PGAツアー選手の育て方 ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(1)
コーチングと“しつけ”の違い ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(5)
わが子をプロゴルファーに。トッププロの若年化が進む昨今、そう願う大人は決して少なくありません。アスリートの親として、コーチとして必要なこととは何か。PGAツアー15勝のジャスティン・トーマス(通称JT)選手の父であり、全米プロゴルフ協会(PGA)公認のティーチングプロでもあるマイク・トーマス氏が指導方針と“子育て論”を語ります。全5回のコラムは、躾(しつけ)とレッスンの違いを最終回にして締めくくります。(聞き手・田辺安啓)
ライバルの存在
ジュニアの親御さんに必ずと言っていいほど聞かれることが2つあります。ひとつはジャスティンを育てるときに、コーチである私がしたこと。この質問にはいつも「彼自身がゴルフを楽しいと思うようにさせてあげること」と答えてきました。誰かに“ゴルフをやらされている”と思わせてはいけない。楽しくやれるように協力してあげなさい、と。
もうひとつは、上達のために必要なスキルはなんですか?です。これには「100%、ショートゲーム」と返します。ショートゲームの大切さが分かれば、ゴルフの技術はきっと向上するでしょう。
選手は成長過程で結果に対する考え方が変わります。ジャスティンはツアーに出場して2022年までに15勝を積み重ねてきましたが、ルーキーの頃はいつ勝てるのかが分からずにプレーするため、勝てなかったらいつも自分の調子が悪かったせいだと考えてしまっていました。
同い年のジョーダン・スピースが活躍し始めた頃、ジャスティンはまだ大学生でした。そのため、「早く追いつかなければ」と焦ったはず。友達としても仲が良かったので、羨望(せんぼう)の眼差しも向けていたでしょう。トップアスリートであれば当然ある感覚で、良い成績を出しているライバルと自分を比べてしまうのは仕方がないことです。
考え方を整えてあげる
本来、ゴルフは調子と結果が比例するとは限りません。しかし、ルーキーの頃はなかなかそうは考えられないものです。ツアーに長くいるからこそ、学ぶことがある。タイトルを重ねた今では、“ラッキーキック”があったから勝てたと思える。「今年は4、5勝していてもおかしくなかった」というシーズンがあったとしても、「最終日になると別の選手の調子がすごく良くなった」、「最終日だけ自分のパットが少し悪くなった」といったように、冷静に分析できるようになるもの。
PGAツアーにいる選手たちなら、実力差は本当にわずかでしかなく、優勝と5位や10位の差はないに等しい。ですから、特に初日や2日目にはあまり無茶をせず、賢くプレーしながら週末に優勝のチャンスをうかがおうという試合運びができるようになります。
とはいえ、トッププレーヤーに共通するのは他の選手に負けない練習量を誇ることでしょう。量だけではダメで、賢い練習をする。ツアー現場で他のインストラクターと話す中で分かってきたのは、明確な目的を持たない練習は建設的でないということ。ただ球を打つのではなく、設定した距離を狙ったり、フラッグの左右を通したりと、何気ないショットの練習もターゲットが明確でなければなりません。良い選手ほど洗練された練習をするものです。
メジャー2勝の先に
コーチや第三者は選手の様子を俯瞰(ふかん)して観察する必要があります。2021年にヒデキ(松山英樹)が「マスターズ」で優勝しました。ジャスティンもヒデキと友達ですし、私たちみんなもヒデキが好きで、彼がマスターズに勝てて良かったと思っています。
メディアや選手から「ヒデキはパットが悪い」という言葉を聞きますが、彼は下手なわけではありません。下手だったら、今いる位置まで来られたはずがない。他の選手と比べて少し入らない、というぐらい。ショットに関しては誰よりもうまいでしょう。ヒデキもジャスティンも、パットが入り始めると、とたんに優勝争いをする選手。パットの名手でも、いつも入るわけではありません。
実際、何年か前に通訳のボブ・ターナー氏と話したことがあります。私が言ったのは「ヒデキはパットの仕方は知っている。ツアーにパターが下手な選手はいない。ただ、選手はいろいろ考えすぎて、良かった時の何かを忘れてしまう」ということ。ジャスティンだって基本的なことを忘れる時もある。パットでもショットでも、不調になるといろんな意見を求めてしまって深みにハマることがよくある。1カ月、2カ月と不調が続いたら、好調時をよく思い返してみることが復調への第一歩でしょう。
ジャスティンのメジャー初優勝はまさにヒデキと争った2017年の「全米プロ」で、父としても、あのレベルの試合で能力を発揮できたことにはスゴイというしかなく、現実のことだとは思えませんでした。
私も父もPGA(大会を主催するPGA・オブ・アメリカ)のプロだったことを思うと、特別なギフトをもらったような気持ちでした。2022年大会にも勝ってくれましたが、もっと勝ちますよ! もちろん、他のメジャーも。取り組みが正しくて、もっと練習して、勝てる位置にいられればチャンスはきっとあります。
子育てとコーチングは別物
コーチとしても、親としても「コーチング」は子どもをプラスの方向へ向かせることに意味があります。危険な場所でクラブを振るのを叱ってやめさせることは、横断歩道を渡る前に左右を確認するよう時に厳しく教えることと同じParenting(子育て)です。
しかしながら、子どものゴルフのスコアが悪いからといって感情任せに声を荒げて叱るのは、子育てではない。コーチングではありますが、それはマイナス、ネガティブなコーチングで、私はしたことがない。悪いスコアを出してイライラしているのは子ども本人であり、親もイライラしていたら、悪循環にしかなりません。大人はイライラするのではなく、教え、育ててプラスの結果に導くのが仕事です。
そういう意味では、親だからといって、必ずしも全ての人が我が子のコーチになれるわけではありません。ご自身が「コーチに向かない」と思う方は、お子さんをしっかりとしたコーチに託すべきでしょう。私は今、インストラクターですが、親御さん向けにインストラクターになるためのレッスンもしています。親がコーチになるために身につけるべきことを教えるのです。
これも指導を通じて分かったことですが、多くの親御さんは子どもと接する際、イライラして互いに悪循環に陥るようなマイナスのアプローチをしてしまいがちです。やはりプラス、ポジティブな刺激を与える方がずっと良い結果に結び付くものです。
ジャスティンに“教え残していること”は、まだまだたくさんあります。なにせ、私自身がまだ学びの途中。彼が何を欲しているか、何をどのように学びたいかを今も学んでいるところです。コーチも親も学びをやめてしまったら、生徒も子どもも悪くなる一方です。ですから、誰かの話に耳を傾ける準備をいつもしています。知らなかったことはメモし、向上に役立てる。これはジャスティンにも、他の生徒にもいずれ役に立つことなのです。(完)
■ マイク・トーマス Mike Thomas
1959年10月15日、オハイオ州シンシナティ生まれ。父にプロゴルファーのポールさんを持つ。82年にケンタッキー州のモアヘッド州立大を卒業し、88年に全米プロゴルフ協会公認のヘッドプロに。90年に同州のルイビルに移住、ハーモニーランディングCCで勤務した。93年4月にジャニー夫人がジャスティンを出産。現在はフロリダ州ジュピターに在住。
レッスンカテゴリー
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