乾燥していればスピンは入れやすい。しかし、同じバミューダでも全くボールが浮かないコースもあって、そういう状況ではしっかりコンタクトしないとスピンはかかりません。また、(芝が寝ていて)ペタペタな所だと、フェースを開いた時に歯(リーディングエッジ)が浮くので、しっかりヘッドを入れようとすると今度は刺さりやすくて難しい。いろんなコースに行けば、いろんな芝があります。同じコース内でも違う芝が混ざっているケースは多く、「この場所はイヤだな」と思ったら十分気をつけています。

アメリカでの10年以上の経験が松山のアプローチの裏付けになっている

――判断の基準は米国の試合経験で培ったものですか?

やはり、多くのコースでプレーしてきた経験からくるものだと思います。「この芝だったら大丈夫」、「似ている芝だけどちょっと刺さるな」と予想しながら判断します。「しっかりコンタクトしても、どうしてもダメだ。寄らない」と思わせられる芝やシチュエーションは今でもありますよ。

――「ダメだ」と思う芝の具体的な例はありますか?

最近で本当にダメだったのが、2023年「全米オープン」が開催されたロサンゼルスCCの芝ですね。後から、地面が硬くて上の芝が柔らかいバミューダが苦手だと気づきました。頑張ればスピンはかけられるんですが、普通にノーマルのピッチ&ランをした時に、「刺さるけど弾かれる」という嫌な感じがあったんです。「このコース、難しいなぁ」と思いました。

――「マスターズ」のオーガスタナショナルGCはどうでしょうか?

オーガスタは基本的に地面が硬い。その上で、少し長めのベント芝をローラーで押さえて、ペタペタな状況にしているんです。そういうところはやはり難しい。地面が硬いケースは、おのずと難しい判断になります。(取材・構成/服部謙二郎、桂川洋一)

第2話「アプローチの基本」に続く…

■ 松山英樹 プロフィール

1992年愛媛県生まれ。幼少期にゴルフをはじめ、東北福祉大時代の2011年にマスターズに初出場、アジア出身選手として初めてローアマチュアのタイトルを獲得した。プロ転向1年目の2013年に日本ツアーで賞金王に輝き、同年秋にはPGAツアーに本格参戦。21年のマスターズで日本の男子選手として初めてメジャータイトルを獲得した。24年パリ五輪銅メダリスト。PGAツアー通算11勝。近年はウェッジワークの技術の高さで世界的に名声を集めている。

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