ゴルフ上達に効く「健康経営」メソッドとは?
働く人を健康にすることで企業価値を向上させる。「健康経営」とは、そういったことを目的にした経営戦略のことです。経済産業省は「健康投資は従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、結果的に業績や株価の向上につながる」と期待しています。
私はいま企業で健康経営を専門にしています。特に力を入れているのは、さまざまなコンディショニングメソッドの研究や実践です。同時にゴルフ歴は24年になります。この連載ではこれまでの経験をもとに、ゴルフや仕事のパフォーマンス向上につながる心身のコンディショニングについて紹介していこうと思います。
ゴルフというスポーツでは年齢を重ねてから、若いころよりも飛距離が伸びた、スイングのキレが良くなった――といった上達を実感することがあります。コンディショニングさえしっかりしていればパフォーマンスを発揮しやすくなり、今までで見たこともないようなボールを打てるようになります。
そもそも、コンディショニングとはどういうものでしょう。厚生労働省の定義によると「運動競技において最高の能力を発揮できるように精神面・肉体面・健康面などから状態を整えること」とされています。具体的には体力、精神、技術、医療、栄養、環境といった要因から総合的にアプローチし、競技の際に能力を最大限に発揮できるようにコントロールしていくことを指します。
コンディショニングは運動競技のみならず、個人や組織の仕事のパフォーマンス向上にとっても欠かせないというのが「健康経営」の考え方の柱の一つになります。
私がその重要性に気付いたのは、従業員の健康状態の調査結果を分析したときでした。腰痛や肩こり、睡眠、メンタルなどの悩みを抱えた人たちが想像以上に多かったのです。中でも、腰痛・肩こりは7割に及んでいました。腰痛で歩くのがつらく一週間休んだという役員や、座ることできず立ったまま会議に参加している社員もいました。
ほかの企業でも調査したところ、やはり万全でない人が多数いました。そんな状態ではワークパフォーマンスが下がって当然ですし、周りの人にも悪影響を及ぼしかねません。そのような状態を打開するために観察などを行い、さまざまな健康プロジェクトに取り組んできました。
今回は、そうした取り組みがゴルフの上達に結び付いた一例を紹介したいと思います。
猫背がクセになっており姿勢が悪く、肩こりや腰痛が慢性化しているシステムエンジニアの男性(52)がいました。その男性から症状を改善したいと頼まれ、以下の2つを2週間続けてもらいました。
(1)デスクワーク中も胸を開いた姿勢を保つ
(2)腕を大きく振りながら後ろ歩きをする
後ろ歩きのときには、耳の位置まで肩が上がるように腕をしっかりと振ってもらいました。症状は改善され、その後のゴルフで男性はドライバーの飛距離が15yd近く伸びたというのです。(※後ろ歩きは周りに障害物のない、誰にも見られない場所で行ってくださいね)
悪い姿勢により肩が前に出てしまい、手打ちになっていたようです。腰痛や肩こりを改善したことにより体幹を使ったスイングがスムーズにできるようになりました。このように体の不安を解消することで“副次的”にゴルフ上達へつながるケースがあるのです。
呼吸、姿勢、思考法、歩き方、座り方、コミュニケーション術といった、いますぐにできることも多くあります。環境づくりや健康関連アイテムの活用もあります。これらはワークパフォーマンス向上にはもちろん、ゴルフの上達にもつながります。連載を通じて、自分流の働き方を見つけながら、ベストスコアの更新を目指しましょう。(平井孝幸・健康経営アドバイザー)
■ 平井孝幸(ひらい・たかゆき) プロフィール
合同会社イブキ代表。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 研究員。15歳でゴルフを始め、3カ月で「75」で回る。慶應義塾大学卒業後、ゴルフ事業で起業。2011年にIT企業に入社。15年から働く人の健康×パフォーマンスアップサポートを開始。19年に所属する企業が経済産業省と東京証券取引所から評価され、健康経営銘柄を獲得。近著に「仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること」