再建を支えた3つの施策 鹿沼CCが再定義するゴルフ場のあり方

ゴルフ日和_鹿沼CC
経営再建を成功させた鹿沼グループの福島範治社長

21世紀が始まろうとしていた2000年前後、国内では多くのゴルフ場、および運営会社が経営破綻に追い込まれた。鹿沼カントリー倶楽部(栃木県)を運営する鹿沼グループもそのひとつ。他の多くのゴルフ場が外資を中心としたスポンサーを入れ、一気に経営刷新を図ったのとは対照的に彼らは自主再建という道を選んだ。2004年の民事再生法の申請から20年、すっかり生まれ変わった同倶楽部に足を運んだ。

ハンディキャップ取得者1024人、理事長杯の参加者139人、関東女子クラブ対抗戦で3度優勝。メンバーたちが競技を中心にゴルフライフを積極的に楽しんでいるのが鹿沼CCの特徴だ。メンバー重視の運営は再生計画の中で約束した軸のひとつ。一時期よりは少し下がったが、その比率は45%と高い数字を維持している。

再建を引っ張ってきたのは1998年に病に倒れた父親に代わって、事業を引き継いだ元銀行マンの鹿沼グループ・福島範治社長だ。「内情を知らずに入社したのですが、経営状態はボロボロでした。初月から社員の給料は遅配、税金は滞納、銀行には利息も払えていませんでした」。その後、メーンバンクの支援で経営は改善に向かっていたが、2003年末に頼みのメーンバンクが一時国有化。鹿沼グループは「生命維持装置を外された状態」となり、翌年の民事再生法の適用申請となった。

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鹿沼CCは競技も盛ん。女子は関東倶楽部対抗で3度優勝の強豪だ

再生計画の軸は前出のメンバー重視に加えて、顧客第一主義、コースメンテナンスの向上の3つ。逆に言えば、それまではこれが実現できていなかった。グループでは収益を上げるため、予約を限界以上に入れていた。「鹿沼は最高で年間6万人、グループ内には7万人入れたコースもありました(18ホール当たり)。日没でホールアウトできないことが分かっていて予約を取っていたんです」。後半の数ホールでプレーを打ち切られたゴルファーに謝ることが、土日の業務のひとつだった。再生後は入場者数を適正化。土日の集客が減る分、平日をいかに埋めるか、イベントなどを積極的に打ち出した。

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メンバーに示した再建計画やお客様の声カードへの対応など、さまざまな資料がこれまでの道のりが一筋縄ではなかったことを物語る

顧客第一主義の実現のために行った施策のひとつが「お客様の声カード」の導入。顧客アンケートではなく、スタッフが記入するものだ。「お客様との会話がなければ、カードは記入できません。まずそれがお客様と向き合うことに繋がります。そのうえでクレームがあれば、改善策を考える。また、調理やコース管理など、お客様と触れ合うことのないスタッフに『美味しかった』『グリーンが良かった』といったお褒めの言葉を伝えることも狙いのひとつでした」。多い月には鹿沼CCだけで600枚のカードが提出される。要望やクレームは月に1度のマネジャー会議で議題に上がる。どこまで対応するのか、どうすれば改善できるのか、ひとつのカードに3カ月も話し合ったこともあった。

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暑さに強いバミューダ種のティフイーグルを栃木県内で初導入(鹿沼72CC)

コース管理の方法は抜本的に見直した。「分からない事への危機感がありました。予算書を見ても、この肥料に何の意味があるのか、我々には分からない。コース管理のスタッフですら主な情報源は納入業者ですから本当の意味では分かっていないんです」。海外の専門機関に土壌検査を依頼するなど科学的なアプローチも取り入れた。結果的に鹿沼の土壌は“メタボ”と診断され、肥料は必要ないことが分かった。

経営状態改善後は最新機械も積極的に導入している。「無人の芝刈り機を導入したことでフェアウェイの状態は格段に良くなりました。無人というと人員削減のイメージが強いかもしれませんが、夜間に作業ができる事で、刈り込み回数が増えて、コンディションが良くなる効果の方が大きいんです」。こうした改革に意欲的に取り組んだのは若い社員たち。2006年から新卒採用を本格化し、その1期生、2期生が現在はコース管理部門のリーダーとして活躍している。人事、採用面での改革もコースが生まれ変わるためには必要な要素だった。

もちろん、これまでの施策がすべて成功したわけではない。福島社長が「最後は東京営業所の社員しか乗っていませんでした」と苦笑いで振り返るのは大宮からのクラブバス。近隣のリゾート施設が都心からバス送迎を行っているのを参考にした取り組みだったが「ゴルフにはスタート時間があるんですよ。ちょうどいい時間の予約が取れないとバスは利用してもらえない。当時はそれに気付けませんでした」。大宮(埼玉県)からのクラブバスは1年で廃止となった。

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系列の鹿沼72CCはカジュアルな雰囲気。本格的なピザ窯を使って、地元の子供たちのピザ作り体験会やピザコンテストも開催している

鹿沼グループは再生から成長へ、次の段階を目指している。ビジョンは「また来たいと思ってもらえる次のゴルフ場を創り出す」。より若いゴルファーをターゲットにしている系列の鹿沼72カントリークラブでは目に見える形で次のゴルフ場作りが進んでいる。「家族で楽しめるゴルフ場というのも次のゴルフ場像のひとつだと考えています」。ゴルファーが昼食をとる横では地元の子どもたちを対象としたピッツァづくり体験教室が開かれ、5月には広大な敷地を生かした花火大会が開催される。「コース管理に関しては猛暑対策が次のゴルフ場には求められる」と暑さに強い芝種のティフイーグル(TifEagle)を栃木県で初めて導入した。もう一つの系列である栃木ヶ丘ゴルフ倶楽部もまたコンセプトの異なるコース。それぞれの形でこれからのゴルフ場を体現していく。

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