“感覚派”山内日菜子の初優勝を支えた周囲のサポートとクラブ性能
今季の安定感は「飛距離アップ」が要因
山内は自身のプレースタイルを「ショットは下手だけど、アプローチとパターでなんとかしのぐタイプ」と表現する。ただ、昨季あたりから徐々にショットの安定感が高まっていることも実感している。今季のスタッツを見ると、ショット力の向上、特に飛距離アップが目に付く。前回、レギュラーツアーにフル参戦した2019年のドライビングディスタンスを見ると227.30ydだった。しかし今季は234.11yd(5月29日現在)と、5yd以上も平均飛距離が伸びている。
この変化はクラブによる影響が大きいと山内は言う。
「(昨シーズンから使用している)『ステルス』シリーズになって、弾道が変わりました。以前よりも強い球が打てていて、ランが出るようになりました。スイングを変えたわけではないので、クラブの性能で変わるのだなと実感しています」
山内は今季「ステルス2 ドライバー」を愛用している。これは、テーラーメイドの契約プロの間では恒例となった宮崎での合宿の際に、クラブフィッティングを行って決めた。クラブ選びは“感覚派”だと話す山内だが、この合宿ではテーラーメイドのツアーバスがゴルフ場まで訪れ、ツアー会場と同じレベルのサポート体制を整えている。弾道計測器を使ってショットデータを分析し、ツアーレップとじっくり会話をしながら、その時に一番合ったクラブを選んでいる。
「最初に打ったのが『ステルス2 ドライバー』で、スタッフの方も『これでいいね』というぐらいすんなり決まりました。打感も良かったですし、打音も高すぎることなく心地よい音で好きでした。データ的にも良かったので、私も自信を持って『ステルス2』に決めました」(山内)
山内のフィッティングを担当した鵜野も、「カーボンフェースの恩恵で、ボール初速が上がっていました。それに合わせて、バックスピン量と適正な打ち出し角が取れていたので、キャリーも出ていたし、ランも含めて5ydから10yd近くは平均飛距離が伸びていました」と明言する。このチョイスが初優勝に大きく貢献したのは言うまでもないだろう。
3カ月に1回以上ウェッジ交換するほどの練習量
それでも、山内にとってショートゲームが生命線であることに変わりはない。練習時間の多くをアプローチやバンカーショットに費やしている。これには鵜野も「ウェッジを見れば、練習量が多いことは分かります。フェースやソールの減りが激しいので、ウェッジのチェックは頻繁に行っていて、交換は3カ月に1回か、それ以上のペースです。他の女子選手と比べても確実に短いです」と話す。
ウェッジは「ミルドグラインド 3」の48度、52度、58度の3本を入れている。バンカーや浮かすアプローチが得意だと話す山内は、58度のウェッジはローバウンス(8度)モデルを使い、振り抜きの良さにこだわる。今回の取材の合間にも鵜野はウェッジをチェックし「まだ大丈夫だと思いますけど、いつでも替えられるように新しいのを準備しておきますね」と声を掛けていた。こうした日々のサポートが、山内のプレーを支えていることが分かるだろう。
地元出身の先輩のようにツアーで輝き続けたい
初優勝のおかげで、一気にレギュラーツアーにフル参戦できる立場になった。昨シーズンまでは体力面に課題を感じていて、試合終盤になると思ったようなゴルフができなかったという。そのためオフシーズンの間は、苦手だったウエイトトレーニングを毎日行い、連戦を戦い抜くスタミナをつけるようにしてきた。シーズン中も週1回以上、トレーナーとオンラインでつなぎ、トレーニングに取り組んでいる。これが実を結び、体幹が強くなってきたことを実感しており、「(大会終盤でも)やりたい動きができるようになってきた」と話す。
これからも連戦の過密なスケジュールが続くが、山内は「今季中の2勝目」を目標に掲げる。専属のコーチがいないため、ショットの調子は自分で考え、調整を加えている。それでも悩んだ時は、父親に動画を送ってアドバイスをもらったり、テーラーメイドのツアーバスに訪れて、ショットのデータを取ったりしている。
「ツアーバスには頻繁に伺っています。クラブの相談やグリップの交換を気軽に頼んだり、お菓子を食べるのも楽しみの一つです。この前はバスの中で鵜野さんと一緒に五平餅を食べました」(山内)
ツアーレップとは、クラブの相談だけでなく、ツアー中の気持ちのリフレッシュとなる会話も楽しんでいるそうだ。
山内には、先を見据えた目標がある。それは宮崎出身の大先輩・大山志保のように長くツアーでプレーすることだという。
「志保さんの姿を見て、いくつになっても上位で戦える選手ってすごくカッコいいなと思って憧れています。時間はかかったけど、レギュラーツアーで戦うというスタートラインに立てたので、ここから頑張っていきたいと思っています」
初優勝はまさに通過点。これからも長くツアーで戦い続けるために、テーラーメイドのサポートを受けながら、山内は成長していくことを誓った。