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“松山英樹の感覚”をカタチにする難しさ/駐在レップの米ツアー東奔西走Vol.5

プロゴルフツアーの現場で働くメーカーの用具担当者(通称:ツアーレップ)をご存じだろうか? 住友ゴム工業(ダンロップ)の宮野敏一(みやの・としかず)氏は松山英樹畑岡奈紗ら契約選手をサポートするべく、2020年より駐在先の米国で試合会場に足を運んでは、クラブの調整をする。米国を奔走するゴルフギアのプロが現地からとっておきの情報をお届けする。

◇ ◇ ◇

今週の「ZOZOチャンピオンシップ」は松山英樹プロにとって2カ月ぶりの試合。私も8月の「BMW選手権」以来、久しぶりのツアー帯同になります。松山プロにとって思い入れのある大会を終える前に、今シーズンを振り返って、クラブに対しての取り組みで良かったこと、悪かったことを改めて話していきたいと思います。

クラブが替われば球筋が変わる? そんな単純ではない

今シーズンの松山プロ、最終的にプレーオフ第2戦を途中棄権という形でプレーオフシリーズを終えましたが、その最後の試合となった木曜日の初日のプレーは、ここ5、6年の中で一番いいゴルフをしていたように思いました。スコアこそ「71」でしたが、すごいアグレッシブというか、ドライバーもしっかり振れていてすごく元気なゴルフ。攻めている感じが見ている側にも伝わってきて、すごく楽しかったのを覚えています。

コーチとやってきたスイングの取り組みが体に落とし込まれていて、本人もその手ごたえを感じていたのではないでしょうか。最終戦の「ツアー選手権」まで行けなかったのは残念ですが、私の中では「ここからまたいけそう」と、ワクワクしたことを覚えています。

松山プロとのクラブの取り組みを振り返ると、今年はその“スイング”がキーワードだったように思えます。過去を振り返れば、松山プロのドライバー選びは、なかなか定まらない時代もありました。良いドライバーはないかを探し求め、いろんなクラブをテストしたこともありました。しかし、今シーズンは開幕戦の「フォーティネット選手権」から新しい「スリクソン ZX5 Mk II ドライバー」に替わって以来、時にLSモデルに替えたりはしましたが、基本的にはずっと同じモデルを使ってきました。

もはやドライバーが安定しない時代は過ぎ、いまは「スイングに合うもの」、もしくは「スイングにいい影響のある“きっかけ”を生んでくれるもの」をクラブに求めていたように思えます。もちろんボール初速、クラブスピードなどの飛距離の要素に対してこだわらないことはないですが、他の年よりも「スイングのしやすさ」を優先していた気がします。

特にコーチとのやりとりが始まってから、どちらかというとクラブに「球がつかまる要素」を加えて調整するケースが増えました。ライ角や重心位置なども含めて、つかまる要素を探す。それは「アップライトにすればつかまる」という単純なものではなく、ロフト、ライ、重心位置などをいろいろ試したり、違う仕様のクラブを持ったらどうスイングが変わるのかを何度も試していました。

ドライバーの良いものを探す段階は過ぎ、スイングに合うドライバーを探す段階。スイングを変えたり、ケガの影響もあったりして、昨シーズンはドライバーの飛距離がなかなか出ていませんでしたが、実際に飛ばそうと思えば、クラブで行えることはもっとあったような気はします。ですが、それよりも「やりたいスイングができるクラブ」を最優先していた。松山プロからそうした具体的な言葉があったわけではないですが、振り返ってみればスイングにこだわった一年でした。

今シーズンは松山プロだけでなく、ブルックス・ケプカプロ、桂川有人プロ、畑岡奈紗プロなどとやり取りをして、「クラブが変わるからスイングや構えが変わって、結果、弾道が変わる」ということを改めて感じた一年でした。クラブが替わることで、いきなり弾道が変わるほど単純ではないことは分かっていましたが、今さらながらそれをより強く感じました。

例えば、右に行くからヒールを重くしてつかまりを良くすればいいという説はありますが、一方でうまくいかないという説もあります(この仕事をしているとその説もよく聞きます)。理論上は前者が正しく、ロボットが打てば単純にヒールの重いほうが性能としてつかまるのでしょうが、やはり人間がクラブを持って振るからヒールの重みを感じてしまう人はいるし、そうなると体が反応してフェースが開きやすい人もいる。ですから、右に行くから単純にヒールを重くすればいいわけでもないんです。

見た目からくる印象もあるし、ライ角が変わったり、ちょっと“フックフェースだな”と思っただけで、体は反応します。フックフェースになったからハンドファーストに構えてしまうこともあるし、いい選手ほど、その目の変化にカラダがすぐに反応する。松山プロやケプカプロとやり取りをしていると、やはりそのクラブとスイングの密接な関係を改めて感じます。

頭を悩ませたウェッジ交換問題 試した総本数は50本

今シーズンの一年間を振り返った時、思い返せば2つのクラブのことが常に私の頭の中にありました。ひとつがウェッジです。サンドウェッジの溝は摩耗ですり減ってくるので、定期的に交換しているのはご存じかと思いますが、松山プロの場合、ウェッジの交換頻度は3カ月に2回ぐらいのペース。それも試合数によりますし、練習場のバンカーの砂質によって早い時は3試合で替えるときがあれば、2カ月ほど全く替えない時もあります。松山プロは56度も60度も練習量がだいたい同じなので、程度の差こそあれ、その2本の交換のタイミングは同じです。

私の中では「メジャーや大きな大会をなるべくいい溝で迎えてほしい」という思いがあり、今回のZOZOチャンピオンシップもそうですが、松山プロが気持ちの入る試合はなるべくフレッシュな溝を充てたい。メジャーや難しい試合はだいたいグリーンも難しいですからね。溝がどのぐらいで変化するかというと、だいたい2週間ぐらいでいい状態になり、その状態でしばらく安定します。しかし、試合よりは練習で消耗するために賞味期限が数百発ぐらいのこともあります。

大敵はバンカーで、砂が硬いときなどは溝の減りも早く、「宮野さん、今週の砂ヤバいっ」(松山プロ)と言われることもあります。それらの事情をひっくるめて、私の中での理想はメジャーのひとつ前の試合で投入し、一試合ウェッジを試しながらその感触を自分のものにして手になじませ、その上でまだフレッシュな状態でメジャーに挑むという流れです。

前置きが長くなりましたが、何を言いたかったのかというと、今年の「マスターズ」以降のウェッジを交換するタイミングが難しかった。結論から言えば、4月のマスターズで使っていたウェッジを「全米オープン」(6月)が終わるまで替えられなかったんです。

発端は今年の5月中旬。マスターズ後の最初の試合「AT&Tバイロンネルソン」でウェッジを交換しよう、という話になりました。今年のマスターズ使用ウェッジは、その時点でだいぶ溝は減っていましたが、溝との相性が良くお気に入りのヘッドではありました。

私の中では、6月に行われる全米オープン前の「ザ・メモリアルトーナメント」までには替えたいと思っていたので、まだタイミングとしては余裕があったのですが、松山プロに新しいウェッジ持っていくと「なんか違う感じがする」となり、組み直すことになりました。その後、組み直したものも実際に打ってもらったのですが、「やっぱりなんか違う」となり、結局その週は交換に至りませんでした。

もちろん新しいウェッジを持っていくときは、クラブのスペック、重量やバランス、グリップの入れ方など、数字上は前モデルに合わせます。ですが、同じものを作ったとしても、プロの感覚だと“何かが違う”んですよね。クラブというのは、ヘッド、シャフト、グリップ、そしてグリップの下巻きテープなども含めて、様々なパーツで組まれていますから、“同じものを作ったとしても同じものにならない”というケースも当然あります。特にウェッジのような0.1yd単位の距離感を出さなければいけない繊細なクラブですから、プロがクラブを持った時の感覚や、見た目の雰囲気など「何か違う」となったら使いたくはないはずです。

実際に、今までもうまく交換できなかった時はありました。それでもだいたい「この辺に鉛を貼れば良くなりそう」(松山プロ)と、最終的にヘッドに鉛を貼ってうまく調整できたんですが、今回ばかりはうまくいきませんでした。

その次のメモリアルトーナメントに持って行ったウェッジもダメ。その後もヘッドやシャフトを替えたり、スパイン(シャフトの硬い部分)の向きを変えたり、同じシャフトを挿し直したり、あらゆる手をつくしても、「なんか違う」はぬぐえませんでした。終いには、エースウェッジのシャフトを抜いて挿し直したりもしましたが、それも違った。結局、全米オープンの時点でウェッジの交換は間に合いませんでした。練習場でも最後まで新しいウェッジを試していましたが…。

最終的に「これだ」と思える一本に出会えたのは、全米オープン翌週の「トラベラーズ選手権」のとき。どんな策を講じたのかというと、結局原点に帰って「日本で組み直した」ということ。僕もちょっと迷路に入っていたので、もしかしたら「スパインを測る機械がアメリカと日本で違うから」とか、極端ですが「接着材で変わったりするかも」と考えていましたからね。

実際にアイアンやウェッジをゼロベースから組む作業はいつも日本の神戸で行っているので、いつものルーティンに戻って、イチから作ってもらいました。神戸でクラブを組む時の測り方、作り方、なおかつシャフトも日本で選別してもらってから組んでもらい、アメリカに送ってもらいました。そのウェッジをトラベラーズ選手権の練習場で打ってもらって、ようやく「これだ!」となったんです。

結局、いろいろなトライ&エラーを繰り返して、試した総本数は50本ぐらい。中には、素振りをして、振り感だけは「これはきた!」(松山プロ)というのもありましたが、球が当たった瞬間に「えっ?」となって、即ベンチ入りしたウェッジもありました。全く同じように作っても、球がいつも低く出ているのが高く出たりして、人が打つとこれだけ変わるんだな、というのは今回すごく勉強になりました。

ドライバーなどは、0.1ydでも前に飛ばしたり、それこそ「今よりいいものを作ればいい」と思えばやりやすい。でもウェッジの交換は、「同じ感触のものを再現する」という目的なので、とても難しい。感覚が答えになりますからね。本当にレップ泣かせの作業だと思います。

3W選びは“最大公約数” ツアーにあるスプーンは全部打った

シーズン中、ウェッジ以外で常に頭の中にあったのは「3番ウッド」です。ここ15年ぐらいで、クラブの進化はものすごいスピードで進んでいますが、その中でもドライバーと同様にスプーンも大きく進化してきたと思っています。スプーンは“やさしさ”の進化がすごく、ヘッドは大きくなって球は上がるし、つかまりも良くなっています。その点ではアマチュアの方も進化の恩恵を受けられていると思うんですが、ツアーで戦うプロゴルファーたちは必ずしもそうではない。プロの中には、今どきのスプーンを使い切れない人も多いのかなと思っています。

パターもあれだけ進化してやさしくなっても、同じ「スコッティキャメロン」を手放さないプロが多くいるのと同じで、スプーンもやさしいが故の難しさがあり、昔から使っているモデルを替えられないプロは多い。プロがスプーンに求める要素はドライバーよりも多く、地面のコンタクトがスムーズにできないとダメですし、高い球や、スライスもフックも打てないとダメ。その上で飛距離も出たほうがよく、パー5で2オンするためには少しでもキャリーが出たほうがいい。一方で、ティショットを飛ばさないようにコントロールする必要もあります。それだけ全てを兼ね備えたスプーンなんて、そうそう出てこないですよね。

再び前置きが長くなりましたが、今シーズンは松山プロもなかなか新しいスプーンに移行できなかった。テーラーメイドの「SIM2」で開幕戦を迎えましたが、シーズン中はいろんな3番ウッドを試しました。PGAツアーにトレーラーを出しているメーカーのヘッドは、全部試したといっても過言じゃないぐらい。スリクソンも含めて他社製品もほぼ打ち、それこそ“見るだけ”で打たなかったクラブもあります。試した中で試合まで持ち込んだのは3機種のみ。それでも試合まで行った“彼ら”は大健闘で、見ただけでダメ、練習場で打ってダメ、練習ラウンドに持っていってダメという3段階をクリアしていますからね。エースになるまでの道のりは本当に長いです。結局、シーズン最後の数試合は開幕戦で使用したモデルとなり、振り出しに戻りました。もともと使っていたヘッドなので、結論は来シーズンに持ち越しです。

松山プロのスプーン選びの傾向を見ると、「難しそうに見える顔」は好きじゃない。“やさしい寄り”の見た目が好きで、比較的サイズも欲しがり、小さすぎるのはNG。だけど性能はやさし過ぎるとダメなので、実際のところその塩梅(あんばい)が非常に難しい。それ以外にも求める項目は多く、中には我々の思ってもないようなのもあって、それこそ「濡れていてもドロップしない」とか、いろんな要素をクリアした完璧なものを探しているんです。さらにスペアも用意したほうがいいとなると、現行品として販売されているモデルから選んだほうがいいのは確かです。

このように、スプーン選びはウェッジの交換とはまた違った難しさがあるわけです。そこに、さらにシャフト選びも入ってきますから…。もう考えなければいけないことが多すぎて、頭がパンクしそうになるときがあります(笑)。

◇◇◇

今シーズンはツアー選手権の連続出場が途切れたシーズンでしたので、レップとしても反省すべきところはあります。でもプレーオフ2戦目のBMW選手権でのプレーを見て、迷いからちょっと一歩出て、「あ、こっちの方向にいくんだな」という印象を感じました。その点では新しいシーズンがすごく楽しみ。2024年シーズンはいい一年になるんじゃないかとワクワクしています。(取材・構成/服部謙二郎)

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ツアー現場からの情報報告では動画や画像を織り交ぜて松山の表情も伝えるようにした(撮影:村上航)

宮野敏一氏 プロフィール

宮野敏一(みやのとしかず)。2020年からRoger Clevelanad Golf Company,Inc./駐米プロ担当としてハンティントンビーチに赴任。PGAツアーやLPGAに通い、選手のクラブアッセンブル、フィッティングを行う。レップ仲間からは“PANDA(パンダ)”の愛称で親しまれている。

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