ここはゴルファーの楽園か?「天然芝のような人工芝」を目指したアプローチ練習場を潜入取材

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
7月3日にオープンした「ZAMA WEDGE RANGE」

人工芝なのに難しい――。そんな評価をプロたちから受けたアプローチ練習場が神奈川県座間市にオープンした。「ZAMA WEDGE RANGE」だ。グリーン周りの様々なライを本コースさながらに再現し、ダフリ・トップのミスを誘発する。天然芝の質感を追い求め、数多くの人工芝を比較した末に採用されたのは、トッププロも認めた高性能人工芝だった。その開発の舞台裏を取材した。

打ち比べて一番良かったのが「TGLの芝」だった

7月3日にオープンした「ZAMA WEDGE RANGE」は、米国の人工芝メーカーSYNLawn(シンローン)が開発したゴルフ専用人工芝を日本で初めて本格採用した屋外アプローチ練習場だ。同社は、タイガー・ウッズロリー・マキロイが中心となって立ち上げた新リーグ「TGL」で採用される人工芝の開発元としても知られる。

「TGLの芝」と聞けば、それだけで注目を集めそうだ。しかし、施設側が重視したのはブランドではなく実際の打感だった。施設を運営する「ZAMA GOLF」の草薙毅氏はこう話す。「TGLで使われているから採用したわけじゃないんです。打ち比べたら一番良かった。それだけです」。ブランド先行ではなく、あくまで打感で選ばれた。その結果としてたどり着いたのが、この芝だった。

「そんな人工芝、ありません」から始まった挑戦

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
「ZAMA GOLF」を運営する草薙毅氏

草薙氏は本業で建設会社を経営し、ゴルフ場やショートコースの造成にも携わっている。天然芝を扱う現場を知る立場だからこそ、「ショットが打てる人工芝があれば」と以前から考えていた。展示会へ足を運び、メーカーに問い合わせても返ってくる答えは決まって「そんな芝はありません」だった。

景観用や庭用、サッカー場用の人工芝は数多くある。しかし、クラブが地面に入り、芝との抵抗まで再現する「ゴルフ専用」の人工芝は見当たらなかった。そんな中、交流のあった関係者からこんな話を聞く。「海外には人工芝で造られたショートコースがありますよ」。ちょうどアプローチ練習場のリニューアルを考えていたタイミングでもあり、「それなら、全部人工芝でやってみよう」と、日本ではまだ前例のない挑戦が始まった。

求めたのは「日本の天然芝」に近いもの

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
オープニングレセプションには與語優奈を始めプロも多数訪れた

採用の決め手は、「TGLブランドだから」ではなかった。シンローン社だけでなく複数メーカーの人工芝を取り寄せ、何度も打ち比べを重ねた。テストには、森守洋コーチや奥嶋誠昭コーチらも参加し、フェアウェイやラフ、グリーン用などさまざまな芝を比較しながら、「日本のコースに最も近い芝」を追い求めていった。

もちろん、TGLで使用される芝をそのまま持ち込んだわけではない。例えばグリーン用には、さらに速い芝も存在する。しかし、それではプロトーナメントに近い難易度となり、多くのアマチュアゴルファーが普段プレーする環境とかけ離れてしまう。必要だったのは「TGLの芝」ではなく、日本のゴルファーが日頃プレーするコースに近い環境を再現できる芝だった。その考えのもと、試打と調整を重ねていった。

完成はオープン2日前。それでも「まだ完成形ではない」

天然芝に近い打感を人工芝で再現する挑戦は、想像以上に難航した。施設が完成したのはオープンのわずか2日前。調整が長引いた理由は、日本中を探しても参考になる“正解のレシピ”が見当たらなかったからだ。

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
球が跳ねた時の砂もまるで“天然”のよう

打感を左右するのは、芝の隙間に充填する「土」と「木質チップ」の絶妙な配合バランスだ。配合が少し変わるだけで、クラブの抜け方やボールの浮き沈み、ダフリ時の抵抗感まで大きく変化する。土を増やせば硬くなり、木質チップを増やせば柔らかくなる。どちらかに偏れば、本コースらしい感覚から遠ざかってしまう。しかし、その最適な配合を知る人はいなかった。だから打っては調整し、また打つ。その繰り返しが、オープン直前まで続いた。

「施設に来ていただいた皆さんにも、もっと意見をいただきたいんです。まだ完成じゃなくて、ここがスタートラインなんですよ」。

利用者の声にも耳を傾けながら、より天然芝に近い環境を目指して改良を続けていくという。より良いものに常にアップデートしていく施設づくり、ゴルファーにとってワクワクするような話ではないか。

人工芝なのに存在する「順目」と「逆目」

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
天然芝に寄せるため、底も従来(右)と比べて薄い

取材でもう一つ驚かされたのが、施工方法だった。一般的な人工芝は、U字ピンや釘を地面に打ち込んで固定する。しかし同施設では、それらを一本も使わない。

秘密は芝の構造にある。高密度の人工芝に土と木質チップを大量に充填することで、自重だけで安定させているのだ。無理に地面へ押さえつけるのではなく、天然芝のようになじませることで、歩いた時の感触やクラブが地面に入る感覚も、より自然なものになるという。さらに、この芝には“芝目”もある。ロール状で搬入される芝には繊維の向きがあり、その特徴を生かして、あえて逆目が多くなるよう施工した。もちろん天然芝ほど複雑ではない。それでも順目と逆目でボールの転がりやクラブの抜け方が変わるという。

人工芝だから、どこから打っても同じ。そんな先入観も、この施設では当てはまらない。芝の種類だけでなく、充填材や施工方法にまで徹底してこだわった結果、本コースに近い練習環境が生まれた。

変わったのはアプローチ練習場だけではなかった

リニューアルで手が加えられたのは、アプローチ練習場だけではない。併設されているショット用の打席にも、シンローン社のショット専用人工芝「Tee Strike Plus(ティーストライクプラス)」が試験的に導入された。アプローチ用とは異なり、こちらはナイロン100%で作られたショット専用モデルだ。

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
練習場の打席にはショット専用人工芝がお試しで導入された

見た目は一般的な打席マットと大きく変わらない。しかし、その発想はアプローチ練習場の人工芝と共通している。従来の人工マットでは、多少ダフってもヘッドが滑り、ボールがしっかりつかまることはある。そのため、ミスショットがマットのおかげで助けられるケースは少なくない。

一方、このマットではミスがそのまま結果に表れる。ダフればヘッドは減速し、飛距離も落ちる。厳しさはあるものの、それだけラウンドに近い練習ができる環境といえそうだ。

もっとも、新しいマットへの入れ替えに不安がなかったわけではない。打席マットは利用者の満足度を左右する重要な設備だからだ。そこで施設では、利用者350人を対象にアンケートを実施した。その結果、約9割が「このマットに替えてほしい」と回答。「コースに近い」「ダフリ時の感覚がリアル」「コースとの飛距離差が少ない」といった声が多く寄せられたという。草薙氏も「ここまで評価していただけるとは思っていませんでした」と目を丸くした。

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
何十種類もの芝で試した

ショット用人工芝で球を打ったプロコーチたちから最も多く聞かれたのは、「人工芝なのに難しいですね」という言葉だった。

それは人工芝でありながら、本コースに近いシビアさが再現されているから。従来の人工マットのように、少し手前に入っても“滑ってくれる”ということはない。自身のスタジオでも同じショットマットを使用している奥嶋コーチは、「アーリーリリースの人はクラブが刺さってしまう。でも、スイングが安定している人は普通に打てる」と話す。従来のマットでは見えにくかったスイングのクセも、このマットではそのまま結果に表れる。ミスの原因を把握しやすくなるため、より実戦につながる練習環境なのだ。

管理面での大きなメリット

人工芝にした利点は、まだある。草薙氏がもう一つ挙げたのが、「管理のしやすさ」だ。天然芝は美しい景観を保てる一方で、散水や芝刈り、施肥などに多くの手間とコストがかかる。近年は猛暑や人手不足の影響もあり、その維持管理は年々難しくなっている。特に暑さに弱いベント芝を採用するコースでは、真夏に芝を守るため営業を制限せざるを得ないケースもあるという。

一方、今回導入された人工芝は年間を通じてコンディションが安定している。芝刈りや散水は不要で、必要なメンテナンスは土や木質チップの補充程度。耐用年数は約10年とされる。こうした特徴を踏まえ、草薙氏は将来的にショートコースやアプローチ施設、ティイングエリアなどへの展開も視野に入れている。

人工芝の屋外アプローチ練習場がオープン 天然芝の質感を目指した結果「TGL」の芝にいきついた
一見するとまるで天然芝

◇◇◇◇

ブランドや話題性ではなく、「実際のコースに近い環境」を追求した結果、たどり着いたのがこの人工芝だった。そこには、人工芝を単なる代替品ではなく、新たな練習環境として進化させ、ゴルファーの上達を促す狙いがあった。

人工芝は本当に天然芝の代わりになれるのかーー。今回の挑戦は、その可能性を示す一例といえそうだ。(編集部・仮屋美遊)

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