「たかが握り、されどの…」世界NO.1の“グリップ屋さん”総本山を潜入取材/大人の社会科見学 in U.S.A.「GOLF PRIDE」
「ゴルフプライド」のグリップは世界シェア7割近い数字を誇る。ビギナーのころからなんとなく「GOLF PRIDE」のロゴ入りグリップを使うゴルファーは多いだろう。そんな世界をリードするグリップメーカーの本社を訪れ、彼らの歴史、製品に対する熱い思い、そしてその哲学をじっくりと取材した。どんな人たちがグリップ開発に携わり、伝統を守り続けてきたのか。その詳細をレポートする。(取材・構成/服部謙二郎)
1.まずは歴史を振り返る
「クルマといえばトヨタ」、「魔法瓶といえば象印」「検索といえばGoogle」というように、それぞれの項目から連想するメーカーがある。「ゴルフプライド」も同様に、ゴルファーにとってもはや当たり前の存在だ。
ご存じ米国の会社で、起源はオハイオ州アクロンにある。ゴルフ好きならこの地名にピンとくる人もいるかもしれない。かつて「ブリヂストンインビテーショナル」が開催された地であり、「ラバーキャピタル(世界のゴムの首都)」とも呼ばれる。ブリヂストンの北米技術センターや、世界有数のタイヤメーカー・グッドイヤーの本社もあり、まさに“ゴムの街”だ。ゴルフ界の定番となるグリップメーカーが誕生した街にふさわしい。
始まりは1949年。創業者トーマス・L・フェイウィック氏が、それまで主流だった革製グリップよりも軽量でグリップ力があり、耐久性を備えたゴム製グリップを作った。さらに、従来のシャフトに焼き付けて固定する方法から、現代のシャフトを差し込んで装着する「スリップオン」グリップへ改良。グリップ装着が手軽になり、パーツとして見直される画期的なアイデアだった。その後、同社はグリップの代表メーカーとして、クラブメーカーのOEMでも高い採用率を誇るようになる。
1956年登場の緑の差し色が入った「Victory(ヴィクトリー)」は70年代に人気を集め、2006年の引退まで長く活躍した(今でも使用プロ向けに年間1000本を作るという)。その他のエポックメイキングな製品には1995年に誕生した「Tour Velvet(ツアーベルベット)」が挙げられる。タイガー・ウッズがアマチュア時代に使用し、現在でもツアーNo.1グリップとして君臨している。
2016年に現在の本社があるノースカロライナ州へ移転。USオープンの舞台としても有名なパインハーストリゾート内のNO.8敷地内に拠点を構えた。本社とR&D(研究開発)を集約したゴルフプライドの総本山では、新たなグリップ開発のために社員一同が日夜研究を続けている。
2.自身のグリップ交換をライブビューイング
レンガ造りの社屋に入ると、現社長ジェームズ・レドフォード氏が出迎えてくれた。グローバルイノベーションセンター(GIC)と呼ばれるその敷地は3万平方フィートあり、オフィスやR&D、製造、品質管理、テスト施設、小売りショップ、フィッティング施設が入る。レドフォード氏もパインハースト内に家族で居住しており、社員の多くも同リゾート内に住んでいるという。
最初に案内してくれたのは、入口左の「リテールラボ」と呼ばれる小売りスペースだ。「アマチュアの方がグリップを買って自身で装着するのは、簡単なことではないと思います。我々はそのハードルを下げたかった。ここでは我々のスタッフと話しながらグリップを気軽に選べます」。ランニングシューズ店や、バイクショップからインスピレーションを受けたデザインという。
工房内で行われるグリップ交換は“ライブビューイング”形式で、一部始終を目の前で見ることができる。実際、スタッフがグリップに赤いレーザー光を当てて手際よく作業していた。グリップ交換には一日20人以上が訪れる。まさに「近くにあったらといいな」と感じるスペースだった。
3.自分に合うグリップを選んでいく
続いて案内されたのは、「パフォーマンスラボ」というスペース。「できたてホヤホヤなので、まだペンキの匂いがするかもしれません」とレドフォード氏は笑う(一般向けは5月オープン予定)。
パッティンググリーンとショット用打席があり、壁には約100種類のグリップが陳列してあった。「私たちが取り組んでいるのは、グリップを“ただのクラブのハンドル”から、“手のパフォーマンス装備”へと変えることです。だからこそ、このスペースを作りました」と胸を張る。
フィッティングではまずサイズ、素材、形状など複数の選択肢から、担当スタッフとスイングやミスの傾向を話し、3~4種類に候補を絞る。それから打席に移り、グリップを装着したクラブでフルスイングし、最終的な決定をする。クラブフィッティングと同じく約1時間ほどかけて選ぶ。
「これまでは、59分でドライバーやアイアンのフィッティングを行い、グリップは1分程度が普通でした。グリップはただの握り手と思われがちですが、実際はパフォーマンス用具です。ゴルフクラブの中で唯一あなたが触れる箇所ですからね」と力強く語った。
フィッティングで得たデータは開発にも活かされる。「我々もアマチュアの調査が必要で、もっと科学的にグリップのパフォーマンスを知りたかったんです。同時に最適なフィッティングのアルゴリズムも研究しています」。ショット用、パット用、両方のフィッティングから得られる膨大なデータが、R&Dチームと共有される。「新品のグリップと摩耗したグリップを比べると、後者のほうが2.2ヤードキャリーが短くなるという研究結果も出ています」というから、なかなか面白いではないか。
「重要なのは、たとえツアーベルベットのような人気グリップがあっても、それがあなたにとって一番とは限らないということです。多くのオプションを理解してもらい、グリップへの信頼を高めてもらうことが我々の目的です」とレドフォード氏は話した。
4.グリップはどのように生まれるのか?
会社見学の最後には、商品開発部の長であるブルース・ミラー氏が待っていた。目の前にはいくつかのグリップが並ぶ。どうやら「グリップのお勉強会」が始まるようだ。
「黒いグリップを見て『ただのゴムだろう』と言う人もいますが、実際は違います。多くの材料がその中に詰まっています」とミラー氏は最新モデルを示した。ラバーグリップは単一のゴムではなく、様々な化合物を配合して製造されている。「その点はゴルフプライドに来た人が驚くことの一つですね。例えばツアーベルベットのようなグリップでも、15~20種類の異なる成分が入っています」と説明した。
「レシピが複雑な理由は、それがグリップ性能に多くの面で影響を与えるからです。耐久性、快適性、持続可能性、コスト、加工性など、これらすべての要素が複雑なレシピに繋がっています」。硬さや耐久性を調整したり、添加物を加えて特性を作り出したりしているのだ。
「シート状に加工したものをカットしていく工程は、靴作りに似ているかもしれません」とシートを見せてくれた。社内には「ラピッドプロトタイプ」と呼ばれる施設があり、名の通り試作品を作りテストするスピード感を重視しているという。
耐久性に優れていても、やはり劣化はつきもの。グリップの替え時を尋ねると、「熱、日光、使用による摩耗などでグリップは劣化します。『そろそろ替え時かな』と思ったときが替え時です」。ミラー氏は一つのグリップを取り出して言った。「簡単なテスト方法があります。濡れたタオルでグリップを拭いて、元の状態に戻らなければ交換時です」
「練習量やラウンド数で差があります。練習中心の人はラウンド中心の人より早く摩耗します。総じて、熱心なゴルファーなら年に数回、一般的には年1回が目安です」と話した。
話を聞いて、日本に戻ったらまずは濡れたタオルでグリップを拭いてみようと思った。だって、ミスショットはグリップのせいだったのかもしれないから…。
◇◇◇◇
一連の見学を終えて、再び会社の入り口に戻ると、レドフォード氏が「どうだった?」と言わんばかりに両手を広げて待っていた。
「コースで実際にプレーするのは手であり、グリップはスイング中に何が起きているかを感じるための唯一の接触点です。ですから手とグリップのつながりに自信を持つことができ、いかにクラブヘッドを正しくボールに当てることができるかが大事になります。我々は、グリップの性能や快適性は、ゴルフのパフォーマンスに直結すると確信しています」。そう言って、会社見学を締めくくった。