ゴルフ日和

食へのこだわりに活路 ゴルフ場の“ウリ”に思うこと ~鳴門CC

2022/07/05 11:45
鳴門CCが「食」に強くこだわり続ける理由とは

あなたがゴルフ場を選ぶ基準はどこにあるだろう? 戦略性に富んだコース、行き届いたメンテナンス、アクセスの良さ、料金…。視点を変えれば、これらはすべてゴルフ場のセールスポイントだ。徳島・鳴門市にある鳴門カントリークラブのセールスポイントは食事。1964年の開場当時から、レストランの質には強いこだわりを持ち続けてきた。

車で30分でも近くない徳島のゴルフ場事情

徳島市の中心部から車で30分。鳴門CCは、三方を海に囲まれた小高い丘の上に位置する。首都圏のゴルファーからすればアクセス抜群に感じられるが、ここでは決してそうではない。田中茂支配人は「徳島にはもっと都市部に近いゴルフ場がいくつかあります。開業当時から比べれば、国道や橋が整備されてアクセスは良くなりましたが、それは近隣の他のゴルフ場にとっても同じ。少なくともはウリにはなりません」と説明する。

海を望める景色は魅力的ではあるけれど…

では、コースの特徴はどうだろう? 「海沿いなので風は強く、アップダウンは激しい。OBも結構あるので狭いコースという印象でしょう」。田中支配人の言葉をそのまま伝えると誤解を生みそうだが、要はなかなかの難コース。集客面では比較的フラットで広々としたコースが有利、という話だ。

潮風が育む名物料理

鳴門CCの立地や地形は決してマイナスばかりではない。海沿いの丘の上ということで眺望は抜群。海の向こうには淡路島、徳島の市街地を見下ろす景色も楽しめる。そして、コースの難度をグッと上げている潮風は、名物となっている自家製の一夜干しを作るには欠かせないのだという。

自家製の干物はコース名物のひとつ

「一度、内陸で干物を作ってみたらいいんですよ。見た目は赤くなって、味も全く別物です」。先ほどはマイナス要素のように語られていた潮風が、自慢の種になるのだから不思議なもの。ゴルフ場で作った干物は他にはない珍しい一品だ。

受け継がれるこだわり 20年変わらない主力メニュー

食への強いこだわりを口にする田中茂支配人

食事にこだわってきたのは初代の社長が料亭の経営者でもあったことが始まり。「何かウリになるものがないかと考えたときに、できることが食事だったんでしょう。アクセス面など不利な点もあるなか、いいアイデアだったと思います」

レストランの壁には、町の食堂や居酒屋風にメニューが貼り出されている。「アジフライ、アジの一夜干し、サバの棒寿司、ヨコ(マグロ)の刺身…。和食を中心にした主なメニューは20年前からほとんど変わっていません」。地元の名物である鳴門鯛がメニューにないのは、田中支配人も理由を知らない伝統だという。

ランチでは海の幸を盛り込んだ自慢のメニューが楽しめる

鳴門CCから南下した海沿いの徳島市中央卸売市場に足を運んで、新鮮な魚を仕入れることも歴代の料理長が受け継いできた伝統。鳴門CCと取引をする仲卸業者の丸長水産によると「ホテルのレストランでも寿司店でも、今は電話やFAXでの注文がほとんどで毎日、市場に来る飲食店の方は1割ぐらい。鳴門CCの料理長は毎朝4時30分ごろにいらっしゃって、自ら目利きをして買っていかれます」とのこと。ゴルフ場のレストランとは思えないこだわりぶりだ。

料理長が自ら足を運ぶという市場の競りの様子

定番メニューのラーメンを置かない理由

鳴門鯛と同様にメニューを見て不思議に思ったのは、ゴルフ場の昼食としては定番のラーメンがないことだ。ただし、こちらは理由がはっきりしている。

「ゴルフ場のラーメン、特にとんこつなんて、どこもほとんどレトルトでしょう。食べ慣れた味なので必ず人気メニューになると思います。それでも、みんながラーメンばかり食べてしまったら、人気がなくなった従来のメニューは必ず味が落ちる。そう思っているからウチでは絶対に置きません」。食事についてはほぼ料理長に任せているが、これだけは田中支配人が譲れない部分だという。

20年間にわたり変わらないという主力メニューの数々

ゴルフ場で食事をしない時代

田中支配人は四国ゴルフ場支配人会で活性化委員長を務めており、昨年から月に1度、四国の各ゴルフ場が一斉にレディースデーを行うという企画をスタートさせた。こうした取り組みにより、鳴門CCには若いゴルファーや女子ゴルファーが増えている。「若い人に人気があるのはアジフライ。女性が、かつ丼をよく注文するのは意外でしたね」。こだわりの食事は新規の利用者にも好評なようだ。

ただし、客層が変化すれば、プレースタイルも変化する。以前に比べ、午後スタートのスループレーなどゴルフ場で昼食をとらない利用者が徐々に増え始めた。「5年後、10年後を考えると、クラブハウスにレストランがいらない時代が来るかもしれない。仮にそうなっても対応できる体制は整えているつもりですけどね」。鳴門CCのウリが、ウリでなくなる日のことも考えている。

未来のウリを考える

田中茂支配人が思い描くゴルフ場の未来とは

実際に5年程度の短期間にゴルフ場からレストランが消えることはないだろうが、その先となると分からない。交通が発展していれば、アクセス性を重視する必要もなくなっているかもしれない。30年後、40年後のゴルファーは何を評価基準とし、ゴルフ場は何をウリにしているのか。のんびりと考えるにはハーフターンの休憩だけではとても足りなさそうだ。

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