マスターたちのスイングチェック Vol.2ロリー・マキロイ【解説/目澤秀憲】
マスターたちによる祭典がいよいよ始まる。今年は誰がグリーンジャケットに袖を通すのか。開幕2週前に米国でトップ選手を見てきた目澤秀憲コーチが、世界ランクトップ3(ジョン・ラーム、ロリー・マキロイ、スコッティ・シェフラー)のスイングの状態を解説する。第2回は、北アイルランドのマキロイ。
5番ウッドで驚異の初速180マイル超え
久しぶりに生でマキロイを見ましたが、以前より飛んでいる気がしました。5Wでボール初速が「180マイル(mph)出る」と言っていましたからね。180mphはメートル換算で80m/s超ですから、1Wショット並みの驚異的なスピード。計算上は5Wで300yd近く飛ぶわけですから、1Wではどれだけ飛ぶんだろう…(ちなみに今季PGAツアーのスタッツを見るとドライビングディスタンスは平均326.6ydで堂々の1位)。
もうすぐ34歳ですから、普通ならそろそろ飛距離ダウンを気にするところですが、むしろさらに飛んでいるように見えます。この先どうなっていくんでしょうね。PGAツアーのタフなコースセッティングで、あんなに気持ちよく振れる選手はなかなかいませんよ。
なぜあれだけ飛ばせるのか? やはり大前提として身体能力が高いといことが理由に挙げられます。とにかく「振るスピードが速い」のが特長で、普通はあれだけ振ったらコントロールできませんが、それに耐えられる体の強さがある。
クラブを速く振ってみると分かると思いますが、速く振れば振るほど遠心力がかかるので、体はボールから離れやすくバランスを崩しやすい。スピード感を保ったままインパクトでタイミングよくミートさせるのは非常に難しいのです。ボールに対して圧をかけ続けるには、やはりフィジカルで我慢する必要が出てきます。
マキロイは、スピードを出すためのパワーとその速い振りに耐えるためのパワー、ふたつのパワーをバランスよく融合させ、大きな飛距離を生み出しているのです。スイング中、あれだけのスピードを出しながら、前傾角を保って淀みなくクラブを振り切れるのは、世界中を見渡しても彼ぐらいじゃないですかね。
もちろんそこにはクラブが介在するので、振り切って飛ばすための工夫を常に考えています。「44インチ」と短い1Wを使っているのもその一つ。クラブが長いとどうしても寝て下りやすくなります。おそらくその44インチが“振れてかつコントロールできるマックスの長さ”なのでしょう。クラブを短くした分シャフトは硬くなるので、ベンタスの「TRブルー」という「TRブラック」よりは“やさしいシャフト”を使うのもひとつの工夫です。
とはいえ、ちょっと胸が残り過ぎたときなどは、右プッシュも、引っかけも出てしまう。インサイドアウト軌道がきつくなってしまうのでしょう。それでも今は過度なインサイドアウトも減ってきて、ミスの幅も狭くなっている印象を受けました。マッチプレーの時の練習場でも、そのインサイドからクラブを下ろし過ぎる癖を修正している練習をしていました。
マキロイ本人も「体の前にクラブがあるようにしたい」とコメントしています。悪くなると、クラブが体の後ろに残ったままで、インサイドアウト軌道が強くなる。体とクラブの距離をキープするために、なるべくクラブを立ててダウンスイングしたい。胸の前に手がある状態をキープして、クラブをなるべく倒さないようにしたいんですね。ダウンスイングでも体が極端に右に倒れ込むような動きはなく、右に残りすぎないように振っている印象です。実際には、体は右に倒れたほうがスイングスピードは出るのですが、そうなるとコントロールが効かない。そのあたりも絶妙なバランスをとりながら振っています。
ラームとシェフラーに比べて、唯一パットのスタッツが良くありませんが(ストロークゲインドパッティングは全体の175位)、パットがあれだけ入らなくてもマッチプレーで準決勝までいきましたから、今週パットが入ればチャンスは大いにあると思います。テーラーメイドの「スパイダーX」からスコッティキャメロンのブレード型に替えて、パッティングも少し復調気味ですから、期待を持っていいんじゃないですかね。(取材・構成/服部謙二郎)