「ロフトを1度寝かせました」その効果にびっくり/鍛治郎が行く!アイアンフィッティング最前線 #2タイトリスト編
マッスルバック、ハーフキャビティ、ポケットキャビティ、中空とアイアンの多様化が進み、依然としてストロングロフト化の流れがある。その中で人気ランキングや売り上げの状況を見ると、“鍛造キャビティ勢”が上位を占めているのが分かる。アイアンのモデルが増えたこともあってか、各メーカーが自前のスタジオや施設を設けて、自社クラブのフィッティングにチカラを入れているのだ。そこで、編集部きっての鍛キャビ好きこと鍛治郎(仮名)が“エース”を探しに、各メーカーのフィッティングを巡る旅に出た。今回はタイトリスト編だ。
アクアラインを越えた先の秘密基地
ことし7月にオープンした、国内初となるタイトリストのアウトドアフィッティング施設「タイトリスト フィッティングセンター」に足を運んだ鍛治郎。ザ・カントリークラブ・ジャパン(千葉県)の総合練習場内にあるこの施設は、最新鋭の弾道計測器を完備しつつ、タイトリストの人気モデルやシャフトメーカーのカスタムシャフトが整然と並ぶ秘密基地のような佇まい。トッププレーヤーも訪れるという。
建屋内の打撃スペースからは、300ydを超えるフラットかつ広大な屋外フィールドに向かってフルショットができる。打球の飛びざまを見ながら弾道データをチェックして、最先端かつ精密なクラブフィッティングが受けられるのだ。鍛治郎が「こういうフィールドでいつも練習できたらな……」とうらやむ充実ぶり。
フィッティングをしてくれたのは、タイトリストのフィッティングスペシャリスト・井上博通さんだ。
「アイアンは“狙うクラブ”なので、できるだけイメージに近い弾道で、打ち出し方向も安定することが重要です。そして、しっかりとスコアにつながるクラブを一緒に見つけましょう。今日はタイトリストの代表的なボール『プロV1』『プロV1x』の2種類のうち、どちらかを選んでいただいてからフィッティングを進めます」(井上さん、以下同)
マイクラブの弾道データを計測する
「アイアンのフィッティングをするときに、いつもお話ししていることがあります。『3D』といって『ディスタンス(DISTANCE)コントロール』(安定したキャリーディスタンス)、『ディスパーション(DISPERSION)コントロール』(少ない左右のバラつき)、『ディセント(DESCENT)アングル』(最適な落下角度を得られる弾道の高さ)。この3つの数値をしっかりそろえることを重視しているのです」
まずは鍛治郎の7番アイアンから1番手ずつ試打&計測。モニターに映し出されたアイアンショットの分布図を見ながら、こう分析する。
「ボールスピード(初速)が、7Iで最大50m/sくらい出ています。これが6I・5Iになると、クラブが長くなるのでもっとスピードが上がっていかないといけません。一番手ごとに2.24m/sずつ上がるのが理想。そうすると各番手のキャリー、高さ、スピン量がしっかりと出て、役割を果たしてくれるんです。鍛治郎さんのデータは6番も5番も50m/sくらいで“渋滞”している(距離が詰まっている)んです。6Iだと52~53m/s、5Iだと55m/s以上は出て欲しいところです。
もう一つは、スピン量です。若干少ないですが、今日の目標は(7Iで)6,000回転以上を平均して出したい。できれば6,500回転くらいまでいきたいなと思っています。
最後に、着地角(落下角)について。7Iで理想の着地角は45~55度と言われています。鍛治郎さんは48度としっかり数値が出ているのでそこはキープしつつ、前述した安定性とスピン量のコンビネーションがそろってくるといいでしょう」
つまるところ、7番までは飛距離の階段を適正に築けていたが、6番より上の番手は少し怪しいということだ。
プロご用達の「T100」「T150」にグッと来た
タイトリストのアイアンフィッティングはここからが本番。世界のトッププレーヤーも多く使う新作アイアン「T」シリーズのテストがスタートした。試打した番手は7I、シャフトは鍛治郎が使う「ダイナミックゴールド(DG)」(S200)だ。
1モデル目は、ツアーモデル「T100」。7Iで33度とロフトがしっかりとあり、球が上がりやすくてスピンが入り、グリーンに止まりやすい。見た目がシャープで操作しやすいのに、打点ミスにほどよく寛容なあたりがプロに好まれるポイントか。
弾道データ(平均値)を見ると、打ち出し角が21度と出ているし、スピン量が目標とする6,000回転に達し、着地角は47.5度という“止まる球”だった。キャリーは143yd、トータルで147yd。フィーリングもかなりいい。
続いては「T150」。アスリート好みのクラシックな形状をベースに「T100」に比べればやや大きめのヘッドサイズで、ロフトが1度立っている(7I/32度)。そのぶん「T100」よりは打ち出し角とスピン量は少し下がったが、初速が上がってキャリーで154yd、トータルで160ydに達した。着地角は45度と、7Iの理想値をクリア。何よりも、このクラブでは立て続けにナイスショットを放ち、弾道データのバラつきが少ない。適当な言葉が見つからず恐縮だが、「打ちやすい…!」
3つめに渡された「T250」は、ここまでのモデルに比べるとサイズが大きく見えるが、顔つきやバックフェースのデザインはシンプルで、鍛治郎にとっても安心感があって構えやすい。実打すると「おっ、球が高いな」「打感がしっかりしてる」と思わず口にしていた。7Iのロフトは30.5度とやや立ってはいるが、中空構造によってロフト以上に上がりやすい。続いて「T」シリーズの中で最も大型のヘッドで、7Iで29度とロフトが立っている「T350」を打つ。「最も初速感がある」と鍛治郎が言うように、出球が明らかに“スパーン”と速く飛び出して飛んだ。
最後に渡されたアイアンは「T250 ロンチスペック」という、鍛治郎にとって初見のモデル。球を打つと「高い! 球が視界から消えた」とビックリするほど高い球が出た。それもそのはず、7Iで35度と「T」シリーズの中でロフトが最も寝ている。しかも、ヘッドが軽めなので、HSが速くない人や球が上がりにくい人が、番手ごとの“キャリーの階段”をそろえやすい。今どきのストロングロフトとは逆を行くコンセプトだが、確かなニーズがある実戦向きのアイアンだ。
「T」シリーズの全5モデルを打ち終えて、こういう分析結果になった。
「いま打っていただいた中で『T100』と『T150』の感触が良かったようですね。『T100』は6,000回転まで行っているので、ポジティブになる要素は含まれているでしょう。それから、ボールスピードが安定しているのは『T150』で、このモデルも候補に入りますね」
ロフトを寝かせたのに、初速が落ちないってどういうこと!?
ここからは「T100」と「T150」のヘッドに、「DG」「モーダス3」「プロジェクトX」「AMT」、それらのフレックス違いも含めて、アイアン用のカスタムシャフトを挿し替えながら試打&計測。この施設ではフィッティング専用ヘッドを用いてその場でロフト・ライ角を調角したり、リシャフトしたりしながら試打できるのも強みだ。結果として、ヘッドは「T150」が合っていて、シャフトは「プロジェクトX」(5.5)と「DG」(S200)のどちらかで鍛治郎は迷った。
すると「こういうときは芝の上で打ってみましょう。ご希望によっては最終確認で芝からも打てるんです」と井上さんは言い、建屋の前にある外の芝打席でテスト。鍛治郎には「プロジェクトX」(5.5)のほうが打ちやすく、弾道データが安定した。
打ちやすいヘッド&シャフトが見つかって、フィッティングはこれで完了――というわけではない。「打っている球を見て、ちょっと左に行っていると思うので、ライ角を1度だけフラットにしてみましょう」
渡されたクラブを打ったのだが…こりゃすごい。打球の打ち出しはターゲット方向に補正された。そこからさらに調整されたアイアンを渡されて打つと、思いもよらないメリットがあった。
「2球目を打ったときに、先ほどと同じように突っかかり気味に入りましたよね。でも、今回は“刺さり”が収まりました」。確かに、芝を噛んだ感触があったが、ミスショットにはなっていない。井上マジック、今度は何をした!?
「ロフトを1度寝かせ、それによってバウンスが1度増えました。結果としてソールの抜けが良くなり、ボールにコンタクトするまでのスピードが落ちないんです。ですから、ロフトを寝かせてもボールスピードが減速しません」
なるほど、ロフトを立てたり寝かせたりすると「球が飛ぶ・飛ばない」とか「球の高さ」ばかりに目が向いてしまう。しかし、それだけではなく、バウンスが大きくなる効果まで見越して、ロフトをいじってくれたのだ。
「悪いコンディションになるほど、バウンスの恩恵はあります。雨が降ったり“ベチャベチャ”なライがあったり、ラフだったり。そういうときにバウンスが効いてくれるし、打点も安定するんです。しかも鍛治郎さんは、ロフトを寝かせたことでスピンが少し増えました」
ロフトを寝かせるのは飛び過ぎを嫌がるパワーヒッターだけかと勝手に思っていたが、一般のアマにもバウンス効果をもたらす意味があったとは。ひとつ学びました。
5IとPWは“ブレンディング”で
ここまでは7Iのフィッティングを行ったので、仕上げはその下の番手と上の番手のつながりをチェックすることに。小さいほうの番手を試打していくと、アイアンセットのPWよりも46度のウェッジのほうがコントロールしやすくて、悪い条件でもスピン量のバラつきが抑えられるという。
「(小さい番手の)ご提案としてはT150を9Iまで入れて、PWは『ボーケイ SM10』(ウェッジ)にすることです。ただしライ角は、アイアンと一緒で1度フラットにするので、球が左に行くことを抑えられて安心して打てるでしょう」
7Iより大きい番手のチェックも欠かせない。鍛治郎にとって鬼門とも言える5Iは「T150」「T250」「T350」を打ち比べた。すると5Iでは「T250」のサイズ感がちょうどよく、打点ミスをしても初速の落ち方が少なくてタテ距離が最も安定する。しかも、5I→6I→7Iとキャリー差が整ったことで決まり。
今回のフィッティングの結果、5Iは「T250」、6I~9Iは「T150」、PWの代わりに「ボーケイ SM10」(46度)というブレンディングセット(アイアンを複数モデル組み合わせたセットをタイトリストはこう呼ぶ)。そして、全てのライ角を1度フラットにして、46度以外はロフトを1度寝かせる。シャフトは46度まで「プロジェクトX」(5.5)を挿して、クラブ長さは標準にする。鍛治郎のアイアンフィッティングは、これにて一件落着!(編集部/鍛治郎)
イラスト:亀川秀樹
写真:有原裕晶