遅延宣告で途中棄権 11年前の騒動を振り返る 三塚優子 <前編>
「フツーが楽しい♪」引退 結婚 バイト生活… 三塚優子が歩む第2の人生
2007年のツアーデビューから瞬く間にトップ選手への階段を駆け上り、11年には国内メジャー「日本女子プロゴルフ選手権」を制した三塚優子。その後はケガに苦しめられて失速し、思うようなプレーができないまま、17年以降は一度も出場することはなかった。現在はゴルフ漬けの毎日からかけ離れた世界に身を置く、彼女の目に映る景色とは――。ツアー通算4勝プロが、前向きに歩き出した第2の人生を語る。
ケガへの恐怖感と周りから取り残される焦り
―現役時代、右ひざのケガに苦しめられた?
「右ひざはプロになる前から良くなくて、半月板の半分が体の中で散ってしまっている状態で、ずっとプレーをしていました。当時はゴルフをすることが楽しすぎて、練習量も相当多かったので、徐々に体が耐えきれなくなったのだと思います。基礎的なトレーニングをそっちのけに、ショット練習ばかりに打ち込んでいたことも要因のひとつだったのかもしれません」
―ケガが原因で結果が伴わなくなった?
「そうですね。ケガ自体も原因ですが、ケガが治っても、またいつ発症するかという恐怖感と常に戦っている状態でした。逆にケガを気にして練習量を減らせば、他の選手に取り残されてしまうという焦りもあり、その狭間でもがき苦しみ、段々とゴルフに対するモチベーションが下がってしまったように感じます」
―一番影響が大きかったケガは?
「2016年の『フジサンケイレディスクラシック』最終日に、15番ホールの2打目で、左手を痛めてしまったことです。木の根元にボールがある状況で、根の硬い部分に気づかず、振り抜いてしまって負傷。右手であればまだ良かったのかもしれませんが、グリップする際の軸となる左手の指だったため、その後はまともに握ることができなくなってしまいました。いま思うと、それが現役生活にとどめを刺した大きなケガでした」
ゴルフとかけ離れた世界
―ツアーから離れて何をしていた?
「アルバイトです(笑)。前々からゴルフとは関係のない仕事をしてみたかったので、ケーキ屋、ハンバーガー屋、ドーナツ屋、そしていまはパン屋に勤務しています。プロゴルファーを目指す前から、家の近所のパン屋さんに憧れがあって。いまは早朝5時に起きて、フルタイムで働いていますが、毎日とても楽しく過ごしています」
―毎日楽しい…?
「はい。これまでずっとゴルフしかしてこなかったので、一般的なアルバイトの人にとっては些細(ささい)なことでも、私の目には新鮮に映ります。時給が高い安いは関係なく、働いていることが楽しい。何かを作って没頭できる環境が楽しい。いままで気がつかなかったのですが、実はコツコツ型なのかもしれません。地道に一つひとつ何かを作ること自体が、いまの私にとっては楽しく感じます」
―2017年に結婚して主婦業も楽しい?
「最初はお米の炊き方も包丁の握り方も分からず、ネットで検索するところから始めました(笑)。悪戦苦闘しましたが、なるべく安い食材でどれだけ上手に料理できるのか。工夫すればするほど楽しく感じられて、主婦業も私にとっては新鮮なのでとても楽しく、ハマっていきました。現役時代は食事もトレーニングの一環で、ゴルフにつなげるためにバランスを考えながらとっていたので、楽しくなかった…。家庭料理に飢えていたこともあり、料理をすることに目覚めたのだと思います」
ゴルフに似ている登山の魅力
―いまハマっている趣味は?
「登山にハマっています。毎月1回、百名山に登るようにしています。登山はゴルフに似ているところが多く、一歩一歩、辛いと思えることが多いのですが、登っていった先には山頂があって、達成したときの喜びは何物にも代えがたい。耐えて耐えて最後に結果が待っているという共通点が、ハマった理由だと思います」
―他に魅力は?
「登山の醍醐味は、当日だけではなく前日までの準備段階にもあります。よくRPGのゲームをやるのですが、ザックの中に登山道具を入れていく作業が、戦いに備えて装備をする感覚に似ていて楽しい。特に前日は気分が高まって、寝つけないほど。そんな楽しさを味わえる登山は、いまの私の生活に、なくてはならない存在となっています」
―地元でレッスンを開始したと聞きましたが?
「2年前にたまたま旦那さんの上司の方に、ゴルフを教えてほしいとお願いされたのがきっかけです。結婚後、ゴルフから完全に離れていたのですが、周りの勧めもあって2019年の10月に、故郷の茨城・水戸市内の練習場で『三塚優子ゴルフアカデミー』を開校しました(※)。感覚派なので教える技術はまだまだ未熟ですが、生徒さんがすぐに結果を出して喜ぶ姿を見ると、やり甲斐を感じて楽しくなりました」
プロゴルファーに限らず、ケガを理由に現役を退いたスポーツ選手の第2の人生と聞くと、悲愴(ひそう)感が漂う姿を少なからず思い浮かべてしまう。だが、三塚優子にはそんな部分など少しも感じられない。プロ生活で失われたもうひとつの半生を取り戻すかのように、いま彼女は心の底から人生を楽しんでいる。(編集部・内田佳)
※現在はコロナ禍のため休業中
取材協力/サザンヤードカントリークラブ
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