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桂川有人の単身渡米奮闘記/駐在レップの米ツアー東奔西走Vol.4

プロゴルフツアーの現場で働くメーカーの用具担当者(通称:ツアーレップ)をご存じだろうか? 住友ゴム工業(ダンロップ)の宮野敏一(みやの・としかず)氏は松山英樹畑岡奈紗ら契約選手をサポートするべく、2020年より駐在先の米国で試合会場に足を運んでは、クラブの調整を図る。米国を奔走するゴルフギアのプロが現地からとっておきの情報をお届けする。

◇ ◇ ◇

米国の下部ツアー「コーンフェリーツアー」で、日本から大西魁斗選手と桂川有人選手が出場しているのはご存じかと思います。2人とも昨年のコーンフェリーのQT(予選会)を受け、今季の出場権を得ました。桂川選手はダンロップの契約プロで、我々も彼の海外ツアー初挑戦をできる限りサポートしています。

日本ではなかなか注目されず情報は少ないと思いますが、キャメロン・ヤングウィル・ザラトリスイ・キョンフン(韓国)ら現在ツアーで活躍している選手たちはこの下部ツアーでもまれ、巣立っていきました。今回は、そんなレギュラーツアーに向けた登竜門ともいえる場所で奮闘する桂川選手の“生情報”を皆さんにお伝えします。

日本とは違い「クラブ調整にもひと苦労」

桂川選手の今季コーンフェリー戦績は、15試合に出て予選落ちが8回、棄権が1回。トップ10入りは一度もなく、獲得賞金は約4万5000ドル(約653万円)、ポイントランキングは128位(9/12時点)となかなか好結果を残せていません。

下部とは言え、やはりレベルの高い舞台。PGAツアーから落ちてきた実力者がいれば、大学を出たての生きのいい若者もいます。それこそ桂川選手のように世界中から“つわもの”が集まっていますから、フィールドはかなり厚い。残りの試合数も少なく、まさに正念場を迎えています。

正直に言えば、挑戦1年目から良い結果を出すのは至難の業だと思います。桂川選手は高校時代にフィリピンで暮らしていたとはいえ、海外転戦は初めての経験。普段は基本的に1人で行動し、キャディは帯同させず、トレーナーやマネジャーもつけていません。どの試合も初めての知らないコースばかりで、慣れないことも多い。言葉や文化の壁もあり、思うようにいかないことは多々あるはずです。日本では感じなかった不便さを、多く抱えていることでしょう。

我々もツアーバスを出していますが、下部でカバーできているのは全試合の7割ほど。スタッフは各試合1~3人で回し、たまに私を含めた日本人も行きます。大手メーカー各社はそのぐらいの規模感でスタッフを派遣しますが、メーカーによってはツアーバスすら出ないところもあります。我々のサポートがない週は、ツアーが用意するクラブ組み立て用の共同トレーラーでクラブ調整を依頼できますが、桂川選手はまだ言葉の壁があるので、なかなか細かい調整とまではいかないようです。

クラブ調整に関しては桂川選手ともよく話をしますが、やっぱり機微(きび)といいますか、日本人の好む繊細さが外国人スタッフには伝わらないもどかしさがあるようです。例えばヘッド内部に充填(じゅうてん)剤を入れるにしても、どの位置に入れるかは本当に微妙なところで、細かいニュアンスを伝えるのもひと苦労。私が間に入り、現地スタッフと桂川選手の話を聞きつつ遠隔操作もしますが、やはり現地にいないと思うような調整ができない場合もあります。

何回もお願いすると、外国人スタッフからすると「さっきやったよね。何が違うの?」ということにもなりがちで、日本との勝手の違いに戸惑う部分はあると思います。もともと、こまめにクラブを調整して試合に臨む選手だっただけに、そのあたりのリズムの作り方に難しさを感じているかもしれません。調整したい“ホットなうち”にクラブを触ることができず、我々も歯がゆい部分があります。

シーズン前半戦、パナマとコロンビアの連戦に旅立つ前に「ライ角を変えたい」と本人が言っていたものの、どうしてもタイミングが合わず、その2試合は違和感を抱えたままプレーすることになってしまいました。実際はアイアンのライ角を約1度フラットにしたかったんです。アマチュアでもライ角が1度違ったら気持ち悪いですよね。クラブが万全の状態で臨めない状況で、望んだ結果を残さなければいけない過酷さを想像できると思います。

オープンウィークなど時間のあるときには、米国法人の本社があるカリフォルニアに来てもらい、我々もじっくりクラブ調整を行えます。6月に出場した「全米オープン」の会場は、会社から近いロサンゼルスCCだったので、細かくクラブを調整することができました。本当はメジャーの週にバタバタとクラブを触りたくないですが…そのメジャーで予選を通ってくれて本当に良かったです。

「ツアーの新人」はコースへの慣れがとにかく大変

コーンフェリーツアーに初めて出る選手は、コースへの慣れがまず大変だと思います。日本でも同じですが、ツアー初年度はまず全てのコースに慣れなければいけません。日本では「北海道は洋芝」とか「沖縄は風が強い」などコースの雰囲気は想像できるし、インターネットなどで情報も入手できる。しかし、米国のツアーはその規模が大きく、各地で芝質や地面の硬さが違えば、気候なども行ってみないと分からないことが多いんです。ましてやコーンフェリーの前半戦は、パナマやコロンビア、ペルーなど中南米での試合もありましたから、なおさらコースの雰囲気がつかめなかったと思います。

コースは広いのか、距離は長いのか、アップダウンが多いのか分からない。コースに入ってもドライビングレンジを探すところから始まり、プロ用の練習ボールではなく一般営業用のボールを打たされることだってあります。移動距離が長く、練習日に早く入れないケースがありますから、試合前のコースチェックにも限界がある。そうなると、コースに対するクラブ調整までは手が回りません。風が強くて地面が硬ければドライビングアイアンを入れたくなりますが、そうしたこともままならない。何かと後手を踏んだまま試合に臨むことが、今年は多かったと思います。

“米国で戦う洗礼”ともいえる芝への対応にも、桂川選手は苦労していました。松山英樹選手も、渡米後数年間は試行錯誤したと聞きます。今でこそ「これがあれば大丈夫」というベースのウェッジ1本を中心に、プラスアルファで日々試すことができるので根本的には困ってはいません。

桂川選手はクラブだけでなく打ち方でも悩んでいるので、今後はどちらかに絞りたいところ。今は全て自分で考えて対策を立てていますが、コーチをつけることも模索しているようです。この打ち方ならこのソール、打ち方を変えないならこのソールなど、ある程度絞っていけるといいのですが。そのあたりも、より良い方向に進むように本人と話し合っています。

24歳がひとり米国で生活するタフさ

米国は物品の輸送にも苦労が多く、荷物が届かないことは日常茶飯事。ボールやグローブなどの消耗品を切らさないだけでも大変です。クラブを組み立てて送ったとしても、会場に届かないこともよくありますからね。

移動が過酷なのも広大な米国ならでは。国内だけで最大3時間の時差があり、特に西から東への横断は1日がかりです。日曜日に試合が終わり、月曜日に移動して火曜日から練習となると、休む暇はほとんどありません。桂川選手はレギュラーツアーのマンデー(予選会)に出場することもありますから、スケジューリングが本当に大変です。

試合以外にも、やることはたくさんあります。次の開催地に到着したら、まずレンタカーを借りる。ホテルも自分で押さえなければいけません。桂川選手はQTランクが上位ではないので、試合の直前まで出場が微妙な場合もあります。その場合はとりあえず予約だけしておいて、使わない場合はキャンセル料を払っているそうです。

航空チケットも同様です。事前に予約しておいて、ホテルと同じようにキャンセルや変更をしているそう。手配は全て自分で行っているそうで、作業はけっこう煩雑ですよね。国内線は荷物の制限があり、クラブをたくさん持っていけないですから、やり繰りは大変です。

そんな話を聞いているだけでも「タフだなぁ」と思います。まだ24歳の若者。もちろん我々も陰に陽にサポートしていますが、なかなか手が回らずクラブ調整も万全とは言えません。それでも全米オープンの予選会をトップ通過し、本戦でも予選を通り4日間を戦い抜いたのは素晴らしいと思います。7月にはレギュラーツアー「ジョンディアクラシック」のマンデーを通過し、本戦でも予選を突破しました。徐々に成績も出始めていますし、この勢いを持続して、残り試合でのチャージを期待しています。

ちなみに桂川選手、そのジョンディアのマンデーでは自分でツアー用のキャディバッグを担いで回って7アンダーを出しました。「手引きカートが借りられると思ったんですが…」とキャディ無しでのラウンド。セルフ用のスタンドバッグではなく、通常のツアーバッグですからね。コーンフェリーツアーのキャディたちの間で、「ユートは自分でツアーバッグ担いでマンデー通った凄いやつ」と、ある種伝説的なネタになっているみたいです(笑)。

一時帰国して出場した「フジサンケイクラシック」を挟み、今週14日(木)に開幕する「サイモンズバンクオープン」に出場します。4試合にわたる「コーンフェリーツアーファイナルズ」の第2戦で、次週の第3戦にはポイントランク上位120人が進出。そこでさらにトップ75に残れば、シーズン最終戦「コーンフェリーツアー選手権」(10月5日開幕)に出場できます。最終戦まで進むと来季コーンフェリーツアーの出場権が付与され、さらにトップ30に入ると来季PGAツアーのシード権を獲得できます。

来季の生き残りとPGAツアー昇格に向けて、まさにここから1カ月が正念場。私もしっかりサポートしていきたいと思います。

関連リンク

ツアー現場からの情報報告では動画や画像を織り交ぜて松山の表情も伝えるようにした(撮影:村上航)

宮野敏一氏 プロフィール

宮野敏一(みやのとしかず)。2020年からRoger Clevelanad Golf Company,Inc./駐米プロ担当としてハンティントンビーチに赴任。PGAツアーやLPGAに通い、選手のクラブアッセンブル、フィッティングを行う。レップ仲間からは“PANDA(パンダ)”の愛称で親しまれている。

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