本間ゴルフ特集
2024/10/07

「つくった職人さんの顔が見えるクラブ」酒田工場で世界のHONMAの神髄を見てきた

連載:「完璧なクラブ」をつくり続ける“匠”たちの思い
酒田出身ですが、本間ゴルフ酒田工場内部は初めての訪問。実はジュニア時代からの愛用者です(撮影:角田慎太郎)

GDOのレッスンスタジオ「ゴルフテック」でコーチを務める渡部夏生です。山形県酒田市出身。地元で本間ゴルフ酒田工場を知らない人はいません。HONMAのクラブはジュニア時代からいまも愛用しています。敷地内の研究センターで練習させてもらったことも。今回初めて縁のある酒田工場を訪れました。そこで見たのは、まるで芸術品のようなクラブ、それを職人さんの手作業と機械による自動化を融合して一社完結でつくり出している、ものづくりのカッコ良さでした。

■手作業と自動化の融合ですっきりした工場に

工場長の吉村毅さんに案内していただきました(撮影:角田慎太郎)

「本間さま」という大地主が豪商として名をはせ、その子孫を創業者にもつ本間ゴルフ。酒田の地元ではよく知られていることです。鳥海山を遠方に望む、敷地面積5万坪(東京ドーム3.5個分)はゴルフ工場としては世界最大クラス。大小約20棟からなり、1981年に誕生したそうです。

HONMAが誇るものづくりの現場に足を踏み入れて、すっきりした空間だったのがまず、意外でした。その中で、手作業や機械作業に黙々と取り組む方々。工場の従業員は約250人。HONMAといえば、やはり「匠」といわれる職人さんが有名で、実技と筆記試験を合格した「名匠」は23人ほど。限られた人だけの称号です。

工場長の吉村毅さんによると、「以前は人がごちゃごちゃして手狭な感じがあった」とか。生産本部のシニアダイレクターになった6年前に「大量生産するのに効率をよくするためライン方式に変えました。ユニットごとに必要最小限の機械を入れてレイアウトを変更。当時と比べ、2から2.5倍、生産効率をアップしています。いわば、手作業と自動化の融合によって、きれいでスッキリ、見晴らしのいい部屋になったのです」

■まずは形から。HONMAは美しさを売る

「匠」や「名匠」と呼ばれる職人さんがパーシモンを削ってヘッドの形からつくっていく工程に感動(撮影:角田慎太郎)

ものづくりの伝統と技術が融合された工程。それは、まるで伝統工芸品をつくりあげるているように見えました。そう思ったのは、匠がマスターモデルとなる木型を削るところからクラブづくりが始まると知ったからです。

HONMAといえば、木製ウッド時代のパーシモンクラブが有名。私も祖父が使っていたので、子供のころに実家のちょっとした鳥かご(打席ケージ)でスポンジボールを打って練習していました。ぜんぜん球が上がらなくて飛ばなかった(笑)。そのパーシモンの北米産原木をマスター制作現場で削ってドライバーの木型をつくっていたのは、御年68歳の町井茂雄さん。40年以上のベテランだそうです。

「名匠」のネームプレートが光る開発責任者の佐藤さん。名前は「巧」さん(撮影:角田慎太郎)
匠が工具を使用してアイアンのマスターモデルを製作します(撮影:角田慎太郎)
全番手をスムーズな形状になるようつくりあげるそうです(撮影:角田慎太郎)

製品開発の責任者である佐藤巧さんは、「次のモデルのイメージを頭に入れながら、ヘッドの形状を手で削ってつくる。これは他社ではありえないこと。ヘッドは最初にお客さんが構えたときに見るもので、そこに違和感があってはいけない。HONMAは美しさを売らなければならない、という先代からの教えです」と解説してくれました。

アイアンづくりの名匠でもある佐藤さんによると、フェアウェイウッドやユーティリティ、アイアン、ウェッジも同じように匠がスペックや体積などを考えながら削った「美しい形状」がベースとなって、HONMAのクラブづくりが始まるそうです。長く愛用しているHONMAのマイクラブに、つくった職人さんの顔が見える思いがしました。

■工程ごとに際立つ職人の目

マスターが決まれば、次はCAD。まずはカメラでスキャン(撮影:角田慎太郎)

マスターが決まって、見た目のスペックと形状に問題がなければ、次はCADへ。カメラでスキャンしてデータ化され、内部設計もCADを活用。2台の3Dスキャナーでつくる試作品の模型(モック)は、ドライバーのヘッドとなると7時間はかかるそう。

そのモックにシャフトを挿して、CADではわからない部分を目視するのもHONMAならではの開発のポイント。「置いてみて安心感があるかどうか、実際に目で見る。つくりあげたものは携わった全員が目視して、問題なければ金型へ。それがHONMAの開発のスタイル」と佐藤さん。

組み立て工程はウッドとアイアンがともに3ラインあり、加えてそれぞれカスタム専用ラインがあり、自動化と人の目が融合。1日の生産量はドライバーが1700本、アイアンが4500本。シャフトを自社で生産しているのもHONMAならでは。1枚1枚手作業でカーボンシートを巻き、1日4000本を生産しているそうです。

数工程を経たシャフトを根気よく磨き上げていくそうです(撮影:角田慎太郎)
シャフト1本1本に匠の目が光ります(撮影:角田慎太郎)
シャフトに色づけする「しごき塗装」の工程(撮影:角田慎太郎)

手作業のシャフト塗装の様子も見せてもらいました。塗料容器に入れたシャフト1本ずつ、しごくように抜き出すしごき塗装は、匠が見せる日本伝統の技術。完全機械化しないのは、ゴミの発見やゴムの劣化を目で確認することで、不良品を出すことなく、品質を保証できるから。

塗装の匠がつくりだした鮮やかなカラーのヘッド(撮影:角田慎太郎)

ヘッドの塗装でも吹き付けや微妙な色のコントロールをできる、この道44年の名匠の存在があります。佐藤さんによると「仕上げや色を妥協すると見た目の感性に関わる。HONMAはここで試作して決めてサプライヤーへ渡す。サプライヤーは現物で確認できるので間違いない仕上げとコスメができます」。これもまたHONMA流といえるようです。

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