音楽とゴルフ 常識を疑う“仕掛け人”が生んだ観戦スタイル
青空の下で響き渡るミュージック。人気アイドルグループのコンサート…。どちらも野外のライブイベントではなく、男子ゴルフツアーが開催されているゴルフ場での光景だ。「Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント2022」では数々の新しい試みをツアーに導入し、いまや国内屈指の盛り上がりを見せている。
Sansanが掲げる企業ミッションは『出会いからイノベーションを生み出す』。音楽とゴルフツアーはどのように出会い、いかなる相乗効果が生まれたのか。その“仕掛け人”である九州朝日放送(KBC)東京支社長兼総合編成部長の大保一(だいぼ・はじめ 敬称略、以下同)に、実現へと至るまでを聞いた。
No.1の大会作りを目指して渡米
大保が初めて担当に加わった2016年大会。奇しくも石川遼が大会初優勝を成し遂げ、スーパースターをディフェンディングチャンピオンとして迎える翌年へ「一番の大会を作ろう」とテーマを掲げた。
ならば、世界で最も盛り上がり、ギャラリーを集める大会を参考にしたい。2017年2月に視察へ向かった先は、米国アリゾナ州で開催されるPGAツアー「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」だった。開催1週間で65万人超を動員するツアー屈指のビッグイベント。なかでもホール全体を巨大なスタンドが囲む名物の16番(パー3)は、熱狂と喧騒に包まれる“スタジアム”として知られる。
会場で目にしたあらゆるものが、大保のインスピレーションを刺激した。「退役軍人のOB会や、高校の同窓会といった色々なイベントをやっていました。その“ついで”にゴルフを見る人が多かった。ゴルフに興味のない人に、いかにして来てもらうのか。お父さんひとりで行っていたツアー会場に、家族も一緒に来てもらうにはどうすればいいのか」。そう思うようになったことが、様々なイベントを取り入れる原点となった。
ゴルフの素人だから常識を疑える
KBCでは、報道記者としてパリ特派員を4年間。さらに編成と制作に携わった。豊富な経験を踏まえ、会社の看板を掲げるトーナメント担当を任されるからには、さぞかしゴルフへの造詣も深いのだろう…と思いきや、「全くやったことはありませんでした。なんで土日にわざわざ早起きして出かけなきゃならないんだ、と思っていたぐらいです」という意外な言葉が返ってきた。
「だから、わからないことばかり」と打ち明ける。これを就任当初は、逆に強みにした。静寂を常識とするゴルフ業界にくさびを打ち込む、試合中に音楽を流すという発想。関係各所に思いをぶつけ、冷ややかな対応を受けても、決して引き下がることはしなかった。「なぜダメかと聞くと、理由が明確じゃないものばかりでした」。それならば、音楽で盛り上げよう。方向性が決まると、アイデアが次々とあふれ出した。
選手たちは入場曲に乗って登場し、パー3ホールではDJが野外フェスのように盛り上げる。競技を終えたコース内では、地元福岡を拠点に活動する人気アイドルグループ「HKT48」を招いてライブを行う。ツアーの常識を覆すこれらのイベントは、大保の発案により実現したものだ。