タイガーも唸らせたプロ御用達シャフトの20年
市場での火付け役はタイガー・ウッズ
ところで、「ディアマナ」は青系(中調子)、白系(手元調子)、赤系(先調子)と色によってキャラクターが分かれ、それぞれ「青マナ」、「白マナ」、「赤マナ」と呼ばれて親しまれている。この分類は第1世代「ディアマナS(青マナ)/D(白マナ)/M(赤マナ)」から始まっている。
キックポイントによる“色分け”だが、実は当初から3つに分ける予定ではなかったそうだ。
「多くの選手のフィードバックを元にシャフトづくりをしていましたから、最初は何十種類ものプロトタイプがありました。しかし、選手とコミュニケーションをとりながらブラッシュアップしていくと、次第に選手の好みの系統が3つに分かれていきました。それが特徴的なEI(剛性)分布3タイプに集約されていったんです」(渥美)
競合他社に後れをとってスタートした同社のシャフト事業だが、「ディアマナ」の名を世界に轟かす出来事が起こる。それは、当時の世界ナンバー1プレーヤー、タイガー・ウッズが「青マナ」を使用し始めたのだ。
「全盛期のウッズのように、ヘッドスピードが速い選手にとっては、全長にボロンを採用してしっかりとした硬さを残したフィーリングが合ったのだと思います。彼が使ってくれた影響で他の選手たちも興味を示し、手にするようになりました。それがきっかけとなって、市場にも『ディアマナ』が浸透していきました。当時のことはよく覚えています」と渥美は振り返る。
PGAツアーではこれまで通算82勝を数えるウッズだが、その中には復活優勝を飾った18年「ツアー選手権」、19年の「マスターズ」など、ターニングポイントとなる大会がある。彼はそこでも「ディアマナ」ブランドのシャフトを使用していた。
「素材から成型まで一貫管理」がストロングポイント
三菱ケミカル最大のストロングポイントは、素材開発から成型までを一貫して管理することができる世界唯一のシャフトメーカーであること。17年、三菱レイヨンは、三菱化学と三菱樹脂の2社と統合し、三菱ケミカルに社名変更。これによりストロングポイントはさらに強化され、よりクオリティの高いシャフトづくりが可能になった。
「これまで以上に他部署の協力を得られるようになり、新素材を幅広く使えるようになりました」(金子)
例えば、ディアマナ第4世代から採用されている「MR70」という素材がその好例だ。高強度炭素繊維「MR70」は、従来では難しかった弾性率と強度の両立を実現した画期的な素材。同社の従来品種との比較では強度が20%、弾性率が10%アップしている。元々、ゴルフシャフト以外の用途で使われていたが、シャフト用に「MR70」を使った薄いプリプレグを開発してもらったそうだ。そのおかげで、硬く弾き感のあるモデルが完成している。
技術力を駆使してフィッティングをシンプルに
また、第5世代から採用されている「コンシステントフィールデザイン」も世界屈指の技術力、開発力が背景にあるコンセプトといえる。
シャフト選びの難しさは、60g台のSフレックスを試打し、「少しハードだ」と感じた場合、ベストスペックは60g台のSRになるのか、50g台のSになるのか、選択肢が分かれてしまうことだ。そのため、「打ってみなければ分からない」というのがこれまでのシャフトスペックの在り方。つまり、軽くすれば振りやすくなるのか、軟らかくすれば振りやすくなるのかが分かりづらかったのだ。
原因は、重さと硬さの基準の曖昧さにある。同じ重量帯でも、RとXで約10gの差があるのはよくあることで、同じSでも50g台と60g台で振り感がまったく変わることがしばしばある。これを解消するのが「ディアマナ第5世代」の狙いだった。
また、一般的にはフレックスがハードになるほどバット径が太くなってフィーリングも変わっていく。径の太さを極力変えずに設計し、さらに振り感を合わせるためにフレックスごとに振動数をそろえているのもポイントだ。
重量や硬さ、振り感をそろえるのは、コストも時間もかかることだ。
「それでも統一感にこだわったのはゴルファー一人ひとりに、シンプルにベストスペックを見つけてもらいたいという思いからです」(渥美)
最新モデルの世代テーマは“原点回帰”
最新となる第6世代は今年1月に発売された「ディアマナWB」と9月発売の「ディアマナBB」。大きな特徴は「ニューチップテクノロジー」を採用したことだ。
最近のクラブヘッドは慣性モーメントが大きくなり、規制ルールの上限に近いモデルが続々と登場している。そのため、シャフトの先端剛性を高めなければヘッド挙動が不安定になってしまい、安定したインパクトを迎えることが難しくなる。しかし、先端を硬くすればするほど、シャフトの走り感が弱まってしまい、飛距離性能は落ちてしまう。そこで、従来の曲げ剛性だけでなく、ねじり剛性もコントロール。ヘッドがブレない安定感と、ねじり量を調整することで飛距離性能を高めているのだ。
安定感と飛距離性能を両立させる第6世代は“原点回帰”がテーマとなっている。第1世代は「青マナ」、「白マナ」、「赤マナ」と性能がはっきり分かれていたが、世代を重ねるごとに3モデルの性能が近くなっていった。
「幅広いゴルファーに使っていただくためには仕方ない部分だったのですが、第6世代では原点に立ち返り、キャラクターをハッキリ分けることで、よりゴルファーそれぞれに合うシャフト特性を意識しました」(金子)
誕生から20年。正常進化を続け、多くのゴルファーを支えてきた「ディアマナ」は、これからもゴルファーに寄り添う相棒でいてくれるだろう。